表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1332/1782

250話 アズリア、フブキと姉との再会

 だが、(いさ)まさい言葉とは裏腹(うらはら)に、フブキの身体は少し震えていた。

 あと少しで姉と再会出来る歓喜からか……それとも。自分が幽閉されていた時の記憶を思い返していたからだろうか。


「……大丈夫だよ、フブキ」

「あ、アズリアっ?」


 だからアタシは、手綱(たづな)を握っていない側の手を震える彼女(フブキ)の肩に置き。一瞬だけ、進路の先から視線をフブキの顔へと移し、声を掛けた。

 

「ここまでアンタは頑張ったんだ、あとはアタシがしっかり助け出してやるよッ」

「う、うんっ!」


 (わず)かばかりの言葉のやり取りだったが、話を終える頃には。先程までのフブキの身体の震えはすっかり止まり、落ち着きを取り戻す。


「……にしても。少し、静かすぎやしないかい?」


 アタシとフブキが会話をしていた間にも、シュテンは城内を風のような速度で駆け抜けていくが。その間、誰にも遭遇(そうぐう)する事がなかったのを不思議に思っていた。

 一の門の防御に、二〇〇を超える武侠(モムノフ)を動員していたのだ。てっきり、城の守りには同じ程度、いやそれ以上の人数を用意しているとばかり予想していたのだが。


「アタシとしちゃ、城に近づいたらもっと敵が押し寄せてくる……ッてのを覚悟してたんだけどねぇ」

「そう言えば……普段ならもっと警護の武侠(モムノフ)がいてもおかしくないのに……?」


 最初は、この国(ヤマタイ)と大陸との考え方の相違(そうい)かとアタシは思っていたが。

 元は城の住人だったフブキも、今の状況が異常だと口から漏らし。城内で起きている異常な事態の原因を、(あご)に手を当てて考え込んでいた。


 そして、彼女(フブキ)が出した結論とは。

 

「……でも、あり得ない話じゃない」

「どういう意味だい?」

「あのね、元々シラヌヒにいる武侠(モムノフ)は、一の門を守ってた人数ほどなの。それに、援軍に来てくれた領主たち」

「ああ、イズミが引き連れてきた連中だね」

「うん、あの四人は……フルベと同じくらいシラヌヒ(ここ)に近しい都市(まち)の領主、それがジャトラに叛意(はんい)を示したってことは」


 そこまで言われれば、この国(ヤマタイ)やカガリ家の内情に(うと)いアタシでも。フブキが出した結論に察しが付いた。


「つまり。一の門の防御で、ジャトラは自分の配下の武侠(モムノフ)を使い果たした……ッてのかい」


 アタシの回答に、フブキは無言で(うなず)いてみせた。

 今の仮想が真実なのだとしたら。アタシは一連の黒幕であり、マツリから当主の座を強奪するために用意周到に準備していた、用心深く、慎重な性格だというジャトラの人物像を。少しばかり過大評価していたのかもしれない。

 なのであれば。アタシとカムロギの一騎討ちに割り込み、カムロギに魔竜(オロチ)の血を飲ませ、魔物へと変貌(へんぼう)させようとしたあの行動も。

 妻と子を同じく魔竜(オロチ)の血で魔物に変貌(へんぼう)させ、アタシらに差し向けた事も。全て、辻褄(つじつま)が合う。


 ……おそらく、ジャトラという人物は一番上に立つ器ではなく。フブキの話のように、強力な指導者の横での補佐役こそ合っていたのであり、器の限界だったのだろう。

 だからこそ、今までの用意周到だった人物像とはまるで違い。自分の地位を守るためなら手段を選ばす、しかもまるで後先を考えないような行動指針を取った。いや、取るしかなかったのだ

 

「いや……だとしたら、ッ」

「ど、どうしたのよアズリアっ、い、いきなり?」


 アタシの頭に突如として懸念が湧き上がる。

 

