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280話 カムロギ、盗賊団の最後を問う

 白の魔剣「白雨(びゃくう)」と黒の魔剣「黒風(こくふう)」の二本を巧みに振るい。凄まじい剣の技量と魔剣を利用しての魔法でアタシを何度も追い詰めた凄腕の剣士。

 新しい「軍神の加(ティール)護」の魔術文(ルーン)字の活用法を見出(みいだ)さなければ、敗北していたのはアタシかもしれなかっただろう。


 数人の武侠(モムノフ)から向けられた槍先を気に留めることもなく、足早に歩を進めてくるカムロギ。

 歩き方はどこか辿々(たどたど)しく、身体のあちこちを庇うように見受けられたのは。まだ三の門での死闘の傷が癒えていないからだろう。

 今、彼の手には白と黒、二本の魔剣が握られてはおらず、無手の状態ではあったものの。


「──退()け。死にたくないのなら、な」


 それでも全身から湧き上がる雰囲気と。周囲の武侠(モムノフ)にではなく、歩を進めるその先を睨み()える鋭い眼に。


「な、何だ……この、圧はっ?」


 槍を向けていた武侠(モムノフ)らは、カムロギから発せられる迫力に戦慄(せんりつ)し。思わず自分から槍を引き、二、三歩ほど馬ごと退()がってしまった。

 いや……それだけではない。


『ギ? ギ……シャァァ……ッッ?』


 何故か、武侠(モムノフ)らと交戦中の三体の蛇人間ですら。何故か、武侠(モムノフ)らへの攻撃を躊躇(ちゅうちょ)し、素早く動き回る足をピタリと止めたのだ。


「な、何だか知らんが……今が好機っ──」


 当然ながら、カムロギの包囲に参加していなかった武侠(モムノフ)は。今こそが、苦戦が続いていた三体の蛇人間を倒す絶好の機会と思い。

 構えた槍や剣を、動きを止めた蛇人間に振るおうとしたが。


 これまで、周囲の武侠(モムノフ)に何の興味も示していなかったカムロギが初めて。蛇人間に攻撃を浴びせようとした武侠(モムノフ)へ向け、猛烈な殺気を込めた視線を放つ。

 ──途端。


「ひ……いぃぃっ⁉︎」


 小さな悲鳴とともに、激しく動揺したからか。握っていた武器をポロリと落とし身体が固まってしまう数名の武侠(モムノフ)ら。

 

 こうして、カムロギの前には申し合わせたかのように。ミナカタの部隊だけでなく、その先に待ち受けていた別の武侠(モムノフ)らも通り抜けるように一直線に道が出来上がる。

 (いささ)かの躊躇(ためら)いも疑念も持たず、カムロギは部隊を割るように出来た道を歩き。ついには、魔竜(オロチ)とアタシらが対峙する場所へと到達した。

 

 ◇


 アタシらの頭上高くで首をもたげていた魔竜(オロチ)を、真っ直ぐに見据えたカムロギは。


「……聞こえたぞ。魔竜(オロチ)ぃぃ……っ」


 アタシと戦っていた時にも見せていなかった厳しい表情と視線で、魔竜(オロチ)何か(・・)を問い(ただ)す。

 一方で、向けられた強烈な敵意をいとも簡単に受け流す魔竜(オロチ)は。まるでカムロギに興味のない様子で。

 

『はて……貴様は、誰だ?』

「はは。誰か、ときたか」


 そんな魔竜(オロチ)の態度に腹を立てたのか、ここでカムロギは。腰に挿していた二本の魔剣を抜き、黒の魔剣「黒風」の切先を魔竜(オロチ)へと向け。


「俺は、お前が喰った(・・・・・・)六人を何より大事に思っていた人間、ただ……それだけだよ」


 やはり、先程カムロギが「聞いた」と主張していたのは。魔竜(オロチ)がイチコら六人を喰らったという発言だったようだ。

 三の門で傷付き、倒れていたのを放置していたカムロギが、一体どうやって魔竜(オロチ)の言葉を聞く事が出来たのか。疑問がアタシには残るが。 


「カムロギ……気付いたんだね。あの蛇人間が、イチコらかもしれない、ッて」


 カムロギが魔竜(オロチ)の前にまで歩いてくる最中、イチコらが変貌(へんぼう)した蛇人間に攻撃を仕掛けた武侠(モムノフ)威嚇(いかく)したのは。一目で小柄な蛇人間の正体を見抜いたからかもしれない。


