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273話 アズリア、魔竜へのさらなる追撃

 だが、堂に入った構えとは対照的に。魔竜(オロチ)を睨み()えるヘイゼルの表情はあまり明るくない。

 と、いうのも。ヘイゼルが狙うのは(うろこ)()がれ、肉が露出した箇所なのだが。

 その射線上には、傷口を(えぐ)り続けるユーノがすっかり被っていたからだ。このまま槍を投擲(とうてき)すれば、ユーノを背中から貫く可能性だってあった。

 それでもヘイゼルは強行する。


「……何とか避けなよ、ユーノっっ!」


 ユーノへの警告を発すると同時に、身体強(ブースト)化した腕から。握った槍を魔竜(オロチ)目掛け、力任せに投げ放った。

 

「う──うえええぇっっ⁉︎」


 ヘイゼルの腕から離れた槍は、風を切る音を立て一直線に魔竜(オロチ)へと飛んでいき。

 その槍の先端は、ヘイゼルの呼び掛けに気付いて後ろに振り返ったユーノの眼前にへと迫っていた。


「ひゃわああああああ⁉︎」


 慌てたユーノは、魔竜(オロチ)の傷口に深く入り込んでいた右腕を急いで抜き。真横に転がるようにして、眼前へと迫ったヘイゼルの槍を回避する。

 ユーノの回避までの一連の行動が素早かったことが幸いし、咄嗟(とっさ)に避けたユーノの横を通過し。

 魔竜(オロチ)()き出しになった肉へと突き刺さる。


「あれれ? 陸に上がるのが長かったせいか、随分と(かん)が鈍っちまったかね?」


 投擲(とうてき)したヘイゼルは、狙い通りに(うろこ)()がれた箇所に槍が命中したにもかかわらず。

 ユーノに当たりそうになった槍の軌道に、どこか納得しない顔をしていたのだったが。

 

「あ……あぶ、なっ……」


 もし、ユーノがヘイゼルの警告に気付かず、なおも魔竜(オロチ)の傷口を(えぐ)るのに集中し続けていたとしたら。

 投擲(とうてき)した槍は、見事なまでにユーノの背中に直撃していただろう。その事は、間近で何とか回避出来たユーノが一番実感していただろう。


 当然ながら、ユーノだって怒る時は怒る。


「ど、どこなげてんだよヘイゼルちゃん! ボクにあたりそうだったじゃないかっ!」

「いや、(わり)(わり)ぃ……でも、あれを避けれたのはさすがだね、ユーノ」


 怒りの感情を(あら)わにしたユーノは、アタシの横にいたヘイゼルを怒鳴(どな)りつけるが。

 怒鳴(どな)られた当人(ヘイゼル)はというと。怒るユーノを(なだ)めるために、適当に謝る素振りこそ見せるも。

 中々ユーノの怒りは収まらない。それも当然だろう、下手すれば味方から攻撃されるところだったのだから。


 それに、ユーノが怒っている理由はもう一つある。


「それにっ……なんでボクのじゃまをしたんだよっ!」


 そう。普通に考えれば、いくらヘイゼルが「筋力上昇(マイトアップ)」を自分に発動させ、槍を投擲(とうてき)したところで。肉を深く(えぐ)ってうユーノの右拳が与える打撃が、ヘイゼルの槍よりも有効なのは、誰もが理解出来る話だ。

 その追撃を中断させてまで、槍を投げた理由がユーノには納得が出来ない。それも含めて、ユーノはヘイゼルに怒っていたのだ。


「……それはさ」


 さすがに、適当に(あし)らってユーノを納得させるのは難しいと思ったのか。わざわざ背後から慣れない武器を扱った理由を説明しようとするヘイゼル。

 同時にアタシは。何故ヘイゼルが槍を魔竜(オロチ)に突き刺したのか、その意図を理解していたため。

 

「ソイツはね……こういうワケだよ、ユーノッ」


 ヘイゼルがユーノに言葉で説明するよりも早く、アタシは「九天の雷神(ウラヌス)」の魔術文(ルーン)字から(あふ)れ、(ほとばし)る魔力を操り。

 再び周囲に、何本もの雷を生み出していく。


「こ、これって……さっきおねえちゃんがつかった、かみなりっ……?」

「ああ、でもユーノが知ってる通り。普通に発動したんじゃ、せいぜいが魔竜(オロチ)の表面を焼いて動きを止める程度。だけど……ねぇ」


 さすがは一度ならず二度も、アタシの身体を乗っ取り、意識を奪おうとする何らかの意思の宿った特殊な魔術文(ルーン)字だけあり。

 二重発動(デュアルルーン)で増強した大剣の一撃を易々(やすやす)と弾いた魔竜(オロチ)ですら、効果的な雷撃を浴びせる事には成功したものの。魔竜(オロチ)を倒せるだけの決定打には、なり得なかった。


