表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1334/1782

252話 アズリア、ジャトラを論破する

 まさか、理解しないと思わなかったのだろうか。

 

 幽閉された小屋からマツリを連れ出す際、ただの一人も護衛の武侠(モムノフ)を引き連れてない上に。

 自分が壁に吹き飛ばされる窮地にすら、援軍を呼ばない時点で。ジャトラには既に、動員出来る武侠(モムノフ)が残されていないと自ら証明した事に。


「なら、呼んでみろよ。まあ……カムロギを倒したアタシを、止められるだけの手駒(てごま)がまだ残ってるなら、ねぇ?」


 そこまで理解していながらアタシは、壁にもたれ座ったままのジャトラを挑発していく。

 目の前にいる人物(ジャトラ)は、今は間違いなくカガリ家の当主なのだから。一声「自分を守れ」と声を上げれば、城内に待機している武侠(モムノフ)が増援に来るに違いない。

 

「ぐっ……ぐ、ぬ、ぬぅぅぅぅ……っ」


 だが、ジャトラは。冷ややかに嘲笑(ちょうしょう)するアタシを恨めしそうに見上げながら、ギリギリ、と歯軋(はぎし)りをするだけで。一向に救援を呼ぼうとはしなかった。


「何を出し惜しみしてるんだい。アタシにあれだけ大口叩いたんだ、当然いるんだよなぁ……それとも」


 アタシは知っているのだ。

 もし、城内に最早(もはや)ジャトラの命令に従う配下が誰一人といなかったとしても。最後に一つだけ、切り札とも呼べる存在が控えている事を。


 問い詰められたジャトラがアタシから視線を逸らし、一瞬だけ焦点を泳がせたのを見逃がさなかった。


「な? な、何の……話だっ?」

(とぼ)けるんじゃないよッ」


 背負っていた大剣に右手を伸ばし、柄を握ると。二、三、空中で巨大な大剣の刃を振り回してた後、ジャトラの眼前へと切先を突き付けてみせた。


「──ひ、ぃっ⁉︎」


 その時、距離感を少し誤ってしまったためか。ジャトラの鼻先を鋭い先端がほんの(わず)か掠めたようで、鼻の頭が切れ、血が流れたと同時に小さな悲鳴を漏らすジャトラ。

 

 だがアタシは血や悲鳴を意にも介さず。空いた左手で、腰にぶら下げた革袋の中から何かを取り出し、ジャトラの足元へと投げ付けていき。


「ソイツは……シラヌヒ(ここ)までの道中、アタシらを襲った蛇人間の残骸(ざんがい)さね。フブキがいなけりゃ、ただの襲撃で終わったんだろうけどねぇ」

「な、何だこれは? 貴様……何を言っている?」

「まだ気付かないのかい?」


 アタシがジャトラに投げ付けたのは、襲撃してきた蛇人間の息の根を止めた後に、その場に残った骨だ。

 問題は、この骨がただの魔物の骨ではないという事だ。


「まあ……骨だけじゃ無理もないか、ねぇ」

「も、勿体(もったい)ぶるなっ! この骨が一体何だというのだ、言いたい事があるなら早く教えろ……ひぃっ?」


 投げ付けられた骨の正体を、語気を強めてアタシに問い詰めてくるジャトラ。

 大剣を突き付けられ、こちらが決断すれば何時(いつ)でも生命を奪えるという立場を忘れていたようなので。


「──アンタ、この状況を理解してないのかい」

「……が、っ……ぐぅぅ、っ……」


 アタシは今一度、ジャトラの鼻先に大剣の先端を押し付けていくと。どうやら自分が追い詰められた状況だ、という事を思い出してくれたのか。ようやく(やかま)しい口を閉じてくれた。

 

 興奮が収まったのを見たアタシは、ジャトラに手渡した骨の正体についての説明を再開する。


「……アタシらを襲った蛇人間は、倒されると元の人間の姿に戻った。問題は、その人間なんだけど……フブキ、間違いないんだね?」

「あ、うん、間違いないわ」


 アタシは今一度、フブキに確認を取る。蛇人間に変貌(へんぼう)する前の顔や姿、その正体を知っていたのは。アタシではなく彼女(フブキ)だからだ。

 

