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310話 白薔薇姫、カムロギとの作戦会議

 今、ベルローゼの視線は。全身が黒い炎に包まれた魔竜(オロチ)へと向けられていたのだが。


「それだけの気概(きがい)を見せられるなら、切り込み役を任せても大丈夫そうだな」

「……は? ど、どういう事ですか、それは!」


 並走し、魔竜(オロチ)へと迫っていたカムロギの衝撃の一言で。つい先程顔を背けたばかりの人物の顔をまじまじと見てしまうベルローゼ。

 彼女は当然のように、二人で魔竜(オロチ)に攻撃を浴びせるつもりだっただけに。何故、二人で同時に攻撃を仕掛けないのかをカムロギに問い(ただ)すと。


「……見れば分かるだろう、魔竜(オロチ)の全身に纏わりつく炎が……邪魔だ。下手をすれば、攻撃が届く前にオレたちはあの炎で黒焦げだ」


 カムロギの主張は確かに、間違いでも見当外れでもなかった。

 あと数歩も踏み込めば、握っている武器が届く距離にもなると。魔竜(オロチ)の全身を覆う漆黒の炎の勢いが、予想以上に激しいのをベルローゼも肌で実感していた。

 このまま距離を詰めれば、先に炎で焼かれるのはカムロギが言う通りとなってしまうだろう。

 

 だから二人は、残り数歩の距離を縮めるのを躊躇(ちゅうちょ)してしまっていたのだが。


「で、ですがっ、炎ごとき(わたくし)のっ──」


 ファニーの風属性の防御魔法や、一度は漆黒の炎に突破された「神聖障壁(ホーリーウォール)」とは違い。まだ「絶対障壁(エクサウォール)」が魔竜(オロチ)に破られた事実はない。

 魔力結晶(マナ・ストーン)によって魔力が回復した今のベルローゼならば、問題なく魔法を発動出来る……と踏んで。

 防御魔法を使う事を提案しようとしたベルローゼが、途中で口噤(つぐ)む。


 カムロギが、剣を握る手で言葉を制してきたからだ。


「先程、魔力切れを起こしたのをもう忘れたのか?……魔竜(オロチ)と戦えるのは、もう俺たちしかいないんだぞ」

「そ、そうでしたわっ……」


 一瞬、ベルローゼは忘れていたが。炎を纏った魔竜(オロチ)の身体の表面には、尋常(じんじょう)でなく堅い(うろこ)がある。

 並大抵の武器ならば弾く(うろこ)の硬さは、初撃で放ったアズリアの豪剣を防いだほどだ。背後に控えているこの国(ヤマタイ)の兵士らでは、到底鱗(うろこ)を砕き、傷を負わせる事は出来ないだろう。

 つまり今、ベルローゼとカムロギの二人が倒れれば。それは即、こちら側の敗北を意味するという事を改めて認識する。


 それに、魔竜(オロチ)に致命的な一撃を与えるためには。ベルローゼが一番得意としている神聖魔法(セイクリッドワード)、「白銀の腕(アガートラーム)」による身体強(ブースト)化は必須である。

 身体強(ブースト)化を維持した状態で、防御魔法を使用すれば魔力消費は激増するのは。先程、自らの身体で経験したばかりではないか。


(わたくし)は、もう魔力枯渇で倒れられない……」

「そうだ。お前の魔法が強力なのは散々見せてもらったからな、理解している。だからこそ、使う機会を間違えるな」


 だがそうなると、話は振り出しに戻る。


「ですが、それが(わたくし)一人を攻撃役に添えるのと、何の関係があるんですの?」


 何故に自分(ベルローゼ)一人を先行させるのか、カムロギの意図がまだ彼女(ベルローゼ)には理解が出来なかったからだ。

 カムロギが言うように、魔竜(オロチ)の全身に纏う炎の脅威をただ排除するだけなら。

 まだ確実に炎を防御出来る「絶対障壁(エクサウォール)」をベルローゼに発動させ、カムロギが攻撃役に回るのが妥当ではないか、と。ベルローゼは思っていたからだ。

 

