表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/1782

31話 アズリア傭兵団、夜に動く

 薪を拾いながら、目立つ荷馬車や馬が城壁からある程度隠すことの出来るような場所を探しておき。

 日が落ちかけ空が朱くなりかけた頃に、エルが馬車が到着したと報告するためにアタシを探していた。


「あ、いたいたアズリア。ようやく馬車が到着……って、それ……っ?」

「……皆んなには内緒だからな、エル」


 アタシは引きずっていた荷物を繁みに隠して、何気ない顔をしながら荷馬車を御していたトールに手を振る。


「おーいっトール、コッチだコッチ。帝国軍の連中に見つかると面倒だから手早く頼むよ」

「いやあ、やっぱ軍馬と馬車とじゃ速度が全然違うな。コッチも休憩無しで走らせてきたんだがな……」

「いやいや、日が落ちるまでにエクレールに到着出来たんだ、寧ろ想定以上だよ」


 続いて荷台から降りてきたトール以外の傭兵団連中は、皆一人の例外なくフラフラになっていた。

 降りてきた途端に地面にバッタリと倒れたり、揺れで酔ったのかその場で胃の内容物を吐き出していたりと散々な様子だった。 


「……うげ……あー……ホント酷いメに遭ったわぁ……」

「……ああ、全くだ……エクレールに着く前にくたばるかと思ったぜ……うぷっ」


 アタシたちには時間がない。

 だから出来れば今晩から動きたいのが本音だ。折角、活気付けようとしていいモノ(・・・・)を用意したのだから。

 なので、せめて少しでも体調が元に戻るよう引き続き、野営の準備はほぼアタシ一人で行っていた。

 トールとエルには、馬車や馬がエクレール側から見えないよう木の枝や落ち葉を使って隠しておいてもらっていた。


 到着したそうそう、顔を真っ青にしたまま地面に寝転んでいた傭兵連中のうち、比較的まだ平気だったエグハルトとオービットが、鼻腔をくすぐる謎の芳香を感じ取っていた。


「……ん?何だ、このニオイ……」

「ああ、俺も思った。この何とも言えない、食欲をかき立てる香りは一体……」


 ふと見ると、さっきまで吐き気と闘いながら伏せっていたフレアをはじめとした傭兵連中もむくりと起き上がって鼻をひくつかせていた。

 

「おーおー、あれだけゲーゲー吐いてたのに食欲湧いてくるって、さすがは傭兵だね。どんな時でも食わなきゃ戦えないもんなぁ」

「アズリア?この香りは……もしかしてお前が?」

「ああそうさ。出来れば今晩から帝国軍と事を構えるかもしれないからね。景気付けに晩飯にはいいモノを用意したんだよ」


 実は、まだ馬車が到着する前に一人で野営の準備をしていたアタシは、平野に一頭で彷徨っていた猛者牛(クレイジーブル)を発見し。

 筋力増強(ウニョー)を発動させ、そのブルの首を一撃で斬り落とし胴体部分を何とか解体していたのだ。

 猛者牛(クレイジーブル)の肉は王都の評判の料理人でも競って欲しがるほどに美味なのだが、普通の狩人や冒険者では太刀打ち出来ない強さなのだ。


 そんな解体した猛者牛(クレイジーブル)の肉塊に、砂漠で仕入れた香辛料や有翼族(イーリス)から貰っていた岩塩を擦り込んで。

 焚き火とは別の火を使って、火加減に細心の注意を払いながら時間を掛けてじっくりと火を入れた、そんなブルの肉塊を一人前に切り分けていってエルが皆に配っていく。

 

