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292話 アズリア、武侠らの報恩と献身

 ──なんと。


 ファニーらの前に躍り出てきたのは、馬に騎乗している武侠(モムノフ)の集団。身体強(ブースト)化を(ほどこ)されたミナカタ隊の騎馬兵らと、隊を率いるコウガシャ領主ミナカタその人だった。


「客将の皆様! ここは我らがっ!」


 数にして一〇名程度ではあったが。その全員が大型の軍馬(ギャロップ)(また)がっていたため、後方に控えていたファニーらだけでなく。地面に倒れている三人を庇うに充分だった。


「な! ちょ、ちょっと……な、何でっ?」


 だが、突然の事態に驚いたのはファニー。何故なら彼女らがカガリ家の事情を知ったのはつい先程、合流した三の門の手前でアタシから説明をされた時なのだ……が。

 そのファニーには、カガリ家の武侠(モムノフ)らに身を(てい)して救われる理由が何一つ心当たりがなかったからだ。

 そうなると、思い付く目的は一つ。

 

「まさかっ……私たちの壁になるつもりで?」

 

 つまり前に躍り出た武侠(モムノフ)らは、自分らと騎乗する馬の身体を犠牲にすることで。魔竜(オロチ)が放つ炎弾を防ごうとしていたのだ。


 しかし、魔術師であるファニーは一目で理解する。

 炎弾に立ちはだかる武侠(モムノフ)らは、魔法によって多少は防御力を向上させてはいたものの。とてもではないが、全身鎧(フルプレート)大楯(タワーシールド)で身を固めたいたカサンドラ以上の防御力を有している、とは到底思えなかった。


「だ、駄目……退()がって! そんな魔法と装備じゃ、あの炎は防げない!」


 意図を読み取ったファニーは慌てて、武侠(モムノフ)らを退()がらせようとするも。

 一〇名の武侠(モムノフ)を率いる人物・ミナカタが首を左右に振って、(かたく)なに提案を拒んでいき。


「我らがあの炎を防ぐ間に、負傷した者らを!」


 そう一言だけ告げると、それ以降はファニーから顔を背け、炎弾を放った魔竜(オロチ)に向き直ると。


「……覚悟は良いか、皆の者」

「「勿論(もちろん)です、ミナカタ様」」


 領主であるミナカタの言葉に、全員が声を揃えて承諾(しょうだく)の返事を口にした。


「我らの生命は本来、二の門で魔の物と化したショウキに敗れ、失っていたはずの生命……ならば」


 そう。

 この場にいる全員が、二の門でイズミの指揮の元、カガリ家四本槍が一人・不動のショウキと死闘を繰り広げ、あと一歩で勝利とまで追い詰めるも。劣勢を悟り「魔竜(オロチ)の血」を飲んで、変貌(へんぼう)した姿により圧倒的な力を振るったショウキに敗れ。あとは死を待つのみだった武侠(モムノフ)らだった。

 その窮地に突如として現れ、目の前でショウキを討ち倒したのが。カサンドラ・エルザ、そして……ファニーの獣人族(ビースト)の三人組であり。


「この場で散らしても、それは本望です!」


 武侠(モムノフ)らは、自分らに加勢し生命を救った大恩に報いるため。今まさに自分の身体を肉壁にして、時間を稼ごうとしていたのだ。


「良くぞ言った。生命を救われたのは、この私も同様だ。そして……意思と覚悟もまた、お前たちと同様」


 隊を指揮する領主ミナカタもまた、同じく二の門で立ち塞がった四本槍の一人・隻眼の武侠ジンライを相手に他三人の領主と共闘し。数的には有利だったものの、実力では数段上をいくジンライに苦戦を()いられていたが。

 その時、颯爽(さっそう)と戦場に現れ、ジンライを倒したのが。今、地面に倒れている黒髪の女中(メイド)だった。

 だからこそミナカタは、他の三人が行動に出るよりも早く手綱(たづな)を握り。恩人である名前も知らぬ黒髪の女中(メイド)の前に躍り出ていたのだ。


 既に炎弾を身に喰らい、生命を失う覚悟すら決めていた武侠(モムノフ)らに対し。顔を背けられたファニーは、何度も繰り返して後退するように呼び掛けを続けていた。


「早く! 今ならまだ間に合う! そこからすぐに退()がっ──」


 だが、数度目の呼び掛けの途中に。

 魔竜(オロチ)の十数発の漆黒の炎の塊が、立ちはだかった騎馬隊らに襲い掛かると。

 

