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295話 白薔薇姫、純白の魔剣の秘めたる力

「ど……どうして……っ?」


 せっかく防御魔法を展開し、魔竜(オロチ)の炎を完全に(さえぎ)り、無害とする事が出来たというのに。

 ()えて自分から、その有利な位置を捨てるような真似をするベルローゼの。行動の意図が理解出来なかったファニーやエルザ、セプティナらは揃って驚きの声を上げる。


 そして、驚きの反応を見せたのは彼女らだけではなく。敵であった魔竜(オロチ)もまた、障壁の前に飛び出すベルローゼを不思議に思い。


『一体、何のつもりだ……我の黒炎を防いだばかりか、今度はその魔法の範囲の外へ自分から出る、だと……』

「別に、大した理由ではありませんわ」


 この場にいたほぼ全員の視線を集めていたベルローゼは。魔竜(オロチ)と対峙しているというのに、普段と変わらぬ涼しげで、落ち着いた口調で口を開いた。

 理由、という言葉がベルローゼの口から出た瞬間。彼女(ベルローゼ)の姿を、そして行動の真意を知りたがっていた全員は、続く言葉に自然と耳を(かたむ)けていた。


「この……全てを阻む障壁の内側にいたのでは、(わたくし)までお前を傷付けられないではないですか」

『……な、っ⁉︎』


 あまりに不敵な発言に、それを聞いたセプティナらは驚きのあまり声を失い。

 魔竜(オロチ)はまず、負傷したベルローゼが唯一人で向かってくる無謀さを嘲笑(あざわら)おうとしたが。

 同時に、先にベルローゼの魔剣で両断された(うろこ)の傷が、その時に負った痛みを(よみがえ)らせた途端。怒りと憎しみで魔竜(オロチ)の感情を塗り替えていき。

 

『そうだ、貴様は確か……この我の身体に傷を付けた人間! ならば、お遊びはここまでだ!』


 魔竜(オロチ)の真紅に光る二つの瞳が、妖しく輝きを見せた瞬間。

 これまでとは比較にならない程の数の漆黒の炎の塊が、魔竜(オロチ)の周囲に浮かび上がる。その数、目測だけでも一〇〇を優に超えていた。


「う、お……っ! 炎が、あんな大量にっ?」

「だけど。なら……何故、今まであの数を使ってこなかったの?」


 出現した炎の数にエルザが驚くと同時に、横にいた魔術師のファニーは一つの疑問が頭に浮かんだが。すぐにその疑問は解消される事となった……その理由。


「そ……そうか。あの黒い炎、あれはあの化け物(オロチ)の血を代償に生み出されてた炎だったんだ」


 魔竜(オロチ)が負った傷口から流れ出た大量のドス黒い血が、跡形(あとかた)もなくすっかり消えてしまっている事に、ファニーはようやく気付く。


 実は今までも。魔竜(オロチ)(おのれ)の血を消費し、漆黒の炎の塊を生み出していたのだが。一〇や二〇の数ならば、減少する血の量が(わず)かだった。そのため今の今まで察知出来なかったのだ。

 つまり、代償となる血のほぼ全部がこの場から消えてしまった以上。漆黒の炎による攻撃は、次が最後という事となる……魔竜(オロチ)が新たな傷を負い、血を流さな(・・・・・)い限りは(・・・・)

 

 変わらずゆっくりとした歩調で、魔竜(オロチ)との距離を一歩ずつ詰めるベルローゼに。魔竜(オロチ)が先に()える。


『接近は許さん……近づく前に我が黒炎で焼き尽くしてやるわ!』


 咆哮(ほうこう)と同時に、魔竜(オロチ)の周囲に浮かんでいた漆黒の炎がベルローゼを目標へと定めると。

 直線的な軌道を描いて、一斉に炎が魔竜(オロチ)から発射されていく。


 だが、一〇〇を超える漆黒の炎の塊が次々に迫る様子を見ていたベルローゼは。その数に焦りや動揺を見せるどころか。


「はぁ……数こそ増えても先程と変わらない。まるで単調な、馬鹿の一つ覚えな攻撃ですわ」


 魔竜(オロチ)の最後となる炎弾の攻撃を、小馬鹿にするように溜め息を吐くと。

 まるで魔竜(オロチ)の攻撃の瞬間を読んでいたかのようにスッ……と腰を落とし、純白の魔剣を両手で握り直すと。地面を強く蹴り抜いて、大きく前方へと跳躍していくベルローゼ。