「……コレって、ホントにあの大味な猛者牛(クレイジーブル)?」

「いや……実は俺、猛者牛(クレイジーブル)なんて高級な肉なんてまだ口にしたことないですぜ……」

「それに……アズリアの姉さんが作ったって……大丈夫なんですかい?」

「ていうか……アズリアが料理出来たってことにあたしは驚きなんだけど……」


 せっかくの焼き上がりを用意したのに、皆んな肉を口に運ぼうともしない。

 アタシの料理の腕を思いっきり疑ってるのがヒソヒソと話している会話の端々から聞き取れる。


「なんだよ、猛者牛(ソイツ)を見つけたのは偶然だけど……アンタらに美味しく食べてもらおうと思ってわざわざ解体して調理したんだからね。ほら、食べた食べたっ」


 アタシが急かしたことで、皆ブルの肉をおそるおそる口に運んでいった。

 そして……肉を噛み締めていくうちに、皆んなの表情が驚愕と陶酔が入り混じったものに変わっていった。


「ん〜ッ!何これ何これ!……口で溶けたぁ……」

「歯応えがあるのにホロリと(ほぐ)れて……」

「味付けも塩だけじゃなく、肉に振られた香辛料が肉の旨味を思いっきり引き立てていて……」

「……ああ、美味いっ!」

「アズリアって……こんな料理上手かったんだ。うん、ごめんね、一口食べるまで疑ってたわ」


 皆の大絶賛の声を聞けただけで、準備してた時の手間や苦労が全部……とは言わないまでもある程度は報われる思いだ。

 それを肴に、鉄筒(すいとう)にこっそりといれておいた麦酒(エール)をグイッと飲み干して喉を潤していった。


 ……そんな晩飯を終えて、夜も更けていき。

 アタシたちは本格的に、エクレールをどう攻略するのかを話し合う……というよりは傭兵団のやり方をエルに説明する事にした。


「……なるほどね。アズリアを破城槌(ラム)の代用にするのは納得したけど。なら最初からアズリアに扉破らせたらいいんじゃないの?」

「そう簡単にはいかないのさ修道女(シスター)。扉をアズリアに破壊してもらっても、それで帝国軍(むこう)の全戦力が撃って出てきた場合、数で圧倒されたらラクレールと同じ結果になっちまうからな」

「……まずはこの街(エクレール)にどれだけ帝国軍が残ってるか知る必要がある。そこで、俺の出番というわけだ」


 説明を受けて立ち上がるのは黒塗りの軽装備と愛用の連結刃(ガリアンソード)を持ったオービット。

 男性にしては小柄な体格で、常に首に巻いた布で口元を隠して表情を読まれないようにしている、一風変わった男なのだが。


「……俺は戦士としては二流だが、潜入や工作は傭兵稼業よりも得意でな。その腕を買われて俺は雷剣に所属しているからな……」

「オービットが街に潜入して帝国軍の数と街の中を調査してもらって。その間にアタシとフレアが組んで、見張りの連中を半分くらい減らしておくよ」

「仕方ないわね。久々にアンタと帝国の連中には私の火魔法を見せてあげるわよっ」


 次に立ち上がるのは、傭兵団にしては珍しい魔法使いのフレア。

 まあ……見た目も服装も派手で、魔法使いと呼ぶより酒場の酌婦と言ったほうが似合っているのだが。


「この野営地の留守はトールに任せたからね。いざとなったらアタシらに構わずに、エルと一緒に馬車でこの場を離れるんだよ」

「ああ、こっちは任せておけよ」


 アタシがまだこの傭兵団にいた時のお約束。

 作戦に動き出す前に行う儀式みたいなモノ。

 アタシは得物の大剣を。

 オービットは愛用の連結刃(ガリアンソード)……ではなく黒塗りの短剣(ダガー)を。

 フレアは魔法を使うのに必要で(てのひら)に握り込んでいる紅石(ルビー)護符(アミュレット)を出して、それを重ね合わせる。


「それじゃ……久々に雷剣の腕前が鈍ってないか、見せて貰うよ。フレア、オービット」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者のモチベーションに繋がるので。

続きが気になる人はこの作品への

☆評価や ブクマ登録を 是非よろしくお願いします。

皆様の応援の積み重ねが欲しいのです。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