表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1322/1775

240話 アズリア、目指すはシラヌヒ城

今回の話の主な登場人物

アズリア 魔術文(ルーン)字を右眼に宿す女傭兵。主人公。

ユーノ 魔王(リュカオーン)の妹で獅子人族(レーヴェ)の少女

フブキ カガリ家当主の妹 ジャトラに生命を狙われる

ヘイゼル 顔に二つの傷痕のある元大海賊の女頭領

ベルローゼ アズリアを追ってきた帝国(ドライゼル)の白薔薇姫

 カムロギを倒したアタシら一行は、三の門を全員で突破し。黒幕ジャトラとフブキの姉・マツリが待ち受けるシラヌヒ城へと向かう。


「身体はもう平気なのかい、ユーノ?」

「うんっ! ぐっすりねたからもうどこもいたくないよっ!」


 シュパヤとの戦闘で傷付き、魔力を消費し過ぎたために眠りに就いていたユーノだったが。さすがに寝かせたままにはいかず、無理やり起こしてしまったのだが。

 アタシとカムロギとの一騎討ちが長引いたからか。魔力が尽きかけていた筈のユーノは、すっかり活力が戻ったのか、満面の笑顔を浮かべていた。


 一方で、意識を失ったフブキも何とか目を醒ましはしたものの。こちらは元気溢れているユーノと違い、また立って歩くのは難しかったため。


「ご、ごめんなさい……本当なら、自分の脚で立たなきゃいけないってのに……っ」

「構わない。大楯(タワーシールド)に比べたら、この程度軽いものだよ」


 アタシと同じくらい大柄で、尋常(じんじょう)ではない膂力(りょりょく)を誇る熊人族(ドゥーベ)のカサンドラが。フブキの身体を背中に担いで、運んでくれていたのだ。


 お嬢(ベルローゼ)この国(ヤマタイ)にやって来た事にも驚いたが。

 海の王国(コルチェスター)で一時期、行動を共にしていた三人組の獣人族(ビースト)の冒険者とも。再会出来るとはアタシは思ってもいなかった。


 鹿人族(ケルウス)の魔術師、ファニー。

 猪人族(アグリオス)の戦士、エルザ。

 そして熊人族(ドゥーベ)の重戦士、カサンドラ。


 フブキを背負うのを代わろうとしたアタシだったが。一騎討ちをずっと見ていたカサンドラはその役目を譲ってはくれなかった。


「……悪いねぇ。フブキの護衛はアタシの依頼だ、ッてのにさ」

「あれだけ激しい戦闘を終えた後だ。人一人背負うくらいは私に任せてくれ、アズリア」


 彼女(カサンドラ)気遣(きづか)いが嬉しかったからか、アタシはそれ以上の要求はせず。フブキを彼女(カサンドラ)へ任せ、先を駆ける事に専念した。


「ああ、フブキは任せたよカサンドラ」


 アタシがカサンドラの名前を呼んだ瞬間、一番後方にいたお嬢(ベルローゼ)がこちらをキッ、と睨んだ気がしたが。

 ……見なかった事にしよう、そう思った。


 こんなやり取りをアタシらが繰り広げていたのも。三の門の前に立ち塞がった強敵を退(しりぞ)けた直後だった事もあり、少しばかり気が緩んでいたのもあったのだろう。


 その時だった。


 アタシらが駆ける両横、並ぶ城壁から突然。風を切り裂き、何かが飛来する音をアタシの耳が拾う。


「──おねえちゃんっ!」


 瞬間。先頭を走るアタシが飛んでくる何かの気配を察知し、反応するよりも早く。

 真横に並んでいたユーノが動き、一瞬で両腕に巨大な籠手(ガンドレッド)を装着して。何かを弾き飛ばしたのだろう、甲高(かんだか)い金属音が鳴り響いた。

 

「ユーノ! 右側はアンタに任せたッ!」

「うんっ、まかされたっ!」


 さすがは獣人族(ビースト)だけあり、アタシよりも耳が鋭いユーノ。

 アタシよりも反応速度の早かったユーノに右側の防御を任せ。左側から飛んでくる何かに対処しようと、背中に担いだ大剣に手を伸ばす。


「けど……コイツはッ」


 ユーノが弾いた際。金属同士が衝突する音がした時点で何かしらの武器の(たぐ)いだろう事はすぐに想定出来たが。

 目を凝らして見れば、飛来した物の正体をアタシは知る事が出来る。

 この国(ヤマタイ)で使われる、変わった形状の投擲(とうてき)用短剣(ダガー)


 アタシは、大剣で叩き落した凶器を見て。襲撃者の正体までも確信することが出来た。


 一の門で、三〇〇人もの武侠(モムノフ)を相手にしていた時には。曲刀や長槍(ロングスピア)で近接戦闘を仕掛けてくる間隙(かんげき)を潜り、何度もアタシに投擲(とうてき)され。

