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311話 一ノ首、白薔薇の魔剣を浴びる

 二剣を突いた瞬間、渾身の力を刺突に込めたためか。噛み締めた奥歯が(きし)み、砕けたような音がカムロギの口から鳴る。


「炎を貫け──天瓊戈(アメノヌボコ)おぉっっ!」


 カムロギの雄叫(おたけ)びを合図に。無詠唱で発動させた「水の槍(ウォータスピア)」の周囲に、漆黒の魔剣「黒風(こくふう)」の力を借りて巻き起こる衝撃波を纏わせ。

 カムロギが渾身の力を込めて、撃ち放った二本の剣先から。風の魔力と水の魔力が螺旋(らせん)を描き、一直線に魔竜(オロチ)へと飛んでいくと。


 既に身体強(ブースト)化を終え、前方へと鋭く跳躍していたベルローゼを追い越していく。


『甘く見られたものだ……二度も同じ戦技(わざ)が、この一ノ首に通じると思うな人間がああぁっ!』


 迫るカムロギの秘剣「天瓊戈(アメノヌボコ)」に、一度身体を傷付けられた魔竜(オロチ)は。自らの周囲に纏っていた黒い炎を、飛来する風と水の槍の前面へと展開する。

 まるでベルローゼが使った魔法の障壁のように。


 カムロギの一撃と、魔竜(オロチ)の巡らせた炎の障壁とが激突し、拮抗(きっこう)する。


『ふははは! 我が獄炎は我が身が傷付き、血を流せば流す程に威力を増す、言わば我が憤怒の具現(ぐげん)よ。その怒り、容易に貫けると──』


 魔竜(オロチ)の前面に、漆黒の炎が壁のように展開された事により。カムロギの秘剣を防ぐと同時に、ベルローゼの突撃もまた封じられてしまう。

 それを理解しているからこその、魔竜(オロチ)が発した高笑いだったが。


『……な、っ⁉︎』


 次の瞬間、魔竜(オロチ)の笑いが止まる。


 カムロギの放った秘剣と、最初は拮抗(きっこう)していた筈の炎の壁が。徐々に風と水の槍の威力に負けて、掻き消されていたからだ。


『ぐ……こ、このままでは炎を突破されるっ!』


 慌てて炎を操り、(おのれ)の前面に展開する炎の厚みを増やしていく魔竜(オロチ)だったが。所詮(しょせん)悪足掻(わるあが)き、炎が霧散する速度に追いつかず。

 魔竜(オロチ)の炎の障壁を貫通する、カムロギの秘剣「天瓊戈(アメノヌボコ)」は。

 

 地面から生えているかのように見えた、魔竜(オロチ)の野太い胴体部の中心を(わず)かに逸れて捉え。

 螺旋(らせん)状の魔力と衝撃波が、胴体の側面部の(うろこ)を十数枚ほど()ぎ取り、側面の肉を大きく抉り取っていく。

 

『が、っっっ⁉︎ おおオオォオオ!』


 だが、胴体部の中心を逸れたせいで。側面に大きく肉を削る深傷(ふかで)を与えたものの。魔竜(オロチ)に直撃をすることなく、風と水の槍は魔竜(オロチ)の後方へと突き抜け通過していってしまい。

 最初に繰り出した「天瓊戈(アメノヌボコ)」程の深傷(ふかで)魔竜(オロチ)に負わせる事は出来なかった。


 それでも、一撃を放った後のカムロギは。口端からは奥歯が砕けたからか血を垂らしながらも、満足そうにニヤリ……と笑みを浮かべてみる。


「俺は、しっかりと役割は果たした……後は任せたぞ」


 そう。

 カムロギが一直線に撃ち出した秘剣「天瓊戈(アメノヌボコ)」が通過した軌道上には、魔竜(オロチ)が生み出した漆黒の炎のない道が出来上がり。

 先に突撃していたベルローゼが、本来ならば全身を覆う炎で守られていた魔竜(オロチ)の胴体部へと直接攻撃出来る……というわけだ。


 当然のように、カムロギが作り出した魔竜(オロチ)への攻撃進路(みち)を、ベルローゼはまさに駆け抜けている最中であった。


「まったく、上出来ですわ……っ!」


 一度は魔竜(オロチ)が展開した炎の壁に、カムロギの攻撃は阻まれたわけだが。その時点においても彼女(ベルローゼ)躊躇(ちゅうちょ)せず、魔竜(オロチ)への突撃の足を一切止めてはいなかった。