 そこは貴族、「納得がいかない」という感情を全く隠そうとせず、表情に出てしまっていたベルローゼに。

 

「確かに、先程まで仲間を完全に守っていたあの魔法ならば、魔竜(オロチ)の炎を防ぎながら俺が攻撃出来る隙を……(ある)いは、作れるかもしれん」

「だったら!」

「だが。それだと──」


 カムロギは、ベルローゼが想定していた戦術は当然ながら自分も選択肢に含まれていたことを告白し。

 と同時に、その場で足を止めたカムロギが。握っていた二本の魔剣の切先を、魔竜(オロチ)へと向けた状態で。


魔竜(オロチ)へ攻撃を浴びせるのは俺一人だ……攻撃が鈍る。だが俺が、秘剣(こいつ)を使えば」


 胸の前に水平に構えた白と黒、二本の魔剣を矢を引き絞るように力を溜めるカムロギ。途端、魔剣が帯びていた風と水、二種の属性の魔力が切先へと凝縮していく。

 カムロギの秘剣中の秘剣・「天瓊戈(アメノヌボコ)」の構え。

 

「そ……それはっ!」

魔竜(オロチ)の炎を打ち消し、お前が攻撃するための隙を作りつつ。かつ俺も……憎っくき魔竜(ヤツ)に一撃を浴びせる事が出来る」


 ベルローゼの魔力が尽きかけ、(おぼろ)げな意識の中で見た。無数の漆黒の炎を問題ともせず掻き消し、かつ魔竜(オロチ)の胴体に傷を負わせたカムロギの必殺の一撃。

 実は……三の門でのアズリアとの一騎討ちでは、かの女戦士(アズリア)の肩を打ち貫き、苦しめた戦技(わざ)でもある。

 その時も、戦場を広く覆っていた濃い霧で、詳しくは見る事が出来なかったが。

 初めてベルローゼは、自分を窮地から救ったカムロギの秘剣が発動するまでの過程を目の当たりにする事になり。


「わ……わかりましたわ、っ!」


 一瞬だけ思案したベルローゼは首を一度だけ縦に振り、カムロギの提案を受け入れ。

 躊躇(ちゅうちょ)していた足を再び動かし、魔竜(オロチ)との距離を詰めていく。


 勿論(もちろん)、ベルローゼの返事も聞かずに既に戦技(わざ)の構えに入っていたカムロギの雰囲気に押された……というのもあるが。提案を素直に飲んだのは、それだけではない。

 

 ……考えたくはないが。魔竜(オロチ)の漆黒の炎の威力が想定より上昇していて、「絶対障壁(エクサウォール)」すら突破されたとしたら。攻撃役がカムロギだった場合、()(すべ)なく炎に巻かれ、戦線離脱……下手をすれば生命を落とす事になるかもしれない。

 もし、カムロギの秘剣で魔竜(オロチ)の炎を処理出来なかったとしても。神聖魔法(セイクリッドワード)、という方法があるベルローゼならば咄嗟(とっさ)に対処が可能だ、と判断したからだ。


戦神(ゴゥルン)(わたくし)に魔を打ち払う力を──白銀の腕(アガートラーム)っ!」


 魔竜(オロチ)へと踏み込みながら、ベルローゼは戦神(ゴゥルン)への祝福の言葉を口にし、神聖魔法(セイクリッドワード)を解き放つと。

 その瞬間、彼女(ベルローゼ)が魔剣を握る両腕が白く(まぶ)しく輝き始め。同時に、魔竜(オロチ)へと渾身の一撃を浴びせるために。握っていたエーデワルト公爵家当主の証たる、純白の魔剣を頭上高くに掲げていく。


 そんなベルローゼに呼応(こおう)し。

 カムロギもまた、動く。


魔竜(オロチ)、六人の無念……貴様の生命で(あがな)って貰うぞっっ!」

 

 力を溜めていた瞬間、一瞬だけ閉じていた両の眼をカッと見開き。

 剣先に集中させていた、剣を(きし)ませ、渦巻く轟音を立てていた二種の魔力の塊を押し出すように。引き絞るよう構えていた二本の魔剣を、魔竜(オロチ)へ向けて鋭く突き放った。

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