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20話 アズリア、捜索隊を迎撃する

 まずは村長から帝国軍が駐留していた間、村人がどういった生活を強いられていたのかという話を聞いて約10人ほどの捜索隊が帰ってくるまでの対策を考えてみた。

 農作業に畑に行くのを禁止され、自宅から極力出ないよう監視されていたと聞き、男連中には帝国軍の装備を持ったまま自宅で待機してもらうことにした。


「……もちろん皆んなに参戦してもらうのは本当に最後の手段だよ。でもね、アタシが捜索隊を討ち漏らして連中が誰かの家に押しかける可能性だってある。その時に家族を守る最低限の心構えだけはしてもらおうと思ってね」


 武器を振るって敵の生命を奪うのはアタシのような流れの傭兵稼業の人間の役割であって。

 村人には村人の役割がある。

 農作物を育て、子を(はぐく)み、時にはアタシのような旅人を暖かく迎えてくれる、そんな存在であって欲しい。


 最初は一緒に戦おうとしてくれた若者も、武器を持つことを躊躇(とまど)った人も、アタシの言葉を聞くと納得してくれたみたいで、アタシが帰ってきた捜索隊と衝突するまで言う通りに待機してくれる手筈(てはず)となった。


 そして……日がすっかり空に登った頃、村に捜索隊が帰ってくるのが見えた。

 しかもこの連中、出発した時に侵入者の話が出ていたにもかかわらず、二人ずつという命令こそ遵守しているものの、五、六部隊がそれぞれバラバラに帰投する始末だ。


「おいおい、敵国の奥地にいるって緊張感まるで無いねぇ。まぁ、そのために(・・・・・)わざわざ見張りの死体を目につかない場所に隠しておいたんだけどねぇ……」


 アタシは捜索隊が出発していった方角に一番近い建物の屋根の上に、外套(マント)の下に潜り込みながら待機し、完全に油断している捜索隊二人の様子を観察していた。

 

「……周囲を見ても他の捜索隊の兵士は見えないみたいだし……それじゃ先は長いから、サクッと片付けますかねぇ」


 背中の大剣を握りしめて、屋根から捜索隊の二人から見えない位置に降りると。

 筋力増強(ウニョー)魔術文字(ルーン)を発動させて魔力を脚に集中すると、地を蹴って二人目掛けて突撃し、一気に距離を詰めていく。

 突然現れたように見えただろう兵士らは驚きながら腰の剣を抜こうとするが。


「……残念、遅かったね」


 アタシの二条の剣閃が一足早く兵士二人を捉え、鉄鎧で守られていない兵士らの首を叩き斬っていく。

 首が離れた胴体から噴き上がる大量の血。

 首のない兵士の死体二つを一度村へ運び入れて、外から見えない位置に隠しておく。

 

 この調子で三組めまでの捜索隊を屠ったまではよかったのだが、兵士の中にも切れ者がいたようだ。

 もう一組に声を掛けて、攻撃する機会を窺っていたのだろう。装備を整えた四人が一斉にアタシ目掛けて襲いかかってきたのだ。


「……随分と我々がいない間に好き放題してくれたな、ホルハイムの女傭兵風情がっ!」

「我ら帝国軍兵士、不意を突かれなければ四対一! 敗れる可能性など毛ほどもないわ! 覚悟しろっ!」


 この四人、どうやら目の前で仲間を殺された義憤や怒りが、仲間を殺された恐怖を上回っている精神状態だ。

 しかもこの機会を狙っていただけあり、ある程度の作戦みたいなものもある様子で、四人の役割分担も考えているようだ。

 

 早速左右それぞれに散った後衛役の二人がアタシに向けて短剣(ダガー)を投げつけてくる。

 しかも足元と頭を狙って。

 中々に嫌らしい攻撃をしてくる。


 普通の相手なら短剣(ダガー)を避け切れずに傷を負って怯んだところを前衛二人の剣の餌食に。

 たとえ二本の短剣(ダガー)を避け切ったとしても上半身と下半身への同時攻撃を体勢を崩さずに避けるのは至難の業だ。結局は剣の餌食になる……という作戦なのだろう。

 ────だが、それは普通の相手なら、だ。


「……甘いね、砂糖菓子より甘いよ……っ!」


 アタシの身長ほどの大剣を盾のように構えて頭部と足元の両方を防御し、短剣(ダガー)を弾き返すと。

 体勢が崩れるのを期待していた前衛二人に横薙ぎに剣撃を振るうと、致命傷こそ避けられたものの一人は手首がバッサリと切断され、もう一人は腹を押さえて(うずくま)る。


「……だ、駄目だ、勝てねぇ。に、逃げろっ!」


 完全に戦力外となった前衛二人に見切りをつけてこの場から逃げ出そうとする、投擲役の後衛二人。

 

「……なッ⁉︎」


 驚いたのは後衛二人、ではなくアタシだった。

 アタシの背後から飛んできた数本の矢が、逃げ出そうとした後衛二人の背中に。

 そしてアタシの目の前で戦意を喪失していた前衛二人の頭や胴体に次々と突き刺さっていくのだった。


 その矢が放たれたアタシの背後を振り向くと。

 そこには弓を構えていた村人たちが立っていた。


「……やはり、アンタだけに任せっきりじゃ駄目だと思ったのだ。ここはワシらの村だしの」

「いやいやいや。あんな勇ましいコト言っといて、結局は皆んなに助けられちまったよ……ありがとな」


 その後、残った捜索隊がいないか半日ほど警戒を解かなかったが、どうやら村人らが弓で仕留めたあの四人が最後の帝国兵だったようだ。

 それは、この村が今度こそ帝国軍の占領下から解放されたことを意味していた。

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