 そのためか、まだ魔竜(オロチ)が「天瓊戈(アメノヌボコ)」で肉を(えぐ)られ、怯んでいる隙に。魔竜(オロチ)に対し、必殺の一撃を叩き込める絶好の位置へと踏み込む事に成功するベルローゼ。


 今、ベルローゼの目の前には誰が負わせたか忘れたが。(うろこ)が剥がれ、露出した肉が深々と(えぐ)られた痛々しい傷口が見えていた。

 傷口に重ねて攻撃を浴びせれば。いよいよ魔竜(オロチ)の生命維持に直結する重要な臓器(はらわた)に、魔剣の刃が届くやもしれない。


「この距離、この位置っ、ならば──貰いましたわよ、その生命っ!」


 戦神(ゴゥルン)の祝福たる「白銀の腕(アガートラーム)」を受け、白く輝く両腕で振りかぶった純白の魔剣を。ベルローゼは、目の前に見える魔竜(オロチ)の胴の傷口目掛けて、(いささ)かの情けも掛けずに渾身の斬撃を振り下ろす。

 

 ベルローゼの魔力と戦意に反応したのか、純白の魔剣の刀身からも輝きが放たれ。()き出しとなった魔竜(オロチ)の弾力ある分厚い肉壁を、白く輝く刃は易々(やすやす)と斬り裂いていき。

 

『が……ふ、ぅぅ……ぐ、ふ、ぉぉ……っっっっ⁉︎』


 剣を握るベルローゼの手の感触に変化を覚えたのと同時に、苦痛に(うめ)いていた魔竜(オロチ)の反応にも変化が見えた。

 先程までの魔竜(オロチ)が、派手な痛がり(よう)なのに対し。今、魔竜(オロチ)が見せたのは、あまりの苦悶(くもん)のためか声を失い、身体を細かく震わせている姿だった。

 

「や……やりました、かっ?」

()ったか?」


 魔竜(オロチ)が身体を震わせ苦しむ様を見て。渾身の斬撃を振るった後のベルローゼは、一旦後ろへと飛び退()き。

 秘剣を放った後の硬直が解けたカムロギもまた、前へと踏み出してベルローゼと合流する。


 まさに今放ったベルローゼの一撃が、魔竜(オロチ)へと致命傷を与えた……二人とも、一瞬だがそう思った。

 今の一撃は、決定打だと思わせるに相応(ふさわ)しい、感情と力が理想的なまでに剣に乗った一撃だっからだ。


 だが、周囲で燃え盛る漆黒の炎が消える気配は、未だにない。それは、魔竜(オロチ)の生命は健在であるという何よりの証明だった。


「あの、一撃に耐えた……だと?」


 それどころか、炎の勢いはさらに激しさを増しているように二人は感じる。


「い、いえ、それどころか……(わたくし)の攻撃を(かて)にして、炎の威力を増したというのですか?」


 魔竜(オロチ)が生み出した漆黒の炎は、(おのれ)の身体の傷が深ければ深い程、強い痛みを受ければ受ける程、威力が増すと魔竜(オロチ)の口から聞いていた二人は。

 側面を(えぐ)り、急所に刃が届いたことで、さらに威力を増した報復(ほうふく)の炎に自分らが焼かれる前に。魔竜(オロチ)を倒し切ろうと、再び攻撃の構えを取る。


「な……ならば、話は簡単ですわ!」

「ああ。魔竜(オロチ)が何かをする前に俺たちが倒してしまえばいい」


 今はまだ、ベルローゼの一撃を喰らった魔竜(オロチ)は反撃に動く気配は見られず。

 カムロギの秘剣の効果もあって、魔竜(オロチ)に直接斬りつけるための進路もまだ、そのままの形で残っていた。

 ならば、この絶好の隙を見逃がす手はない。


 再びベルローゼは純白の魔剣を頭上に掲げて。カムロギは、白と黒、二本の魔剣を握った両腕を広げ、魔竜(オロチ)との距離を一気に詰めていく。今度こそ致命傷を与え、魔竜(オロチ)との決着を付けるために。


 だが、二人が魔竜(オロチ)に接敵する事は叶わなかった。


「──な、っ?」

「な……何だ、コイツらはっ⁉︎」


 つい先程まで魔竜(オロチ)と二人の間には、障害物は何もなかった筈だ。間違いなく。

 なのに、突如として二人の前に魔竜(オロチ)への攻撃を(さえぎ)られてしまったのだ。

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