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284話 カムロギ、決断の斬撃

『──と、いうわけよ』


 魔竜(オロチ)が如何にして、イチコら盗賊団の一味を「喰らった」のかの詳細な様子を。六人を喰らった魔竜(オロチ)自らが語り終えると。

 説明の聞いている間は終始、目線を落とし、握っていた剣を小さく震わせながら。魔竜(オロチ)への怒りを我慢していたカムロギだったが。


「そうか……貴様が、俺の仲間を」


 そう(つぶや)いた男の(カムロギ)両の眼には殺意が宿り、その鋭い眼光が初めて魔竜(オロチ)へと向けられる。

 カムロギが一瞬、腰を落として両脚へと力を巡らせたのは。まだかなり空いていた魔竜(オロチ)との距離を詰め、飛び掛かるための予備動作だったのだろう。


『ふむう。黒い感情を(たかぶ)らせる程に我が憎いか──しかし』

 

 だが、話を聞き終えたカムロギが動くと読んでいた魔竜(オロチ)の対応が、それよりも早かった。


『我に、その剣が届くかな?』

 

 魔竜(オロチ)の言葉と同時に。今まさに攻撃を仕掛けようとしたカムロギの背後から。大きく跳躍し襲い掛かったのは。

 喰らったイチコらを模したのか、(ある)いは……本当に喰らった後の亡骸(なきがら)眷属(けんぞく)に変えたのか。その三体の小柄な姿の蛇人間ら。


「む、う?」


 カムロギの視線の先にあった魔竜(オロチ)は、邪悪に口を(ゆが)めて笑いを浮かべていた。

 

「……なるほど、な」


 魔竜(オロチ)が人間を眷属(けんぞく)に変える能力がある事を知らないカムロギだが。

 それでもイチコら三人は、カムロギ自らが拾い、長らく寝食を共にしてきた盗賊団の一味だ。おそらく彼も(カムロギ)アタシと同様に。襲い掛かって来た三体の蛇人間の正体を、イチコら三人だと考えたのだろう。


 元は仲間だった蛇人間に対して、カムロギがどういった対応を取るのかを。魔竜(オロチ)はニヤニヤと、愉悦(ゆえつ)の表情で眺めていた。

 

『さあ、どう動くか……人間よ』


 襲い掛かる三体の蛇人間を、カムロギが迎撃してしまっても魔竜(オロチ)は何も困る事はない。

 しかし、蛇人間の正体をイチコらと想定しているカムロギは、自分の手でイチコらを「斬る」という行為に。果たして心が耐え切れるだろうか。

 耐え切れず、躊躇(ちゅうちょ)をして蛇人間を攻撃しないのであれば。元は仲間だったイチコらに襲われ、傷付けられる状況となるのは間違いない。

 つまりは、カムロギがどちらを選択しても魔竜(オロチ)にとって痛くも(かゆ)くもないというわけだ。

 

 だからこそ。


 同じく、三体の蛇人間が跳躍し、襲い掛かってくるのを察知していたアタシは黙ってカムロギの前に立つと。

 彼の代わりに上空の三体が、弓のように片腕を変貌(へんぼう)させ。自分の鋭く長い爪を矢の代わりに、一斉にカムロギに狙いを定めて放った射撃を。

 クロイツ鋼製の幅広の大剣を盾のように扱い、三発全てを地面へと叩き落していった。


「アズリア?」

「ここは……アタシらに任せな、ッ」


 アタシとて、イチコらとは顔見知りとなってしまったからこそ。彼女らが姿を変えた蛇人間を攻撃するのは、当然ながら(いささ)かの躊躇(ちゅうちょ)はある。

 それでも。イチコらが「父親」だと慕っていた人間(カムロギ)にだけは、蛇人間を攻撃させてはいけないと考えてしまったから。

 

「──いや」


 しかし。大剣を構えながら待ち受けていたアタシの肩を叩き、掴んだのは。蛇人間を迎撃する役割を肩代わりした筈のカムロギだった。


「これは、俺がやる。あいつらをしっかりと眠らせてやるのは、親代わりだった俺の役割だ」


 そう肩を掴んだアタシに告げ、後ろへと下がらせようとするカムロギ。


「だ、だけど、ッッ……!」


 思わず反論しようとしたアタシだったが。唇を噛んでいたのか、薄っすらと血を垂らしていたカムロギの口端を見てしまうと。それ以上の言葉が喉から出てこなくなり、彼の(カムロギ)言葉のままに従ってしまう。


