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26話 アズリアは現在の戦況を知る

 村に到着して、先程までトールが背負って運んでいた、背中に何本も矢を受けた重傷のフレアをまず治療するために。

 村で唯一の神聖魔法(セイクリッドワード)が使えるエルが待機している教会へと連れていった。


「……確かに事情は聞いたけど、ここまで毒を放置してよく生きてたどり着けたのか、彼女の生命力を褒めてあげたいわね……」

 

 フレアの状態を確認したエルの最初の一言がこれだ。

 どうやら矢には毒が塗ってあったようで、エル曰くフレアの容態は「いつ死んでもおかしくなかった」くらい酷かったようだ。


 それにフレアほどではないが他の負傷した傭兵団の連中も、足に毒矢を受けていたり、腕の骨が折れていたりと満身創痍な様子だった。

 さすがに負傷者を野晒し、というのは村長らもマズいと思ったようで。今は住む人間がいなくなり空き屋となっていたロッカの家を借りて、とりあえずは傭兵連中の待機場所とさせることにした。


「そういや……師匠に貰ったあの魔術文(ルーン)字の効果を今、試す時かもしれないねぇ……」


 アタシが「師匠」と呼ぶ大樹の精霊ドリアードから、シルバニア王国を立ち去る際に譲渡された、生命を意味する「ing(イング)」の魔術文(ルーン)字。

 今のアタシがこの魔術文(ルーン)字で、他人の傷や怪我をどの程度癒せるのか、さすがに他人を実験台には出来ないので試したこともなかったが。

 このままフレアの治療が終わるのをただ待つのも、病み上がりのエルばかりに負担をかけるのも気が引けてしまう。

 アタシは覚悟を決めて、負傷してる連中のところへと赴き、


「なあ、アタシの治癒魔法がもし上手くいかなくても……文句言うなよ?」

「え?い、いや、確か姉さん……魔法が使えないって、昔……言ってなかったですかい?」

「……文句言うなら治癒魔法かけるの後回しにするよ」


 アタシが睨みを利かせて連中を一人ずつ順番に見ていくと、教会にいるトールとフレア以外のここにいる全員が例外なく、首を横に振ってアタシの治癒を拒否してきた。


「……にゃろう」


 こうなったら遠慮なく実験台になってもらうからね、覚悟しな。


「それじゃ……一番身体のデカいエグハルト、アンタ確か、身体は丈夫なほうだよねぇ……くっふっふ」

「……ま、待て……アズリア……ご、後生だ」


 なまじ背丈が大きいばかりに矢の的になったのか、複数の矢傷、そして指の骨折のあるエグハルトに。アタシは指をわきゃわきゃと動かしながら怪しい笑い声を上げてにじり寄っていく。


「さあ……上手くいってくれよ……ッ」


 親指を歯で噛み切り、指に作った傷から滲む血でエグハルトの身体に生命と豊(イング)穣の魔術文(ルーン)字を描いていく。


「我、大地の恵みと生命の息吹を────ing(イング)


 力ある言葉(ワード)を口から呟いて血文字に魔力を注ぎ込んでいくアタシ。

 直後、エグハルトの身体に描いた魔術文(ルーン)字が赤く輝き発動すると、彼の身体が淡い緑色の光に包まれた。

 魔術文(ルーン)字にアタシの魔力が喰われる感触とともに肩がずしりと重くなるのを感じ、疲労感からか息も荒くなっていた。


「……お、おお。こ、これは……?」

「……はぁ、はぁ……ど、どうだ、エグハルト? 身体の具合は……」

  

 アタシに現れた明らかな違和感。

 アタシは今まで魔術文字(ルーン)を使ってきたが、魔術文字(ルーン)一つを発動する際にここまで身体が疲労を感じるのは初めてだった。


 しかし、それを指摘する人がいなかったのは……淡い光に包まれたエグハルトの身体に現れた変化のほうがアタシの疲労よりも遥かに劇的だったからだ。

 折れていた指が恐る恐るとゆっくりではあるが、動いていたのだ。


「……な、治ってる。指を動かしても痛く……ない」


 しかも、だ。淡い緑色の光に包まれた彼の肩や背中にあった矢傷の何個かは、どこに傷があったかもわからない程に綺麗に塞がっていく。

 エグハルトの傷が治っていく様子を間近で見ていた他の連中が驚きの声を上げる。


「凄いじゃねえか姉さんっ! 魔法使えない、なんて言ってた癖にこんな治癒魔法使えるなんて……」


 ……いや、やってみるモンだねぇ。


 でも、魔力の消耗とアタシの疲労も結構なものだ。もしかして、エルも治癒魔法を使う時に今のアタシと同じくらい消耗するのだとしたら……と思うと。

 あらためて治癒魔法のありがたみを実感した。


 アタシは他の連中の負傷を治療していく。

 足の骨折に深い刀傷、そして毒矢の解毒と酷い怪我の順番に二人ほど治療し終えると。アタシの体力と魔力が限界を迎えて、床板に大の字に突っ伏してしまった。


「……はぁ……はぁ……もう、限界だよ……」

「……いや、姉さん。これだけ治療してくれたら治療院なら金貨ゴッソリ稼げますって。十分ですよ、これでだいぶ楽になりましたから」


 あとの連中が動けなかったのは、負傷した身体でここまで逃げてきた疲労が原因だったためだ。

 村で身体を休める場所が確保出来たことである程度気持ちに余裕が出てくると、だいぶ連中の気持ちも楽になった様子に見える。


 ならばそろそろ傭兵団に何があったのか、戦況を聞いてみる頃合いだと思い。アタシは突っ伏したままで側にいた顔見知りのエグハルトに話しかける。


「……で。結局はアンタたちに何があったんだい? 話を聞こうにもトールはまだ教会から帰ってこないし」

「あ、ああ……俺ら傭兵団は、ここより北にあるホルハイムで二番目に大きな都市ラクレールで防衛戦を請け負ってたんだ」

「そのアンタたちがこうやって逃げて来た、ってことは……」

「察しの通りだ、アズリア……ラクレールは帝国軍によってつい三日ほど前に陥落した……そこから俺たちはトールの判断で飲まず食わすでこの村までたどり着いたんだ」


 すると、話し掛けていなかった他の連中もアタシとエグハルトの会話に加わり、さらに詳しく当時の戦況を聞かせてくれたのだ。


「俺たち敗戦の兵は、王都に逃げ込むって選択肢もありましたが……ラクレールの防衛戦でこの通り負傷して戦い続けられる状態じゃなかったんで……」

「しかも帝国軍は逃げる連中を読んでいたかのように伏兵まで配置しやがってたんで……あとはご覧の有り様……ってわけです、はい」

「ふぅん、地の利のない帝国が伏兵を、ねぇ……裏切り者でもいたか、それとも帝国側に相当頭のいい人間がいたか、だねぇ」


 傭兵団の連中の会話から、アタシは遠く離れたラクレールという戦場で何が起きたのかを推察していくのだが。 

 最後の一人がとんでもない情報を口にしたのだ。

 

「それに……今回ラクレールを攻撃してきた帝国側にゃ、帝国の紋章だけでなく……赤薔薇の紋章の旗が掲げられていましたから……」


 ……え?

 赤薔薇の紋章が意味するモノ。

 つまり今回のホルハイムとの戦争には帝国の本隊だけでなく、あの赤薔薇家も参戦しているということなのだ。

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