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25話 アズリア、昔仲間と遭遇する

「村長っ!アズリアさん!……村に武装した何者かが近づいてきてるっ!」


 アタシが部屋の中で指揮官らとの大立ち回りをしたおかげで、随分と返り血などで汚してしまった村長宅を掃除したり、床板を張り替えている最中に。

 突然、村の若者から不審な人間が接近してきたと連絡を受けて、村長のゴードンと一緒に呼ばれていた。

 どうやら村の外に薬草や小さな獲物を狩りに出ていた若者らが偶然それ(・・)を見つけて戻ってきたのだという。


「うん……確かに誰か近づいてきてる人影が見えるね。人数は、ここからじゃ正確にはわからないけど……五人以上、いや……もう少しいるね。進み方がおかしいから何人か怪我してるかも」


 アタシは屋根に上り、若い連中が「人影を見た」という方角に視線を飛ばして村に近づいてくるその人影を確認する。

 ただ、この距離からではあの人影がどこかから来た帝国兵なのか、そうでないのか判別は出来ない。

 なので、傭兵稼業で学んだ手を使おうと思った。


「なあ村長さん、少しばかり広場で火を焚かせてもらうよ」

「ん?いや、それは構わんが……一体何をするつもりだ?」

「いや、傭兵の全部がそうとは限らないんだけど、離れ離れになった時に煙を焚いて、その煙に色をつける薬を入れて連絡し合う、ってやり方があってね」


 屋根から降りてきて、いきなり村の真ん中にある広場で火を焚こうとするアタシに、その行動を疑問に思ったゴードンが隣に立ち尋ねてくる。 


 傭兵稼業の時に持っていた煙の色を変える顔料を持ったままだったので、燃え盛る火に顔料を投入すると立ち昇る煙が鮮やかな緑に発色する。 


 緑の煙が知らせる情報は「この場所は安全だ」。


 ……もちろん、このやり方は全ての傭兵団の共通ではない。だが、この緑の煙を見て反応を示してくれるなら、少なくとも帝国軍の連中ではないと断言出来る。

 何故なら傭兵が好んで使う方法ほど、正規の兵士は邪道と見做()して使用を嫌がる傾向があるからだ。


「……さあて、どう動いてくるかねぇ」

「アズリアさん!……あの連中が白い布を振ってる!」


 早速反応があった。

 白い布を振る、という行為は戦場では戦意がない、敗北を認める、もしくは助けを求める合図というのが通例だ。

 なら、戦意がないと宣言した向こうの連中には怪我人がいるかもしれない。


「アタシが先にあの連中と接触してくるよ。負傷者がいるかもしれない、村長はエルにその事を伝えておいてくれないか?」

「うむ、だが……帝国側の傭兵の可能性もあるぞ?」

「だから先にアタシが行くんだよ。帝国側なら適当にあしらって村から退散してもらうからさ」

「わかった。方法はアズリア殿に任せよう」


 村長はいざという時のために村の若い連中に武器や鎧を準備しておけと檄を飛ばし。

 傷ついた他の村やホルハイム兵だった時に炊き出しや治療が迅速に出来るよう女性らに指示を出すと

、エルに事情を説明するため教会に向かって行った。

 皆が慌ただしく動き出し、緊張感が徐々に高まっていく村の中だが。


 それに反してアタシは少し警戒心を緩めて、白布を振る連中へと歩み寄っていった。

 何故なら……ドライゼル帝国がアタシがいた時と何も変わっていなければ、奴等は傭兵を絶対に使わないからだ。

 クロイツ鋼も含め、帝国には他国への情報が漏れるのを禁止している色々な秘密がある。たとえ傭兵といえども戦場で同じ側で戦う事でその秘密が漏れてしまう可能性を帝国上層部は嫌っているのだ。


 その予想は的中していたようで。

 連中の詳細を目視出来る距離になると、向こう側は傭兵が8名、半数以上が負傷していて手を借りないと自力では歩けない状態だ。

 その内一人は、先頭を歩く頑強そうな男に背負われていて意識がないようで、顔色を見るに治療を受けないと生命に関わる状況だと推測する。


 ……あれ?

 だけど、その頑強そうな男の顔にアタシは見覚えがある、そんな気がしていた。

 よく見ればその男だけじゃない。この中の何人かはアタシが見知った顔のまんまの連中だった。


「……もしかしてお前、いやあんたは……アズリアの姉さんか?」 

「……もしかして、アンタ……トールかい?……ってコトは、アンタら全員雷剣(エッケザックス)の連中なのかい?」


 エッケザックス傭兵団。

 アタシが一人旅を始めてからしばらく経った頃、帝国の東のとある小さな国で、旅の路銀が底を着いたのと、アタシの腕っ節を買われて声を掛けられたのをキッカケに二、三月ほど所属していた傭兵団だ。

 帝国が東部に隣接している国力が小規模な複数の国が集まって結成されたイーストセブンと呼ばれる小国連合は、常に領土拡大を目論む帝国との小競り合いが多く、国境付近では帝国兵との衝突が絶えず事を構える事態(こと)が多かったので、必然的に傭兵の出番が増えるというわけだ。


 ちなみに余談だが、傭兵団の名前はこのラグシア大陸に太古の神々が人間に授けた、という伝承に残されている雷を操る魔剣エッケザックスから取ったのだという。

 だから長い名前ではなく、周囲からは「雷剣」の名前で呼ばれていた。

 

 で、目の前にいる頑強そうな男こそが、昔のまだ誰にも頼ろうとしなかったアタシに敢えて声を掛けてきた男、トールだった。

 他にも、連結刃(ガリアンソード)の使い手オービット、火魔法を得意とする女魔法使いのフレア、アタシより背の高い狙撃手エグハルトの姿も見えた。


 だが、今は昔の懐かしさに浸っている場合ではない。

 そもそも……この連中は当時のアタシが見た限りでだが、結構な腕前だったと記憶している。そんな連中がここまでボロボロになっている事情が気になって仕方がない。


「……姉さん、理由(ワケ)はきちんと説明する。だからまずは、この連中を村で休ませてやってくれないか?……俺らはともかく、フレアの傷がマズい状態なんだ……」


 昔のよしみでトールが頭を下げてくるが、アタシはそれに構わず横を通り過ぎていくと。

 トールの背後に足を引きずりながら着いてきていた、負傷と疲労でこれ以上歩くのが困難な連中に肩を貸していく。


「何、水くさいコト言ってんだい」


 筋力増(ウニョー)強の魔術文(ルーン)字を発動させ強化した腕力で、両脇に男二人の肩を片腕で支えながら一人は背負う体勢を取って。

 三人をいっぺんに村へと運び込んでいくと。


「村には治癒魔法が使える修道女(シスター)もいるし、村長にはとっくに話を通してあるさ。それに……アタシたちは昔肩を並べて戦った仲間だろ?」


 村人らもアタシを手伝うように、負傷した傭兵団の連中に肩を貸していき次々に村へと運び込んでいくのだった。

 これだけの負傷者を出したトールは半分以上諦めていたのだろう、自分らが助かったとようやく実感すると涙を流してアタシへ感謝の言葉を口にする。


「……よかった……恩に着るぜぇ……姉さん……」

「泣くのは村に着いてからにしなよ、フレアの傷は急ぐんだろ?」


 アタシは安堵(あんど)してすっかり力が抜けたトールの腕を肩に担ぎ、村へと運び入れていくのだった。

「あのキャラのその後が気になる」

「こういった展開を読んでみたい」


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