32話 アズリア傭兵団、夜を朱く燃やす
今回はアズリア、フレア組になります。
「それじゃ、昔みたいにアタシが敵の目を引くから。フレア、アンタが魔法できっちり仕留めてくれよ」
アタシとフレアは、潜入する位置から真逆の城壁へと移動して、遠目で城壁の上で見張っている連中や門番を確認する。
ざっ……と見たところ門番が二人に見張りが四人ほど、全員が帝国軍の兵士だ。
もちろんこれから騒ぎを起こすので増えるのは確定だが、少し兵士の数が少ない気もする。
まあ、城壁の上から矢を射られたら面倒なので、出来れば連中には城壁の外に出てきてもらいたいものだ。
「はっ、このフレア様に任せておきなさいっての。アズリア、あんたこそ下手打ってくたばるんじゃないわよ」
「いやいや、何処かのフレア様じゃあるまいし大丈夫だよ」
「なんですってっ…………ぷっ」
「「あっははははははっ」」
作戦を始める前にフレアとの軽い言葉の言い合いになるが、これも昔と同じだった。
年齢の近いアタシとフレアは、よく敵を倒した数や戦功で競い合いながらこうやって憎まれ口を叩き合ったものだ。
結局は最後に馬鹿らしくなって二人で笑いあって戦場に出て行くのがお決まりになっていた。
そして今回もそう。
アタシは早速、筋力増強の魔術文字を発動させて、隠れてギリギリ目視出来る距離から門番の一人に狙いを定めると。
そのまま大剣を構えて突進していった。
「う……うわっ⁉︎ な、何だ? な、何者だ貴様っっ⁉︎」
いきなり視界に飛び込んできた人影が殺意を剥き出しにして真っ直ぐ自分に向かってきたのだ。驚かない者はいないだろう。
本当なら驚きの声を発する前に、持っている武器を構えて迎撃体勢を取るのが正解だったが、混乱していた門番はとうとうその正解にたどり着く事は出来なかった。
アタシはほぼ無防備な哀れな門番の肩口に大剣を振り下ろし、鎧ごと斜めに胴体を斬り裂いていく。
誰もが見てわかる致命傷だ。
もう一人の門番がようやく目の前で起きた状況を整理出来たようで、武器を構えた時にはアタシはその場を離れるために駆け出していた……出来る限り連中がアタシを身失わないよう加減しながら。
「て、敵の襲撃だっ! 相手は一人だがこちらが一人やられたっ! 相手は手練れの可能性が高いっ! 何人か応援を連れて来てくれっ!」
重い門が開くと、街の中からは十人程度の兵士が松明を掲げてアタシを追って出てくる。
どうやら作戦の第一歩は成功したみたいだ。
後は外に釣り出せた連中を、フレアがどれだけ倒してくれるかになる。
「じゃあアタシはそろそろ闇に紛れるとして、久々にフレアのお手並みを拝見するとしますかねぇ」
ある程度エクレールから距離を離した位置まで帝国兵を誘い出したところで、アタシは「夜闇を纏う」の魔術文字を発動させて姿を隠す。
いきなり追っていた対象の姿を見失ったため、わざわざ分散してアタシを捜索する帝国兵ら。
その様子を別の場所から観察していたフレア。
「うふふ、やってきたやってきたわ。怖いモノ知らずの帝国兵が、まさかこんなとこでやられるために……ね」
彼女が使う火魔法の一つに、物の熱さや冷たさを視覚で見ることが出来るようになる「温度の視覚化」という魔法がある。
その魔法の効果で彼女は、視界の悪い戦場でも敵の体温で位置が捕捉出来るという長所を持っていた。
しかも今は夜。
帝国軍はエクレールから離され、彼らの視界は完全に松明の明かりに依存しきっていた。
……だから、その拠り所を崩すとどうなるか。
「────爆ぜよ」
松明の火種を触媒にして発動させた魔法で、突然自分の手元で爆発が起こり、急に視界を塞がれた帝国兵の混乱と恐怖は相当なモノだった。
「我が右手に集え紅き猛き焔の欠片たちよ……」
松明の持ち主は腕を爆発に巻き込まれ、手首から先が消し飛んでいたり、酷い火傷だったりでもはや戦力にはならないだろう。
視界が暗闇に覆われたことでまだ夜の闇に慣れず、先程まで並んで歩いていた松明持ちが今どんな目に遭っているかを知らないでいたのは、唯一良かった点なのかもしれない。
「……紅き種となり我は命ずる、生命を糧とし咲き乱れよ大輪の炎の華よ」
……だから気付かれなかった。
これだけ長い詠唱を彼女がしていたことに。
その詠唱が終わり、魔力が掌に握り込んだ護符に集中していく。
火魔法を得意とし、故に「朱色」の異名を持つフレアが行使出来る、アタシが知る限り最大の上級魔法。
「……燃えなさい────灼熱の紅蓮華」
掌から生まれた赤い閃光が幾本にも分かれ、彼女が認識した「敵」を貫いていく。
そして、敵に着弾した閃光はその高熱を解き放ち、混乱していた帝国兵は次々と燃え上がり、身体を焼き焦がしていく。
その火の粉が散る様が、まるで夜闇に咲き誇る花のように。
「……ふぅ。はい、とりあえず今追ってきた連中は残らず焼いておいてあげたわよ、アズリア」
「……あ。いたの気付いてたんだ」
まるで部屋を片付けたかのような言い方で、門から出てきた追手の連中を全滅させたのを、闇に紛れている筈のアタシに向かって教えてくれるフレア。
……彼女の感知魔法の厄介なのは、アタシの「dagaz」の魔術文字すら通用しないってコトなんだよねぇ……
「灼熱の紅蓮華」
術者の掌から複数の紅い光線を放ち、光線が貫いた対象のみを紅蓮の炎で包み込み焼き焦がす火の上級魔法。
比較的に周囲の二次被害が発生しやすい火魔法の中で指向性に優れた効果を持ち、術者の魔力容量により発生させることの出来る光線の本数は増加する。
フレアは所持している護符の効果で魔力を増幅しており、一度に10を超える本数を生み出す事が可能となっている。