 二の門でも隻眼の武侠(ジンライ)と剣を交えた瞬間や、ナルザネに通してもらった門を通過した直後にもアタシを狙ってきた凶器だが。

 いずれも放ったのは、黒装束(くろしょうぞく)の男たちだった……その事をアタシは思い出したからだ。


 その予想通り、左右の城壁の真上から姿を現したのは。数人の黒装束(くろしょうぞく)を身に纏い、顔を覆い隠した連中だった。


「何だいッ……カムロギたちでアタシらの歓迎は終わりじゃなかったみたいだねぇ!」


 確か、フブキから聞いた話によれば。この国(ヤマタイ)では「(かげ)」と呼ばれる、大陸では斥候(スカウト)暗殺者(アサシン)の役割と同等の存在がいるらしい。

 黒装束(くろしょうぞく)らも、今の状況のように(かげ)らが単独で襲撃を仕掛けるのではなく。味方陣営の戦闘を後方から援護するのが、本来の戦い方なのだろうが。


 最早(もはや)、城を一直線に目指すアタシらを阻む城門も立ち塞がる護衛の戦力も、ない。


 と、なれば。黒装束(くろしょうぞく)らは単独で仕掛けてくるしか、アタシらに対抗する手段が残されていなかったのだろう。


「ユーノ! ここはアタシらで凌ぐよッ!」

「う、うん、でもっ……」


 右側にはユーノが、左側にはアタシが立ち塞がり。城壁の上に姿を見せた黒装束(くろしょうぞく)らが投擲(とうてき)する凶器を、次々と籠手(ガンドレッド)と大剣で弾き、地面に叩き落としていった。

 ──しかし。


「や、やっぱりボクだけじゃまにあわないよおっ!」

「……確かに、ねぇ、ッ!」


 何しろ、お嬢(ベルローゼ)やカサンドラらと一緒に行動していた事で。今、アタシらは合計で九人という集団となり。

 黒装束(くろしょうぞく)らの攻撃から逃がれ、振り切ろうにも。三の門まで乗ってきたシュテンら二頭の馬は、人数が増えたために門の手前に置いてきてしまった。

 さすがに、敵側が数人で一斉に投擲(とうてき)する凶器を防御するには。アタシとユーノだけでは手が足りなかった。


 だが、不意を突いて飛んできた最初の一手を。九人の前に出て、味方を庇い、防御に成功さえしてしまえば。

 後方に控えていた七人は、ただ庇い、守られているだけの連中ではなかった。

 

「回れ、杖よ──矢避けの風車(ウィンドミル)!」


 アタシとユーノが庇い切れなかった範囲を、ファニーの魔法の杖(マジックワンド)が回転しながら空中を舞い。投擲(とうてき)された短剣(ダガー)を次々に撃ち落としていく。


「その程度じゃ、私の盾は貫けないよっ!」


 連中が黒幕であるジャトラの配下ならば、真っ先に狙ってくるのはフブキだ。

 だが今、彼女(フブキ)を背負っていたのは。小柄な彼女(フブキ)の身体がすっぽり隠れる程に巨大な(シールド)を構える、カサンドラだった。

 フブキを狙った短剣(ダガー)は、これまた次々にカサンドラの大楯(タワーシールド)に弾かれていく。


 当然ながら、ただ防御に徹していたわけではなく。


「……離れてりゃ、弓を持ってないから平気かと思ったか、馬鹿か」


 ヘイゼルが、愛用の単発銃(マスケット)を城壁の上にいた黒装束(くろしょうぞく)に向け。発射のために「発火(フリント)」の魔法を無詠唱で発動させた。

 自分が狙われていると察知した黒装束(くろしょうぞく)は、慌てた様子でアタシらを狙っていた短剣(ダガー)で防御しようとするが。

 単発銃(マスケット)の筒口から爆音とともに放たれた鉄球は、黒装束(くろしょうぞく)が構えた短剣(ダガー)では防ぐことが出来ず。


「──が、っ……ば、馬鹿なぁぁ……っ⁉︎」


 そのまま、黒装束(くろしょうぞく)の胸を大きく穿(うが)ち。

 黒装束(くろしょうぞく)は胸を押さえながら力なく崩れ落ち、城壁から地面へと転落していく。

矢避けの風車(ウィンドミル)

本来ならば、術者の周囲に矢や投擲(とうてき)武器などの到達を防ぐ「風塵の結界(アロープロテクト)」の効果を棒状の物質に付与(エンチャント)することで。

付与(エンチャント)した棒状の物質が、術者の意識とは無関係に。飛来する物理的な射撃武器を防御する効果を持たせる。

結果として「風塵の結界(アロープロテクト)」は中級魔法(エキスパート)の難易度だが、この魔法は上級魔法(エンシェント)に難易度が上昇する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者のモチベーションに繋がるので。

続きが気になる人はこの作品への

☆評価や ブクマ登録を 是非よろしくお願いします。

皆様の応援の積み重ねが欲しいのです。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