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321話 アズリア、察知した邪悪の正体

 だが、戦場には先の三の門でアタシと互角の戦いを繰り広げたカムロギに。「伝説の十二の魔剣」に匹敵するほどの出来の魔剣を手にしたお嬢(ベルローゼ)までいる。

 そこにユーノが参戦すれば、アタシの懸念など杞憂(きゆう)に終わるだろう。


「……それよりも、だよ」


 アタシは相変わらず、視覚や聴覚には何の異変もないにもかかわらず、頭に直接響いてくるような邪悪な気配を。

 先程まで隣にいた筈のユーノが察知出来なかったのか、という深刻な疑問だ。一度は、今なお暴れている魔竜(オロチ)の放つ威圧感で誤魔化(ごまか)された、と結論を出したアタシだったが。


「さすがに、アタシがこれだけ強く感じてるのに、ユーノが感じてないのは……異常、だよねぇ」


 魔竜(オロチ)から距離を空けたこの場所においてなお、先程まで一緒にいたユーノが。思考している今この間にもアタシが強烈に察知している気配を、まるで知らない素振りだった事に違和感を覚えずにはいられなかった。

 果たして今、アタシが頭に感じている邪悪な気配とは何なのか、を。


 その正体を知るためにも、出来る限り迅速に気配を感じる地点まで辿り着く必要がアタシにはあった。

 誰も同行していないのなら、何の加減もいらない。発動している「九天の雷神(ウラヌス)」の魔術文(ルーン)字の能力を使い、雷が如き速度で駆けようとした──まさにその時。


『邪魔者がいなくなった……そろそろ頃合(ころあ)い、かのう』


 耳に、ではなく。今まで、気配のみを察知していたアタシの頭の中に、直接響いてきた声。

 

 と同時に、アタシが立っている地面が急に振動を始め。先程までは確かに距離のあった邪悪な気配が、足元の真下にまで接近していたのを察知する。


「な……な、んだ、とぉッ?」


 驚きながらアタシは、移動のために背中に担いでいたクロイツ鋼製の巨大剣を構え直し。邪悪な気配の発生源である足元へと警戒を向けた途端。


 突然、地面が大きく瓦解(がかい)する。


「──な、あッ⁉︎」


 足元のみならず、広い範囲に渡り敷き詰められていた土砂が消失し、大きな穴がアタシを飲み込んでいき。

 高所から落下する時の浮遊感が、身体を襲う。


「う、うおぉッ! じょ、冗談じゃないよッッ!」

 

 人間が仕掛けた落とし穴程度なら、魔術文(ルーン)字の力を使って脚を強化すれば。何とか落下の衝撃にも耐え得るだろうが。残念ながら、突然の落下で穴の底を確認出来る余裕は、今のアタシにはなかった。

 しかも通常魔法が使えない以上、月属性の「浮遊(レビテーション)」や風属性の「疾風の翼(フライトフェザー)」のような手段はアタシは選べない。


 しかも、である。


 足元の地面が崩壊を起こす直前。邪悪な気配が、確かに足元深くから発せられているのを察知していた……という事は。

 崩壊した大穴の底に、邪悪な気配の発生源が待ち受けている可能性が大だ。このまま落ちていけば、みすみす敵の餌食(えじき)となるだけだ。

 ならば、取るべき方法は一つしかない。


「ま、まずは足場をッ!」


 まずアタシは冷静になり、自分の周囲を見渡し。地面が崩落したことで一緒に落下していた、比較的に大きな土塊(つちくれ)を利用する事にした。

 質量ある塊を足場にし、蹴り抜く事で反動を付け。まだ残っていた地面に向かって跳躍を繰り返して、上を目指そうとしたのだ。


「コレしか、アタシにゃ方法はないんだッ!」


 重い鎧や大剣を所持した状態で、身軽な四足獣が木々の枝を飛び回るような所業(しょぎょう)など、普通ならば不可能だが。「九天の雷神(ウラヌス)」の魔術文(ルーン)字を発動中のアタシならば、出来ない事ではない。