「蛇人間に姿を変えられていたのは、ジャトラ……お前の奥方(おくがた)のサラサと、コクエン家の後継(あとつ)ぎのタツトラ。その骨は二人のものよ」

「は?……ま、待て、な、何だその話は? お、俺は知らんぞ、そんな話っっ⁉︎」


 フブキが告げた、骨の正体に。一度はアタシが突き付けた大剣で消沈したジャトラが再び興奮し、(わめ)き散らし始める。


「アンタの妻と子供は、頭が蛇の魔物に姿を変えられてアタシらを襲ってきたのさ。それでアタシは確信したよ」


 そう。ジャトラの背後に控えている最後の存在とは。彼の妻と子供を蛇人間へと変貌(へんぼう)させた、魔竜(オロチ)以外にはあり得ない。


「アンタの背後にゃ、まだ魔竜(オロチ)がいるんだッてコトがねぇ」


 少なくとも、最初に魔竜(オロチ)遭遇(そうぐう)したハクタク村では。生贄(いけにえ)を連れて行く役割の武侠(モムノフ)を撃退して即座に、一回目の魔竜(オロチ)の襲撃が起きた事から。ジャトラが襲撃に関与した可能性は薄い、と思っていた。

 二度目の遭遇(そうぐう)と襲撃でも、フルベやハクタク村などの人里がありながら、何もない離れの岩壁の牢獄などに登場した理由が不可解すぎる。

 だが……ジャトラの元から逃走したものの、牢獄に幽閉されていたフブキを喰わせるためと仮定すれば。

 一見、不可解な行動も、ジャトラを利するよう動いているのだと納得が出来た。


 一方で、アタシの懸念は。フブキを救出した際に倒した二体の魔竜(オロチ)で、ジャトラに協力していた魔竜(オロチ)が最後となりいなくなってはいないか、という事だった。

 アタシは「ある理由」から八頭魔竜(ヤマタノオロチ)に興味を持った。倒すべき相手として。

 その懸念を取り払ってくれたのが、シラヌヒまでの道中に襲撃してきた、ジャトラの家族が変貌(へんぼう)した蛇人間だった。

 ジャトラの背後にはまだ、魔竜(オロチ)が存在している、と。


「確かに……確かに俺は、自分の地位を! 奪おうとする連中全部に対抗する力を得るために! 愛する妻と息子を(にえ)に捧げた! だ、だが全ては、我が国と我が領地の存続と繁栄(はんえい)のため!」

「──呆れたねぇ。そんなコトのために、家族を魔竜(オロチ)に喰わせた、ッてのかい」


 本来ならば、この国(ヤマタイ)の人間に多大なる損害を与えたから、地の底に封じられているべき存在の魔竜(オロチ)を。

 どうやってジャトラは、自分に協力するように仕向けたか。至極、簡単な理由だったのだろう。つまり、領内の人間を定期的に「生贄(いけにえ)」として喰わせていたのだ。


 ハクタク村に生贄(いけにえ)を差し出すよう迫った時のように。

 ジャトラが自分の妻と子供を捧げたように。

 そして。


「追い詰められ、手駒(てごま)のないアンタは最後に、マツリを魔竜(オロチ)に喰わせようとした……そうだろ?」

「ああ、その通りだ!」


 何故にこの時点で、幽閉された場所からマツリを連れ出す必要があったのか。少し頭を使えば、容易にその結論には到達するとあって。

 問われたジャトラはいとも簡単に、マツリを魔竜(オロチ)生贄(いけにえ)に捧げようとしていた事を白状した。


「な……何て、こと……っっ?」

「ね、姉様っ!」


 ジャトラの言葉を聞いたマツリは、途端に恐怖で足が震え出し、顔色を蒼白に変えてしまう。

 もしあの時……フブキの救出が遅れ、助けが間に合わなければ。自分は魔竜(オロチ)に捧げられていたかもしれないと想像したのだろう。


「大丈夫だよ姉様。私が(そば)にいるから」

「うん……うん、ありがとう……フブキ」

 

 だがマツリは、妹のフブキとこうして無事に再会を果たした。

 今も、恐怖で身体を震わせていたマツリの肩を。フブキがしっかりと抱き締めて支えているからだ。


 画策していた計画のほぼ全てが明るみに晒された事で、画策していた(たくら)みを台無しにされたのが余程悔しかったのだろう。

 アタシへと向けたジャトラの視線と表情は、今にもこちらを睨み殺さんばかりの憎悪が込められていた。


「き……貴様に何がわかるっ! 余所者(よそもの)の貴様に、徐々に土地は衰退(すいたい)し、緩慢(かんまんな死を待つのみの我が国の運命を変えるための努力を……()(ざま)に否定される(いわ)れは微塵(みじん)もないわっっ‼︎」


 計画を破綻(はたん)させたアタシへの怒りからか、目を真っ赤に血走らせたジャトラは。

 次から次へと荒々しい口調で言葉を(まく)し立てるうちに、ついには口を止める好機を見失ってしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者のモチベーションに繋がるので。

続きが気になる人はこの作品への

☆評価や ブクマ登録を 是非よろしくお願いします。

皆様の応援の積み重ねが欲しいのです。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