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306話 白薔薇姫ら、攻勢に出る

 セプティナから手渡された魔力結晶(マナ・ストーン)により、今のベルローゼには魔力が戻り。

 一度は心が折れ、手放してしまった魔剣もまたファニーとエルザが回収してくれたからこそ、ベルローゼは握っていられるのだ。

 だから彼女(ベルローゼ)は、(カムロギ)に一瞬だけ視線を向け。


「……誰に物を言ってますの?」


 ベルローゼは左手に持っていた純白の魔剣を、両手で握り直しながら。

 声を掛けてきた人物へ、笑顔でそう答える。


 アズリアの敵であった者に笑顔を見せるのには少しばかり抵抗があったが。

 この笑みは決して心を許した表情ではなく、アズリアと同じく自分を「戦力外だ」と(あなど)った者への怒りと侮蔑(ぶべつ)の感情を隠した。言わば仮面の笑顔だったからだ。


「はっ! そちらこそ、(わたくし)の足を引っ張るような真似をしたら、許しませんわよ!」

「……それだけの気概(きがい)があれば、まだ戦力としては充分だ」


 だが、カムロギとしては目の前の純白の女剣士を微塵(みじん)も、軽視などしていなかった。

 単騎で魔竜(オロチ)へと突撃し、互角以上の攻防を繰り広げ、あわや押し切る一歩手前までの猛攻を見せたベルローゼの活躍を。カムロギもまた目撃していたから。


 それに、戦場を離れる決断をしたアズリアが残した最後の言葉。


『あの場に残した気位(きぐらい)の高いお嬢(ベルローゼ)は、尻を叩いてやりゃ……少しは頑張ってくれるさね』


 (ただ)一人、アズリアとしか剣を交えていないカムロギは。名前を言われたところで「ベルローゼ」が何者なのか分からなかったが。

 今ならば、その言葉が指している人物とは。間違いなく目の前にいる純白の女剣士なのだ、と理解するカムロギ。

 

「確かに、お前の言う通りだな。アズリア」


 何にせよ、強大な力を誇る魔竜(オロチ)と対峙するためには、一人でも戦力は多いほうが良い。

 それにカムロギには、目の前で暴れていた魔竜(オロチ)をどうしても倒さねばならない理由もあった。


 愛する家族を失って失意の底にいたカムロギにもう一度、心の拠り所を作ってくれた盗賊団「野火(のび)」の仲間たち。

 鉄鎖使いのバン、羅王(ラ・オ)を目指し挫折したトオミネ、そして元はカガリ家でない八葉の(かげ)だったムカダ。

 (いくさ)で別々の親と家を失った孤児だったが。カムロギに拾われてから、まるで本当の姉妹のようなイチコ・ニコ・ミコの三人娘。

 六人の仲間を「喰った」魔竜(オロチ)を絶対に許すわけにはいかない。


 感情を(あら)わにし激昂(げきこう)するのではなく、あくまで冷静な態度ではあったカムロギだったが。


「さあ……仇討(あだう)ちの時間だ、行くぞ」


 心の中では激しく燃え上がっていた、怒りと殺意、そして復讐の炎を秘めた視線を魔竜(オロチ)へと向けると。

 白と黒、左右それぞれに握った二本の片刃剣で一度、空を斬り。次の瞬間、武器を持った両手を広げてカムロギが前方へと、跳んだ。


 魔竜(オロチ)への攻撃を開始したのだ。

 

「わ……(わたくし)指図(さしず)するなど、た、立場を(わきま)えなさいなっっ!」


 カムロギが動き出すのを目視するや。慌ててその背中を追い掛けるように、魔剣を構えて魔竜(オロチ)に突撃するベルローゼ。

 これまでに二度、魔竜(オロチ)の肉を斬り裂いた魔剣で、今度こそ魔竜(オロチ)の命脈を断つために。

 最早ベルローゼと純白の魔剣にとって、魔竜(オロチ)の身体を覆う堅い(うろこ)は攻撃を阻む障害にはなり得ない。


 接近戦担当の二人(カムロギとベルローゼ)魔竜(オロチ)に攻撃を仕掛けたのを確認し。

 

「動いたかっ、ならこちらも!」

「把握。戦力にはなれなくても、後方支援はする──」


 背中に生やした竜属(ドラゴン)の翼で空を飛び、上空で待機していたモリサカと。頭に二本の立派な鹿角を生やす鹿人族(ケルウス)の魔術師ファニーは、同時に魔法の準備を始めた。


「空から魔竜(オロチ)を狙う!」


 先程、ベルローゼの救援にと両腕を竜属(ドラゴン)の腕へと変貌(へんぼう)させていたモリサカは。今度は頭部を竜属(ドラゴン)(もの)へと変え、ただ吐息を放つ……わけではなかった。


