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22話 アズリア、薬師に感謝する

 まだ泣き出してない子供に案内してもらい、村人たちと一緒に、体調を崩したという修道女(シスター)が寝ている教会の奥の部屋へと行くと。

 額に水で濡らした布を置かれ寝かされていた修道女(シスター)のエルがしきりに(うな)されていた。


「……エルお姉ちゃんの熱、全然下がらないの……どうしようザック兄ちゃん……うっ、うっ……」


 部屋の中には寝ているエルと、その彼女を看病していた女の子が、アタシたちが入ってきた途端に弱音を吐いて泣き出してしまう。

 外で泣き出した子供らといい、村人の良い評判といい、このエルという修道女(シスター)は随分と慕われていた様子が伺えるというものだ。


修道女(シスター)の身体、ちょっと見せてもらってもいいかな? ……もしかしたら、アタシが見たことある病気かもしれない」


 アタシには治癒魔法は使えないし、薬を調合する知識も技術も持ち合わせていないが、七年の旅路の経験値というモノがある。もし特徴的な病状が出ていれば何の病気なのかぐらいは分かる。 


「……大丈夫、別に修道女(シスター)に変なことをするわけじゃないよ。だから、ちょっとだけお姉さんを信用して……貰えないかな?」


 だが、知らない余所者に慕っている修道女(シスター)を触れられるのに抵抗のある子供たちは、アタシが彼女に近づこうとするのを袖を掴んだり、アタシと彼女の間に立ち塞がったりしていた。

 そんな子供たちに対して、アタシは頭を下げて信用してもらうしかなかった。


「……ホントに? 変なコトしない?」

「ああ、約束するよ。それに、みんなだって早く修道女(シスター)に元気になって貰いたいだろ?」


 子供たちは全員、無言でコクンと頷く。

 そして掴んでいた袖を離してくれて、修道女(シスター)との間を空けてくれたのだ。

 出来るなら、子供らの期待に応えてあげたい。

 そんな気持ちで、アタシは寝ている修道女(シスター)に掛けられている布団を(めく)り、彼女の全身を隈なく観察する。


「……おいおい、こりゃ一体……これじゃまるで子供じゃないか……?」


 シスターエルの身体を観察して、まず最初に思ったこと、それは……外見的に彼女はこの孤児らと何ら変わらない小さな身体をしていた、ということだ。

 発育不良なのかもしれないし、この世界には外見の年齢と実際がかけ離れた人間というのも存在する以上、話してみないことには断言は出来ないが。


 ……にしても、お腹にある特徴的な紅い斑点。

 そして額に手を当ててわかる高熱。

 この症状、メルーナ砂漠の入り口にあるアウロラの宿場町の薬師に聞いた「熱砂病」の特徴によく似ている。

 あの病気は砂漠特有のものだ、と一瞬思いはしたが。スカイア山嶺の高い山々で隔てられた向こう側にはメルーナ砂漠が広がっているのだ。

 もしかしたら強い風に煽られ、メルーナ砂漠の砂埃(すなぼこり)がこの村に辿り着いたのかもしれない。


 だが、修道女(シスター)が侵されているのが熱砂病なら、寧ろ好都合だったりする。

 何故なら、アタシは先日の砂漠の国(アル・ラブーン)の旅で幸運にも熱砂病の特効薬を何本か貰っておいたからだ。

 確か、腰につけた袋に入れておいたはずだが……

 