「ぐ⁉︎……ぐおおぉぉおおおおお!」

「熱いぃぃっ! か、身体が、焼けるううう⁉︎」


 炎弾が直撃した馬の苦悶(くもん)に満ちた(いなな)きと、武侠(モムノフ)らの苦痛からの悲鳴が上がり。

 馬の脚から力が抜け、実に危険な崩れ落ち方をする馬に。炎が直撃した箇所が燃え上がりながら、騎乗していた馬から落馬していく武侠(モムノフ)ら。

 やはり、魔竜(オロチ)の炎の威力を前に耐え切れなかったのだ。


 いや……そうでは、なかった。


 武侠(モムノフ)らが「壁」となり、立ちはだかってくれたお陰か。

 ファニーらが控えていた後方には、ただの一発も炎弾は飛来してこなかったからだ。武侠(モムノフ)らが炎弾を全部、受け切ってくれた事で。


「──え、エルザ?」

「あいつらの犠牲、無駄にゃ出来ねえだろうがよ!」


 横を見れば、エルザが両手で構えていた愛用の両斧槍(ハルバード)を一旦手放し。地面に倒れていたベルローゼと黒髪の女中(セプティナ)の元へと駆け寄っていくのが視界に映る。


「鎧が壊れて盾もないカサンドラならよ、ファニーでも充分運べるだろっ?」

「わ、わかった」


 今、動ける二人で倒れていた三人を救出するために、エルザは普段使わない頭を使い。

 ファニーに仲間であるカサンドラの救出を託し、両斧槍(ハルバード)を振り回す腕力のあるエルザがその他二人を運ぶ役割を選んだのだ。


 元来、カサンドラが身に付けている全身鎧(フルプレート)大楯(タワーシールド)も、相当な重量であり。小柄で非力な魔術師のファニーでは、引きずって運び出す事すら至難の(わざ)ではあったが。

 幸か不幸か、直撃を受けた炎弾の威力で鎧も盾も破壊されており。今のカサンドラの状態ならば、何とかファニーが一人でも運ぶ事が可能になったからだ。


 加えて、魔術師であるファニーは。カサンドラの身体の運搬をより迅速に行うため。


「──筋力上昇(マイトアップ)


 自分の身体を対象として、基本的な身体強化魔法(ブースト・エンチャント)である「筋力上昇(マイトアップ)」を発動させた。

 魔法名の通り、自身の筋力を増強する効果が功を奏し。鎧が破壊されて重量が軽くなったカサンドラの身体を、他の武侠(モムノフ)らが控えていた後方にまで素早く運び込む事に成功したファニーだったが。


 ここで三人組の魔術師は、重大な失策に気付く。

 ベルローゼとセプティナの二人を救出する役割のエルザが、思いの外救出に手間取っていたからだ。


「……エルザっ?」

「ち、ちくしょ……う、さすがに、二人は重すぎ……だったか、っ……」


 二人の片腕ずつを掴んで、懸命に地面を引きずって運ぼうとしているエルザの姿を見て。ようやくファニーは思い返す。

 盾役のカサンドラ・魔術師ファニー・戦士エルザでの三人組での活動が、あと一歩上手くいかなかった理由を。

 それは、まだ成長過程にあったエルザが。ただ一人の戦士として前線で活躍するには、純粋な腕力が不足している……という欠点だった。

 

「ま、待ってエルザっ。今、援護する……っ」


 カサンドラを後方に運び終えたファニーは、慌てて魔法の準備を整える。

 無詠唱、というものはあくまで詠唱を省略出来る、というだけであり。魔法の発動には、魔力や意識の集中など、何段階も踏まなければいけない過程があるからだ。

 そんな、焦ったファニーの「筋力上昇(マイトアップ)」の発動よりも一瞬だけ早く。


 邪悪な笑みを浮かべながら、懸命に倒れて動けない仲間を救出しようとする様子を眺めていた魔竜(オロチ)が口を開き。


『つくづく、無駄な足掻(あが)きで(たの)しませてくれる人間どもだ。だが──』


 そう退屈そうな口調で言い放つのと同時に。自分の血から生み出し続けていた漆黒の炎の塊、その炎弾がエルザへと向け、放たれたのだ。


『そろそろ飽きがきた。燃え尽きろ、矮小(わいしょう)なる人間よ』



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