 だからアタシが魔術文(ルーン)字の魔力で雷撃を操ることが出来る、と知ったヘイゼルは。

 何らかの経験から、自然の雷が持つ特性を思い出し、利用しようと考え。咄嗟(とっさ)に加勢に来た武侠(モムノフ)から槍を借り受け、魔竜(オロチ)の身体へと突き刺したのだ。


 雷が持つ特性──それは、自然の雷が持つ特性、それは「雷は物質を伝達する」というものである。

 

 大陸でも、城や教会など高い建物に雷が落ちる事故が多発し、建物の崩壊や火災が起きた事例があったためか。落雷の直撃から建物を守る研究が、魔術師の間で進められたこともあった。

 アタシはその時の文献に目を通したことがあったおかげで、雷の持つ特性を知る事が出来たのだが。


「力を……解放しな、九天の雷神(ウラヌス)ッ!」


 アタシの掛け声に応え。


『──従おう。我が主人』


 二度における身体の支配権を争った結果、今の時点ではアタシが従わせる事が出来た「魔術文(ルーン)字に宿った意思」が頭の中で返事をする。

 同時に、アタシの周囲に展開していた無数の小さな雷が一気に集束、膨れ上がり。ある一点に向けて(まばゆ)い雷撃が空中を何本も走った。


 雷撃が集まった箇所とは、ヘイゼルが投擲(とうてき)し突き刺した槍の末端。

 

 自然の落雷とは違い、アタシの魔力によって自在に方向を操る事が出来る無数の雷撃は。

 槍へと接触した瞬間、衝突した箇所のみならず槍全体からバチバチと火花を散らし、空気が爆発したような轟音を周囲一帯に鳴り響かせながら。

 雷撃の威力が槍を伝わって、魔竜(オロチ)の体内へと流れ込まれていった。

 

『が──あああああアアアアアアあアアア⁉︎』

 

 つい先程、喰われそうになったモリサカを救出するために放った雷撃とは比較にならない程の。苦悶(くもん)に満ちた絶叫を発する魔竜(オロチ)

 それもその筈、先程の雷撃は体表を焼いただけに(とど)まったようだが。今、アタシが放った雷撃は、槍を伝わり魔竜(オロチ)の体内を焼いているのだから。


 アタシが放った雷撃が、ヘイゼルの突き刺した槍に集束する状況を目の当たりにし。


「す……すごいっ、これが、おねえちゃんの、まほうっ……」

「そういや、ユーノの前で見せるのは初めてだったっけねぇ」


 アタシが魔力を解放し、魔竜(オロチ)へと浴びせた無数の雷撃の束の威力に。唖然(あぜん)とした表情を浮かべていたが。


「そ、そっか……だから、ヘイゼルちゃんは」


 自然の雷が持つ知識はなくとも、目の前で起きている状況に。早速「ヘイゼルが槍を投擲(とうてき)した理由」に自力で到達し。驚きながらも、すっかり納得していたユーノだった。


 これまでのユーノとの共闘で「九天の雷神(ウラヌス)」を用いた事がなかったからか。魔法が使えないアタシが、魔術師ばりに雷撃を操る姿に驚いていたかもしれないし。


「……いや、もしかしたら」


 アタシはユーノに聞こえないよう、小声でとある可能性についてを思慮(しりょ)していた。

 

 ユーノの実兄で魔王領(コーデリア)()べる魔王・リュカオーンもまた、強力な雷属性を駆使する人物であった。

 もしかしたら、雷を操るアタシに。兄である魔王(リュカオーン)の姿を重ねて見たのかもしれない。

 顔や態度には出さないものの、ユーノが生まれ故郷の魔王領(コーデリア)から離れ。既に三月(みつき)ほどが経過している。

 ……まだ年齢の幼いユーノが望郷(ぼうきょう)の念を抱いている可能性だって否定は出来ないのだ。


 長い間、ユーノを連れて海の王国(コルチェスター)、そしてこの国(ヤマタイ)と旅を続けていたが。

 そろそろユーノを故郷へと帰す、という選択を考えても良い頃だ、とアタシはふと思った。


 ……当然ながら。

 魔竜(オロチ)との戦闘が無事に決着したら、というのが前提ではあったが。

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