「さて、魔竜(オロチ)……お前に聞きたい事がある」

『……ふむ。質問を許そう、矮小(わいしょう)なる人間よ』


 鋭い剣の切先を向けたまま、カムロギは魔竜(オロチ)へと開始する。もし答えなければ、即座に構えた二本の剣で斬り掛かるつもりで動くも。

 カムロギへと興味を示さなかった魔竜(オロチ)は、何故か上機嫌に要望を承諾(しょうだく)したのだ。

 ……その態度の変容を不思議に思ったのだが。


『もっとも……つまらない問いならば相応(そうおう)の代償はいただくが、な』

 

 そう言って口から先が二つに割れた舌を出し、ペロリと舌舐めずりを始めた魔竜(オロチ)

 どうやら、機嫌を良くした理由は。カムロギの話に興味を示したからではなく。あくまでカムロギを「(えさ)」と見做(みな)しての興味でしかなかったのだ。

 ……(はた)から見ていたアタシでも、魔竜(オロチ)がカムロギを嘲笑(あざわら)っている態度なのは見て取れた。


 ならば、言葉を交わしている当人(カムロギ)(いきどお)りは計り知れない。

 魔竜(オロチ)へと向けていた剣の切先が、怒りでカタカタと震え。感情を押さえ込んでいるのか、歯軋(はぎし)りが鳴るのが聞こえてくる。

 ──だが。


「……いいだろう」


 カムロギが出された条件を飲むと、魔竜(オロチ)はニンマリと口に邪悪な笑みを浮かべ。


『それで、我に何を聞くつもりだ?』

「何故、六人を喰った? その時の詳細を……俺は知りたい。俺の望みはただ、それだけだ」


 アタシとの戦闘の直前の会話で、イチコやバンら六人は「別の任務で城を離れている」と話していたカムロギ。

 どうやら本人も、六人の最後は知らぬ事だったようだ。


 見れば、カムロギとの戦闘で負った傷をお嬢(ベルローゼ)の治癒魔法で回復していたアタシとは違い。何の治療を受けた様子のないカムロギは、アタシが負わせた傷が。身体の至る箇所にまだ痛々しく残っていた。

 こんな満身創痍(まんしんそうい)な状態で、放置していた三の門から現れたカムロギが。ここまで来て嘘を()くとは到底考えにくい。


 ──それに。


「それはアタシも知りたいねぇ、魔竜(オロチ)よ」


 アタシは、カムロギが魔竜(オロチ)に向けていた漆黒の刀身の切先に。こちらも握っていたクロイツ鋼製の大剣を並べていき。

 カムロギと一緒に、イチコらが喰われた理由を問い掛けていく。


魔竜(オロチ)……アンタはさっき言った。盗賊団の連中に、ジャトラが襲撃を受けたからだ、と」

「……なっ⁉︎」


 アタシの言葉を聞いたカムロギの反応から。

 ジャトラを襲撃したのは、カムロギの指示ではなかった事を理解する。

 だが、傭兵団としてジャトラに雇われの身だったカムロギらが、雇い主であるジャトラを襲撃など。やむに止まれぬ事情でもない限り、実行などする筈がない。

 

「ッてコトはつまり。あの六人は、ジャトラを襲撃しなきゃいけない何らかの理由が、ある日突然出来ちまった……違うかい?」


 逆に言えば、雇い主に刃を向けるだけのやむに止まれぬ事情とやらがあったから。イチコら盗賊団一味はジャトラを襲撃に至ったのだろう。


 例えば、マツリを傀儡(かいらい)にするため人質にしていたフブキが逃走したら、魔竜(オロチ)に殺害させようとしたように。

 カムロギを都合の良い戦力として使い続けるため、イチコら六人を人質にしたり、消してしまおうとする企みを。偶然、知ってしまったり……とか。


『ふむ……小賢(こざか)しい術を使うだけあって、随分と頭が回る人間だな』

「ははッ、そいつはどうもだ。まあ……別に魔竜(アンタ)に褒められたトコで何も嬉しくはないが、ねぇ」


 小賢(こざか)しい術、とは。アタシの魔術文(ルーン)字の事を指すのだろうか。

 その魔竜(オロチ)の口振りからは、今出ている限りの情報からアタシが組み立てた仮定の話が、当たらずとも事実から遠からじ……という反応を見せていた。


『ならば……聞かせてやろう。貴様らがそこまで懇意(こんい)にする人間を喰らった時の話を、な──』

 

 

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