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275話 アズリア、眷属へ放つ雷速の一閃

 だが、そう魔竜(オロチ)の思い通りに事が進むのを、ただ許すわけにはいかない。

 背後に控えた武侠(モムノフ)らへと襲い掛かるため、アタシらを無視して通り抜けようとした六体の魔竜(オロチ)眷属(けんぞく)たる蛇人間だったが。

 

「……はッ! そう簡単に」


 大剣を構え、通過しようとする蛇人間の前に立ち塞がったアタシ。

 咄嗟(とっさ)に反応出来たのはアタシだけではない。巨大な籠手(ガンドレッド)を構えたユーノと、純白の魔剣を握るお嬢(ベルローゼ)もまた。蛇人間を阻むべく動いたのだ。


「この先には進ませませんわっ!」

「ボクがあいてだっ!」


 アタシらが行く手を塞いだ事で、強引に通過することが難しいと判断したのか。ピタリと足を止めた三体の蛇人間は、両手の指の先から鋭い爪を伸ばしていく。

 こうして、三体のみ突破を阻止するのに成功はしたが。


「し……しま、っ!」

「こ、この魔物っ、想定したよりも素早いっ?」


 反応こそ出来たものの、新たに生み出された三体の蛇人間は、その小柄な体格が(ゆえ)に。立ち塞がろうとしたヘイゼルらの脇をすり抜け、突破に成功してしまっていた。

 いや……ヘイゼルや黒髪の女中(セプティナ)が、蛇人間の小柄さに苦戦し、突破されたのはまだ分かる。しかし、カサンドラら三人組はというと。


 一対一で対峙した他の連中と違い、三人掛かりで立ち塞がったというのに。たった一体の小柄な蛇人間の動きにすっかり翻弄(ほんろう)され、突破を許してしまう始末。


「ゔお、こ、こいつっ⁉︎」


 まず蛇人間は、息巻くエルザの脇を軽々とすり抜け。

 蛇人間が突破のため、次に狙いを付けたのは魔術師のファニーだった。


「う、嘘っ……」


 咄嗟(とっさ)の反応だったため魔法の準備が間に合わず、無詠唱で足止めの魔法を唱えようとするが。その隙を突かれ、蛇人間が襲い掛かる。


「危ないっ!」

「か、カサンドラっ?」


 カサンドラの大楯(タワーシールド)が蛇人間の攻撃を防ぎ、事なきを得たが。蛇人間の攻撃は、逆にカサンドラとファニーの足を止めるには充分だった。

 こうして新たに一体の蛇人間は、三人の阻止を振り切る事に成功してしまったわけで。これで合計三体、後方への突破を許してしまった事となり。


 後方に控えていた武侠(モムノフ)らに、動揺が広がる。それは、魔竜(オロチ)が吐いた血溜まりから()い出てくる一連の様子を見ていたのと。

 たった今、カサンドラら三人組やヘイゼルをも翻弄(ほんろう)してみせた蛇人間の動きを「見て」しまったからでもあった……が。


 ◇


「落ち着け、皆の者! そして、武器を取れ!」


 大声で(げき)を飛ばしたのは、ナルザネ。


 その一言で、動揺のあまり騒々(そうぞう)しく声を上げていた武侠(モムノフ)らがピタリと口を閉じる。

 そこからのナルザネの行動と指揮は素早かった。


「まず、武侠(モムノフ)らを四つの集団に分ける」


 加勢に来た武侠(モムノフ)は、リュウアン・コウガシャ・アカメ・テンジンの四つの都市から集められていた。なのでナルザネは、自分が所属する都市ごとに武侠(モムノフ)を分ける事とした。

 当然、四つの部隊を率いるのは、それぞれの領主たち。他の武侠(モムノフ)より武勇に優れた領主らではあったが、彼ら四人はいずれも二の門を守るナルザネ以外のカガリ家四本槍との戦闘で負傷していたからでもあった。

 

「二つの部隊で一体に当たり、決して無謀な戦いはするな」


 それとは別に。ナルザネとイズミ、ジャオロンとモリサカは武侠(モムノフ)には加わらずに独自の行動を取る。


「我らは名誉ある勝利を得なくとも良い! ただ数で囲み、敵である三体の魔物を容赦なく討ち取ればよいのだ!」

「「お……(おう)っっ‼︎」」


 ナルザネの(げき)と指示に、徐々に後方で控えていた武侠(モムノフ)の眼に戦意が宿っていき。

 一度は鞘に収め、下ろしていた剣や槍を握り締め。頭上高くに振り上げながら、ナルザネの言葉に応えるかごとく大声を張り上げる。

 