 こうして、アタシを引き下がらせたカムロギは。左右の手に白と黒の二本の魔剣を握り締め、上空けら襲い掛かって来る蛇人間を待ち構えていた。


「──来い。骨は俺が拾ってやる」


 (いな)


 カムロギは、風属性の魔力を秘めた漆黒の魔剣「黒風(こくふう)」を一度振りかぶり、力を溜める予備動作を素早く行うと。

 片腕を弓のように変貌(へんぼう)させ襲って来た蛇人間の一体目掛け。アタシとの戦闘で、何度もこちらを苦しめた「飛ぶ斬撃」を、横薙ぎに刃を振り抜き放っていく。


『──ギ、イイいい⁉︎』

 

 上空からの射撃がアタシに防御され、続けて二射目の準備をしていた蛇人間だったが。

 風を切り裂きながら迫り来るカムロギの「飛ぶ斬撃」を、跳躍した空中では体勢を変えることも出来ず、回避する(すべ)はなく。

 斬撃が直撃した小柄な蛇人間の胸から首筋にかけ、斜めに深々と裂傷を負わせた。両断こそ出来なかったものの、(はた)から見ても致命傷だ。


「ひゅぅ……戦ってる時にゃ気にするヒマもなかったけど、ありゃあとんでもない攻撃だね、まったく……ッ」


 何しろあの「飛ぶ斬撃」は、風を切る衝撃や音、殺気こそ隠れてはいないものの。武器のようにあからさまに目に見える攻撃の軌道ではないため、回避が困難な点だ。

 アタシはカムロギとの一騎討ちで、今の「飛ぶ斬撃」が何度も身体を掠め、肌や肉を切り裂かれはしたが、直撃だけは何とか回避していたが。

 もしあの戦闘で、アタシの腕や足首に斬撃が直撃していたら今頃、命中した箇所は両断されていたかもしれない。


『……ギ』『ギイイイイいいい!』


 すると、今斬られた蛇人間と同様に二射目を準備していた残る二体は。上空に留まるのは分が悪い、と判断したからなのか。

 弓のように変貌(へんぼう)させていた腕を元に戻して、鋭く伸ばした両手の爪での接近戦に切り替えてきたのだ。


 カムロギと蛇人間三体との戦闘を見守っていたアタシだったが。一方で、カムロギにいらぬ邪魔をさせないため、魔竜(オロチ)へと睨みを利かせ監視と警戒を(おこた)っていなかったが。


「い、いいの、おねえちゃん?」

「ん? 何がだい」

「だ、だってあのニンゲン、なんだかしらないけど……きずおっててぼろぼろだよっ」


 同じく、魔竜(オロチ)が下手に動かぬよう警戒していたユーノが。アタシの横に並んで、蛇人間との戦闘に加勢しなくてよいのかを訊ねてくる。

 確かにカムロギは、アタシとの戦闘で負った深傷(ふかで)での影響からか、動きが鈍っているのが見て取れる。


「そっか、そう言えば……」


 ユーノは、アタシがカムロギと交戦している最中。傷を癒やし魔力を回復するため、ずっと寝ていた事を思い出す。それならば、カムロギがどれ程の実力者なのかを知らなくても無理はない。

 だからアタシは、不思議に思って声を掛けてきたユーノにこう言葉を返す。


「心配すんなユーノ。あの男はね、アタシと互角に()り合った腕の持ち主なんだから、ねぇ」

「え? え、ええ? お、おねえちゃんとごかくにっ? う……うそ、いつ?」


 アタシの発言で、何故アタシが黙ったまま加勢しないのかという疑問は解消されたが。ユーノにはまた違った疑問が生まれてしまう。


 ユーノの頭の中では「アタシと互角の実力」と聞くと。魔王領(コーデリア)に転移させられた際、ユーノの実兄である魔王リュカオーンと一騎討ちをし、引き分けに終わった事をユーノは引き合いに持ち出してくる。

 つまり、アタシが「互角だ」と認めたカムロギの実力は、魔王(リュカオーン)匹敵(ひってき)するのではないか……という疑問が。

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