「あちゃー……一本硝子(ガラス)瓶が割れて中身が漏れちゃってたか、もったいないコトしたねぇ……まあ、二つは無事だったから幸いだったよ」


 中身が無事だった二本の特効薬のうちの一本を、腰から取り出して見せると。

 まだ子供たちの目は突然現れたアタシを信用してくれてはいないようだったので。


「コレはさ、修道女(シスター)に効くかもしれないお薬なんだけど。いきなりやって来たアタシが信用出来ないってんなら──」


 子供の中で一番年長そうな男の子に、アタシは持っていた特効薬の硝子(ガラス)瓶を手渡していく。


「飲ませるかどうかは……アンタらに任せるよ」


 薬瓶を受け取った子供らは顔を見合わせながら、無言でアタシの薬を修道女(シスター)に飲ませるかどうかを目線だけで相談しているようだった。

 どうやら結論が出たみたいで、手渡した薬瓶をもう一度アタシに返してきた子供は、


「お姉さんを信用します。エルお姉ちゃんを助けて下さい、お願いしますっ」

『お願いしますっ!修道女(シスター)を助けて!』


 無論、薬瓶を出した以上は断るつもりもなかったが、さすがに子供たち総出のお願いで頼まれたのに、薬が効かなかったり駄目になってたりしたらどうしよう……などと不謹慎にも考えてしまった。

 

 さて、問題は修道女(シスター)のこの状態で薬が飲めるかどうかだ。試しに水差しで口に水を含ませてみたが、水を飲み込む様子は見えず口の端から含ませた水が垂れてきてしまった。


「……やっぱ飲まないか。熱がひどいと時折り水を自分で飲めなくなるようになるんだよね。となると、やっぱコレ(・・)しかないみたいだねぇ……」


 アタシは意を決して、薬瓶の中身を口に含んでから修道女(シスター)の唇を舌でこじ開けていき、舌を口の中に差し入れてアタシの口の中にある特効薬を流し込んでいく。

 

 ぷちゅ……くちゅ……ちゅぱ…………こくん……


 修道女(シスター)を見守っていた子供たちや村人らが無言だったために、アタシが修道女(シスター)と唇や舌を絡める音や、修道女(シスター)の口内に薬を注ぎ込む音が部屋に響いてしまい。

 何故か……村人の何人かが顔を赤らめていたが。

 修道女(シスター)の喉からちゃんと薬を飲み込む音が聞こえたのを確認して、


「……ふぅ、コレで一安心だね。あとは薬が効いてくれば腹の斑点も消えるし、熱も一晩寝れば下がってるハズだよ」

「……ホントに、エルお姉ちゃん助かるの?お姉さん?」

「アタシの見立てが間違いじゃなきゃね。もし薬が効かなかったら泥を投げるなり何なりしてくれたらいいさ」


 と、傍にいた子供の頭を撫でてやった。

 途端に泣き出しそうになる子供の額を指で極々軽く弾いていく。

 

「ほら?まだ泣くんじゃないよ。泣いていいのは、修道女(シスター)が元気になった時、な」

「…………うんっ。泣かないよっぼく」

「よし、いい子だ。ご褒美にコレをやるよ」


 それは、スカイア山脈を旅していた時に遭遇し、リュゼらと倒した飛竜(ワイバーン)の鱗だった。


「うわぁ……コレすごい、キレイぃぃ……」

「うおおお!……な、なんだよコレ!」


 この鱗、角灯(ランタン)の明かりを当てる角度を変えると色や光り方が変わる性質を持っているのだ。

 アタシが早速、目の前で部屋の灯りに鱗をかざして色が変わる様子を見せていくと、受け取った子供らは大層喜んでくれたようだ。


 子供らに混じり、背後にいた村の男連中が子供とアタシが(たわむ)れる様子を見ながらヒソヒソと話していた。


「……な、なあ、あの鱗の大きさ、あれって飛竜(ワイバーン)……しかもありゃあ山の(ヌシ)の鱗なんじゃねえか?」

「……ああ、俺も今そう思った。あの傭兵の姉ちゃん……やたら強いと思ったら、山の(ヌシ)を倒せる程なのか……」

「……そりゃ帝国兵があれだけ束になっても勝てないワケだ……村の連中総出で戦っても(ヌシ)相手じゃ全滅確定だもんな……」


 会話の中に色々と聞き捨てならない単語が含まれていたんだが、そこは敢えてきにしないことにした。

 何だよ、山の(ヌシ)って……

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