 ◇


「どうやら……後方は何とかなりそう、だねぇ」

 

 アタシは、真っ黒い爪を伸ばして攻撃の隙を(うかが)う蛇人間と、睨み合いを続けながら。背後で繰り広げられていた武侠(モムノフ)らのやり取りに耳を立てていたが。

 さすがはナルザネ。カガリ家四本槍の一人だけはあり、配下への影響力は見事としか言いようがない。まあ……アタシも(ナルザネ)の正確な肩書きを知ったのは、二の門に到達した際だったが。


「アズリア……突破を許したのはまあ、仕方ありませんわ! ならば、まずは邪魔者をさっさと片付けますわよっ!」

「……ちッ、仕方ないねぇッ」


 少し離れた位置で、同じく蛇人間と対峙していたお嬢(ベルローゼ)から指示が飛ぶ。

 上から目線で指示される事に、少々腹立たしさを覚えもしたが。それがお嬢(ベルローゼ)であれば、(むし)ろ高慢な態度は仕方がない。それに、口にした内容は何も間違ってはいないのだから。


 アタシは舌打ちを隠すつもりもなく、目の前にいる蛇人間にその苛立ちをぶつけるべく。


「いくよッ……九天の雷神(ウラヌス)……ッッ」


 自分の血で胸に刻んだ魔術文(ルーン)字に、アタシの魔力を喰らわせていくと。

 激減した魔力と引き換えに。先程、魔竜(オロチ)に浴びせたのと同様に、無数の雷撃がアタシの周囲へと展開していく。

 

 魔力の消耗が激しく、またこちらの意識が緩めば身体を乗っ取られる懸念がある「九天の雷神(ウラヌス)」の魔術文(ルーン)字を発動時は。その他の魔術文(ルーン)字を同時に扱う「二重発動(デュアルルーン)」が使えない。

 大剣の威力をいや増すための、一番熟練している右眼の魔術文(ルーン)字すらも。


 だが、それでも。


 アタシの身体を支配しようとする、魔術文(ルーン)字に宿った意識の主は。右眼に宿る「巨人の恩(ウニョー)恵」が与える筋力の増強とはまた違う、身体強化をアタシに与えてくれる。

 周囲に展開する雷光の如き、爆発的な移動速度を。


「さっさと片付けてッ──」


 蛇人間まで十数歩の距離を縮めようと、地面を蹴った途端。

 前方へと跳躍したアタシは、空に浮いたような感覚に加え。顔には激しい風が吹き付けたか……と思うと。

 もう眼前には、蛇人間の胸板が迫っていた。(まばた)きをする程度の一瞬で、蛇人間との距離を潰してしまったのだ。

 

「やるよッッ‼︎」


 速度が上昇しているのは脚力だけではない。距離を詰めたのは、蛇人間に攻撃を仕掛けるためだ。ならば当然、手に握っていた大剣による一撃が放たれる筈なのだが。

 真横へと構えていたクロイツ鋼製の重量ある大剣を、切先が見えなくなる程の凄まじい速度でアタシは振るっていく。

 その剣閃は、まさに真横に奔った雷光(いかずち)

 

 一瞬で距離を詰められたこと。

 そして、あまりに速すぎる剣閃に。

 その場から一歩も動けなかった蛇人間。


『……ギ? ギ、ギ?』


 アタシの放った高速の一撃は、全身を覆う黒い(うろこ)ごと真横に胸を両断した。

 しかし、蛇人間は胸を大きく斬られたにもかかわらず、斬られた事すら気付いていない様子で。自分の胸をぺたぺたと触っていたが。


 直後、触っていた胸が大きく裂け。


『──ギ! がアアアアアアアアアア⁉︎』


 真っ黒な血を傷口から盛大に噴き出しながら、胸が背中まで折り畳むよう裂けていき。

 両膝を地に突き、頭を後方に倒しながら。斬られた蛇人間は、静かに地面へと崩れ落ちていく。

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