21話 アズリアは勝利の美酒に酔う
その夜はささやかながら、事前にアタシが捕らえていた獲物と、馬車に残されたままだった村から徴収された物資を奪い返したことに加え、帝国軍の食糧などを逆に徴収してやり、余裕が出た農作物を使っての宴会を行うこととなった。
村の中央広場に即席の調理台や竈門などを作り、女性が中心に調理を始め、男らは酒樽などを持ち込んでの宴が始まる。
「いや、それにしても凄まじい剣の腕だねぇ傭兵の姉さんっ。あれだけいた帝国兵を全員倒してしまったんだからさ!」
「そうそう! 窓から戦いぶりを見てたけど、ありゃあ王様にも匹敵する剣捌きだったよ! ……もしかして姉さん、さぞや名のある傭兵なんじゃないか?」
アタシはというと、宴会の主役扱いされているにもかかわらず、すっかり酒の回った男らのいい酒の席の話のネタにされていた。
助けた子供の両親の他にも、この村では何人かが犠牲になったと村長から聞いたので、せめて今夜は酒を飲んで悲しみを忘れたいのかもしれない。
「しかし……アタシも色んな国を旅して色んな酒飲んできたけど、この麦酒は格別に美味いねぇ〜……いや、コレはホントすごいよ……」
アタシは提供された麦酒が注がれた木製の杯を傾ける。
口に含むと麦のどっしりとした旨味と華やかな香りが口いっぱいに広がっていく。
しかも酒場で普通に飲まれている麦酒よりも酒精が一層強い気がする。それがこの麦酒の力強さをさらに強調している。
「おっ!そこに目がいくとはやるねぇ、傭兵の姉さん。実はその麦酒、ウチの村の教会で作ってる名物みたいなモンなんだよ」
「へえ……この村で作ってるんだ。葡萄酒なんかはよく聞くけど、教会で麦酒作ってるってのはあまり聞かないねぇ」
そういやアタシも、麦酒は酒の中でもかなり好きな部類に入る酒なのに。
作り方なんてあまり気にしたこともなかった。
ちなみに教会や村で酒を作る、という事自体は別段珍しいわけでもない。いくら川や湖など水源があっても、その水の全部が全部飲むのに適している水だとは限らないのだ。
なので飲み水の代わりに酒を作り、飲み水の代わりにしたりその酒を都市や商人に売って村の財源を確保する村や街も確かに存在する。酒精が一般に出回っている酒より強いのもその用途から保存が効くように、敢えて強くしているのだ。
だから食糧に代用出来ない葡萄を酒にするのが一般的だ。麦は食糧になるからである。
アタシが持ち込んだ鳥や角ウサギの串焼きや、村の農作物の野菜を煮込んだスープなんかを酒の肴にしながら、村人からこの美味い麦酒の詳しい話を聞いていた。
「あそこに見える教会、そこの修道女のエルさんがウチの村に来てから、その麦酒を子供たちと一緒に作り始めたんだっけ」
「そうそう、エルさんが教会に来てから親を亡くした子供を引き取ってくれたり、麦酒の作り方を教えてくれたり、怪我人なんかも治療してもらえたりと良いことづくめさ」
酒に酔って赤ら顔の村の男が指したのは、村の端に建っていた大地母神イスマリアの教会であった。
だが……少しばかり様子がおかしい。
確かに中央広場の宴会では酒が振る舞われ、子供が参加するには敷居が高いのかもしれないが。
……にしては、教会に子供が何故集まってるのか。少し気になったので、絡んでくる男どもを優しくどかして、子供が入口に集まっている教会へと足を運んでみた。
「なあ、アンタたちがこの麦酒作ってくれたんだろ?なら、皆んなで村が解放されたのを祝っても──」
「うるさいなっ! 今修道女が大変なんだよっ!」
いや、失礼だと思ったけど孤児だから宴会から遠ざけられてるのかと邪推していたのだが、どうもそういった事情ではないらしい。
子供の激昂する声を聞いて、調理の手の空いた女性や何人かの宴会に参加していた男も教会に集まってきたからだ。
「……もう数日前から修道女は熱を出してたんだ。それでも無理して怪我人を治療してたりしてたけど……さっき宴会だからって呼びに行ったら修道女が倒れてて……」
その言葉を聞いてまだ幼い子供たちが「修道女しんじゃうよぉ〜」と一人泣き始めると、それに連れて何人もの子供が泣き出してしまう。
最近、ちょっとスランプ気味と言いますか。
ちょっとモチベーションが低下気味なのか、文章が思いつかない事が増えてきたので、一時期4回更新していた自分を褒めてあげたい気分です。




