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19話 アズリア、村を奪還する

「……それでは相手をしてやる、女」

「女とは随分な呼び方じゃないか、オッサン」


 影武者の男が振るう剣に合わせアタシは大剣を叩きつけていき、単純な力と剣の重量で相手の剣を大きく弾き飛ばす。

 影武者があくまでガーネフと名乗る以上は、周囲の兵士も影武者の危機なれば、アタシの前に立ち塞がらざるを得ないのだろう。


「が、ガーネフ様にはゆ、指一本触れさせはしないぞっ、お、俺が相手だっ」


 だが、構えたその剣がカタカタと震えてるのを見て、僅かばかりだが見逃そうという気持ちが湧いてくるが。


「嘘でも勝てない相手に立ち向かわなきゃいけないとは大変だねぇ。まあ戦場だからね、立ち塞がるなら容赦はしないよ……っ」


 その兵士たちを一撃で肩口から斬り伏せていく。

 不意を突いて詰所に奇襲をかけたのだ、さすがに鎧まで着るには時間が足りなかった兵士なら、筋力増強(ウニョー)魔術文字(ルーン)で六割の魔力で仕留められるだろう。

 下手に情けをかけて兵士にここから逃げられて、外の村人らに危害を加えられても困るからね。


 振り下ろした刃をそのまま横薙ぎに斬り返して、周囲で参戦する機会を逃した兵士の腹を斬り裂いていき。

 影武者と本当のガーネフ以外の兵士は全員、自身が流した血の海に沈んでいった。


「さてガーネフさんよ、アンタを守る雑兵はもうこの通りいなくなっちまったが……まだ抵抗を続けるかい?」


 兵士らの返り血を真正面から浴びて真っ赤に染まったアタシは敢えて、目の前の影武者に……ではなく閉まる窓際で待機している本物のガーネフに逃げる猶予を与えていく。

 一方で目の前の影武者は、逃げる時間を作るために弾き飛ばされた剣ではなく、傍に落ちていた他の兵士の武器を拾い上げ、自分の士気を無理矢理に高揚させるために絶叫し斬りかかってきた。


「……我ら帝国兵に勝利をおおおおおおッッ!」


 一見、気合いの籠ったような突撃も実際には隙だらけの無謀な突貫でしかない。 

 その突貫を身体を半回転して()なしていき、隙だらけの後頭部に大剣を振り下ろして頭をカチ割っていった。


「……ま、窓が開かない、だと?」


 鎧戸を開けて建物の外に逃げようと考えていたのだろう。身格好通りガーネフが魔術師ならばこんな狭い場所よりも外のほうが幾分か戦い易いだろう。

 だからアタシは罠を張った。

 とはいえ、罠と呼ぶにはあまりに簡単なこと。


 ランドルから貰った鉄筒(すいとう)に水を生み出す「lagu(ラーグ)」の魔術文字(ルーン)を刻み、その水を鎧戸にかけてビショビショに濡らした後に。

 氷の精霊(セルシウス)から貰った「is(イス)」の魔術文字(ルーン)を鎧戸に刻むと、表面の水ごと鎧戸は窓枠にカチカチに凍り付いてしまったのだ。

 

 もちろんアタシは鎧戸が凍り付いて開かないことを知っているから、慌てて鎧戸を何とか開けようとするガーネフの背後に歩み寄る。


「……終わりだよ、ガーネフさん」

「き、貴様っ?……何故、私がガーネフだと……」

「さあ、ね」


 アタシはその言葉を最後に、ガーネフの背中から大剣を突き刺し身体に沈めていく。

 胸板を大剣で貫通されたガーネフが、何とか詠唱しようとした口から大量に吐血すると、そのままうつ伏せに倒れてそのまま動かなくなった。



 朝になり、目覚めた村人らが自分の村に駐留していた帝国兵がいない異変に気付き。

 最初は馴染みのないアタシを訝しげな視線で見ていた村人らだったが、背中に背負っていたままの男の子が、


「お姉ちゃんが……パパと、ママにやりをつきさした悪いひとたちをやっつけてくれたんだよ!」


 と、説明してくれたのと。

 潜入するために始末した見張りの兵士らの死体を集めて置いておいた場所に村人らを連れていくと。

 それでようやくアタシが帝国軍から村を解放した、という事実を理解してくれたみたいで。


「ワシは村長のゴードンだ。あなたが帝国兵から村を解放してくれたのは感謝に絶えない。しかし、何ぶん帝国軍に物資を徴収されてしまってな……感謝の代償となるものがワシらは払えないのだ……申し訳ない」


 戦争中なら現地での物資徴収はごく当たり前の行為だ。寧ろ村を燃やされるとか村人皆殺しの暴挙に出なかっただけ幸運だったのかもしれない。


「いや、通りすがりにこの子を助けてね。そのついでだから報酬を要求するつもりはないよ……その子の両親を助けられなかった代わりだからね」

「……そうか、クレイとエレリーは帝国兵(ヤツら)の手に……」

「一応、墓を作っておいたけど。もし村の墓地に眠らせてやりたいのなら、墓の場所まで案内するよ?」

「……うむ、遺体を運ぶのは連中が連れていた馬を借りよう。案内は後でよろしくお願いする」


 村長は若い男らに指示を出して、帝国軍が置いていった鎧や武器を配布していた。いや、男性だけでなく何人かの女性も弓などを構えていた。

 

「だね。まだ捜索隊とやらが村を出払ってるらしいし、まだその連中を仕留めない限りこの村を解放した、とは言えないね」

「……報酬が払えないと言っておきながら図々しいお願いなのは承知してますが、もう少しばかり力を貸しては貰えないでしょうか?帝国軍(ヤツら)が来た時に何人か若い者が犠牲になってしまった……これ以上村の人間に犠牲になって欲しくないのです……どうか、どうか……」

 

 そう言うと村長は地に膝をつけて額を地面に擦り付ける勢いで頭を下げてくる。その村長の様子を見て村人が何人かが同じように頭を下げる。

 

「……参ったね。そこまでされて引き受けなかったらアタシがまるで人でなしみたいじゃないか」

「……それでは?」

「ああ、乗り掛かった船だ。引き受けるよ。だからさ、村長さん……そろそろ頭上げてくれないかねぇ?」

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