 魔竜(オロチ)への突撃を目の当たりにした女中(メイド)・セプティナが、悲鳴に似た声を上げた。


「──お、お嬢様っっ⁉︎」


 セプティナの懸念は当然であった。

 魔竜(オロチ)が放った漆黒の炎の軌道と、ベルローゼが突撃する進路はどう考えても途中で激突は避けられない。

 となれば、ベルローゼの魔剣での攻撃が届く前に炎が直撃してしまうのは明白だったからだ。


 いや……だった、が。


「……ふぅ、っ」

 

 最初の炎との衝突を迎えたベルローゼは。一つ息を吐くと同時に、轟音を立てて眼前へと迫る漆黒の炎に対し。両手で握っていた純白の魔剣による一撃を浴びせていく。

 形のない炎に剣を振るう事が、普通であれば意味のない行動なのはベルローゼも理解はしている。それでも……直感的に彼女(ベルローゼ)は選んでしまったのだ。

 炎を剣で止める、という馬鹿げた方法を。


純白の薔薇(ヴァイセローゼ)──(わたくし)、お前を信じてましてよっ!」

 

 ベルローゼは、自分が握っていた魔剣「純白の薔薇(ヴァイセローゼ)」に絶大なる信頼を寄せていた。

 それは、先に剣の正体のやり取りをした時に明かされたように。魔剣の材質が「神の金属(エタニィオン)」……この地上に存在するどの金属よりも硬く、頑強な伝説の金属だからという理由ではなく。

 代々、彼女(ベルローゼ)白薔薇(エーデワルト)公爵家に継承されてきた当主の証であり。帝国(ドライゼル)貴族の誇りの象徴である、というただ一点だった。

 いや、それでこそ帝国(ドライゼル)の内外で「白薔薇姫」と名高いベルローゼらしい、といえばらしいのだが。

 

 ベルローゼの剣への信頼に、純白の魔剣は結果を()って応えようとする。

 漆黒の炎に触れた魔剣(ヴァイセローゼ)の刀身は、ベルローゼを捉えていた炎をまるで大きな果実を割るかのように、持ち主(ベルローゼ)の剣を握る指に何の感触も残さず、易々(やすやす)と上下に両断していく。


「う、嘘だ、ろ? 炎を斬りやがったっ……」


 二つに分かれた炎は失速して制御を失ったのか、その軌道を大きく曲げて。一方はベルローゼから離れた地面に衝突して爆発を起こし。

 もう一方は後方に待機し、炎を剣で両断した事に驚愕(きょうがく)し、歓喜していたエルザへと迫っていたが。


「うわああああ……あ、れ?」


 展開していた「絶対障壁(エクサウォール)」に激突し、エルザは無傷で済んだ。


「は、っ! さすがは我が公爵家に代々受け継がれてきた宝剣、期待を裏切りませんわ……これならばっ!」


 これで飛来する炎への懸念と脅威は完全に消え去った、そう判断したベルローゼは。漆黒の炎の初弾を真っ二つに斬り裂いたその瞬間。

 さらに地面を強く蹴り抜き、魔竜(オロチ)に突撃する速度をさらに加速させていく。狙いはただ一つ、最初に魔竜(オロチ)の胴に浴びせた一撃よりも強烈な傷を負わせるために。


「──白銀の腕(アガートラーム)!」


 突撃しながらベルローゼは、自らが一番得意とする身体強(ブースト)化の神聖魔法(セイクリッドワード)を無詠唱で発動し。

 純白の魔剣を握る両の腕までが、剣と同じく白い輝きを放ち始める。

 ……しかも、驚くべき事なのは。


「え? 障壁を維持したまま、別の魔法を?」


 既に「白銀の腕(アガートラーム)」の魔法を発動したにもかかわらず、ファニーやエルザらの前方に展開していた「絶対障壁(エクサウォール)」は消去・霧散してはいない。

 つまり今、ベルローゼの二つの魔法の効果が同時に発揮されているという事になる。


「……ん、ファニー。それって、そんな驚くことなのか?」

「普通に驚く事。二つ同時に魔法の効果を発揮するのは、少なくとも……私には無理」


 二つの魔法が同時に効果を発揮する、それの何が驚くべき事なのか?

 エルザの単純な疑問に、少し気を悪くしたような表情を見せてファニーが言葉を返す。

 

 一人の術者が、二種類の魔法効果を同時に発動・維持するのは、卓越した技術と魔力容量を必要とする。それは、通常の属性魔法だろうが神聖魔法(セイクリッドワード)だろうが、魔術文(ルーン)字も変わりはない。


 二種の神聖魔法(セイクリッドワード)を同時に発動・維持出来る能力に加え。

 彼女が手にする純白の魔剣は、伝説に名高い十二の魔剣に匹敵する格の魔剣だったり、と。

 

 ファニーはこの場で改めて、自分が同行してきたベルローゼ・デア・エーデワルトという人物の底知れない実力に驚愕(きょうがく)していた。

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