 まるで自分の身体が黒雲を切り裂く雷光になったかのような身軽さで、一度ならず二度、三度と落下する土塊(つちくれ)を足場とし。次々と無我夢中で土塊(つちくれ)を飛び交っていったアタシは。


「あと……少しだよッ!」


 最後の土塊(つちくれ)を蹴り抜き、跳躍した視線の先には穴の(ふち)が見えた。

 

 まだ残っていた地面へと辿り着いたアタシは、しっかりとした土を踏み締める事が出来たことに安堵(あんど)し。

 この時点でようやく息を大きく吐き出して、穴底への落下を(まぬが)れたのを実感し、胸を撫で下ろしていく。


「は、ぁ、は、ぁッ……は、ぁぁぁぁぁ……ッ」

 

 実は……つい先程、魔術文(ルーン)字を使った状態で移動した時に。この身が雷撃と化した、と言うとやや言い過ぎな感はあれど。あまりに身体が軽く、迅速な足運びが出来た事に正直驚いたばかりなのだが。

 あの時の感覚ならばもしかすれば。土塊(つちくれ)を足場にして、落下する大穴から無事生還することも可能ではないか、と咄嗟(とっさ)に思い。実行に移したアタシだったが。

 

「ほ、ホントに出来ちまう、なんて、ねぇ……ッ」


 コレこそ、魔術文(ルーン)字の可能性であり、同時に怖い面でもある。

 何しろ、今は誰も使う者など皆無な魔術文(ルーン)字は。「火を発する」「全身の力を増す」という表面的な能力以外、アタシが実践し続ける以外に魔術文(ルーン)字が持つ力を知る事が出来ないからだ。

 たった今、目の前の出来事もそうだ。

 発動するに、魔力の消耗が激しいという点と。今でこそ従えてはいるが、魔術文(ルーン)字の中に潜んでいた意思との一悶着(ひともんちゃく)があったからか。「九天の雷神(ウラヌス)」の魔術文(ルーン)字を使う事に、どうしても躊躇(ためら)いが生まれてしまい。術者であるアタシともあろうものが、能力の把握がいまだ出来ていないのが現状だ。


「……だからこそ、わざわざユーノすら離して、全力で魔術文(ルーン)字を解放してみたかったんだけどねぇ」


 落ち着きを取り戻したアタシは。邪悪な気配が相変わらず感じ取れる、地面に空いた大きな穴の(ふち)へと近寄り、穴底をゆっくりと覗き込む。


「さて……そろそろ、出てきたらどうだい?」


 地面の崩壊はかなりの広範囲に渡り。アタシが咄嗟(とっさ)に左右や後方へ飛び退()き、崩壊に巻き込まれずに済んだ選択肢が取れない程の大きさだった。

 そんな穴の底は、覗き込んでも底が見えない程深い闇に閉ざされていたが。アタシは穴底に広がる闇に潜む、邪悪なる気配の正体へと向け言葉を投げ掛ける。


 すると、姿は見せなかったものの。

 穴底からアタシの頭、ではなく耳に声が届く。

 

『ほほ……さすがは威勢(いせい)の良い、二ノ首、六ノ首を討ち倒した勇気ある人間だけはあるわ』


 聞いた限りでは、カムロギやヘイゼルに任せてきた「一ノ首」と名乗る三本目の魔竜(オロチ)とは違い、まるで年老いたような(しわが)れた声。

 穴底から発した言葉からは、アタシが他二本の魔竜(オロチ)の首を退治した事を知っているような内容が含まれていた。

 その時点で、声の主の正体についてはアタシが想像した通りだったのだが。


「ち、ぃッ……やっぱり、魔竜(オロチ)はもう一体潜んでたんだね」


 勘違い、で済めば良かったのだが。どうやらこちらの杞憂(きゆう)は、最悪の形で的中してしまったようだ。

 まさか、カガリ家当主の座を強奪した人物・ジャトラが、同時に二体もの魔竜(オロチ)と協力関係にあった事に。


 アタシは思わず舌打ちをし、悪態を()かずにはいられなかった。

 

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