 今までの仮想が的中していて、ジャトラの手駒(てごま)が既に何一つ無かった場合。追い詰められ、焦燥(しょうそう)した黒幕(ジャトラ)が最後に取る行動とは。

 今や、ジャトラに残されているのはマツリの身柄だけ。


「ジャトラはマツリを魔物にするか、もしくは魔竜(オロチ)に喰わせるつもりだ! アタシらを倒すためにッ!」

「え、えっ? ま、まさか……っ」


 アタシの言葉を聞いて、「信じられない」といった表情を浮かべ、一度は否定をしようとしたフブキだったが。

 過去にジャトラの手によって、魔竜(オロチ)生贄(いけにえ)に捧げられるところだったのを思い出したようで。

 明確な否定が出来なくなったのか、言葉を詰まらせてしまう。


「取り返しがつかなくなる前に……急ぐよッ!」


 と同時に、シュテンが(いなな)きを鳴らし、さらに(ひづめ)を力強く地面に打ち鳴らし、駆ける速度を上昇させていった。

 手綱(たづな)をしっかりと握り、後ろに(また)がっていたアタシが支えてなければ。フブキが落馬してしまうかも……という速度にまで。


「……っっ、くぅ……ぅっ!」


 シラヌヒまでの道中でも、シュテンが高速で山道を駆け抜け。身体に当たる風圧と、目紛(めまぐる)しく変わる景色の早さに絶叫していたフブキだったが。

 さすがに姉の無事がかかった状況なのを理解しているようで。叫び声が口から漏れないよう、懸命に声を殺して耐えているフブキ。

 

 そんなフブキが何とか指で指し示す、マツリが幽閉されている小屋へとシュテンを走らせていると。


「──ありゃあ」


 これまで黒装束(くろしょうぞく)の襲撃の後、一人たりとも城の警備やその他の人間に遭遇(そうぐう)してこなかったが。

 進路の先、まだ距離は空いてはいたが、アタシの視界が初めて人影を捉える……それも、二人。


 まだ顔を判別出来るような距離ではないが。どうも二つの人影は、強引な侵入者であるアタシらを警戒している様子ではなく。武器を構える素振りも見せていない。

 小屋までの進路ではあるが、警戒のために一旦はシュテンの速度を落として接近するべきか。アタシが握っていた手綱(たづな)を引こうとした、その時。


「ね……姉様っ! マツリ姉様ああああっっ⁉︎」


 フブキが突然、マツリの名前を叫び出したのだ。


 ◇


 一瞬の隙を突いて、小屋から逃げ出したマツリだったが。

 直後、追ってきたジャトラに着ていた衣服の(えり)を掴まれ、捕らえられてしまった。


「来いっ! この地を(よみがえ)らせる魔竜(オロチ)(かて)になれるのだ! 元は当主としてこれ程の役割はないだろう!」

「は、離しなさいジャトラ……っっ!」


 (えり)を掴まれた程度なら、まだ逃げられるかもしれない、と。(わず)かな希望から身体を左右に振り、ジャトラの手を振り解こうとするも。

 (えり)を掴むのとは反対の手で、マツリの手首を掴んで自分の懐へと引き寄せたジャトラは。


魔竜(オロチ)(にえ)にはその身があればいい……逃げようとするならば」

「ま、魔法っ?」


 怯えたマツリの両眼を覗き込みながら、唇から聞き取れないほどの小声で魔法の詠唱を始めていく。


 詠唱から何の魔法を使おうとするか、など。マツリには判別は出来なかったが。それでも直感的に、自分の意識を断つ、もしくは混濁(こんだく)させる効果の魔法であろう事は推察出来た。

 だからマツリは、どうにかジャトラから離れ、魔法の効果を避けようと抵抗するも。単純な腕力で華奢(きゃしゃ)なマツリが、歴戦の武侠(モムノフ)でもあるジャトラに(かな)う筈もなく。


「も、最早……これまで、ですか……っ」


 観念して両目を閉じ、せめてもの抵抗にと力を込めて身を縮めていたマツリの耳に。


『──マツリ姉様ああああああ!』


 今や、血を分けた唯一の家族である、妹フブキが懸命にマツリの名前を呼ぶ声が届いた。

  

 驚いて、両目を開けたマツリの視界に飛び込んできたのは。

 真っ黒で巨大な馬に(また)がり、自分に手を伸ばしていた妹フブキの顔と。

 もう一人、フブキと同乗していた赤髪の武侠(モムノフ)に蹴り飛ばされたジャトラが、衝撃に(ゆが)めた顔だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者のモチベーションに繋がるので。

続きが気になる人はこの作品への

☆評価や ブクマ登録を 是非よろしくお願いします。

皆様の応援の積み重ねが欲しいのです。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