 見ると、空中にいたモリサカの腹が大きく膨らんだか、と思いきや。

 猛烈な勢いで喉奥から溢れる炎の奔流は、開いたモリサカの口から吐き出されることなく。一旦留まった炎が口の中で集束されていく。

 より強力な炎へと変貌(へんぼう)していたのだ。


 竜属性の魔法、「竜炎息(ドラゴンブレス)」。

 術者の体内にある竜属(ドラゴン)の力を解放し、並の竜属(ドラゴン)が吐く炎の吐息(ファイアブレス)とほぼ同等の威力を発揮する「竜炎息(ドラゴンブレス)」だが。

 モリサカか今、発動させようとしていたのはもう一段階上の威力を誇る炎。数発分の炎を魔力で収縮させ、無差別に撒き散らすのではなく、より狭い攻撃範囲に絞って炎を撃ち放つ竜属性の魔法。


「これが……竜炎息(ドラゴンブレス)よりも強力な俺の最強の魔法だ。準備に時間が懸かりすぎるのが難点だが、な」


 竜属性の魔法には詠唱こそ必要はない。

 だが、代わりに魔力で身体を竜属(ドラゴン)の部位へと姿を変える過程が必要であり。なおかつ、今モリサカが使おうとしていた魔法は。口内の炎を集め、収縮させるための時間が追加で必要だったが。


 既に戦局は開かれ、モリサカの頭部の竜属(ドラゴン)への変容は完了しており。今は炎を練り上げる時間のみを必要としていた。

 そして今、魔法の準備が完了し。


「──竜炎閃(ドラッケンブレイズ)っっっ!」


 魔法の発動と同時に、大きく開いていたモリサカの竜属(ドラゴン)の口から放出されたのは。今までにも何度が見せた、広範囲に吐き出される炎ではなく。


 それは、一本の真紅の光条。

 もしくは燃え盛る炎の槍、というべきか。


 上空から一直線に魔竜(オロチ)に凄まじい速度で放たれた、モリサカの魔法の炎は。

 足元から接敵しようと迫っていた二人にすっかり注意を向けていた魔竜(オロチ)の右眼を容易(たやす)く貫く。


『……お?』


 まるで頭上を警戒すら向けていなかった魔竜(オロチ)は。最初、自分の視界の半分が突如として消えたことに、ただ間の抜けた声を漏らすだけの反応だったが。

 続けて魔竜(オロチ)の口から漏れたのは、絶叫。


『おおおおおおオオオオオオォォォ⁉︎……め、目がっ、目があぁっ、我の目があああぁぁっっ!』


 一瞬遅れ、ようやく自分の眼が一つ潰された事を、眼窩(がんか)からの激痛で理解したのだろう魔竜(オロチ)は。

 だが、警戒していたカムロギとベルローゼの二人は、まだ攻撃を仕掛けた様子には見えなかった事に。慌てて残った片目で周囲を見渡し。


『き、貴様っ……貴様かあああ! この……人間ごときがああぁぁがああ⁉︎』


 自分の片眼を奪ったであろう張本人(モリサカ)の姿を発見すると。

 残ったもう片方の魔竜(オロチ)の瞳には、憎悪と憤怒が宿っているのが一目(いちもく)瞭然(りょうぜん)だった。


『よ……よくも! よくもっっ‼︎ 我の眼を潰してくれたなっ! この恨みと痛み、貴様にそのまま返してやるぞおっっ!』


 そう言うと、魔竜(オロチ)の失った片目のあった眼窩(がんか)からドス黒い血が流れ。その血からも漆黒の炎が勢い良く湧き出てくると。

 憎しみの視線を向けていたモリサカへと、一斉に燃え上がる黒炎がその矛先を向けた。

竜炎閃(ドラッケンブレイズ)

本来であれば、体内で溜めた火属性の魔力を帯びた息を口から吐くのを。口内に魔力を展開し、数回分もの炎の吐息を圧縮、集束していき。濃縮された炎を一条の熱線として、高速で対象へと撃ち放つ「竜炎息(ドラゴンブレス)」の上位魔法。

だが、濃縮された熱線の威力は圧倒的であり。並の城塞都市の城壁であれば一撃で粉砕、貫通する程の威力だったりする。

竜属性の魔法の使い手が世に出ない理由でもある。


実は発動時に、熱線へと変換させる過程で口内に溢れた炎の息の圧縮に耐え切れず、口に溜め込んだ数発分の「竜炎息(ドラゴンブレス)」を暴発させてしまう危険も(はら)んでいる。

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