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222話 アズリア、怒涛の攻撃を浴びて

 てっきりアタシは、勢いのまま手に持つ刃で斬り掛かってくると踏んで、大剣を構え守勢に回るが。

 読みに反してカムロギは。握っていた水属性の魔力を帯びた純白の刀身の「白雨(びゃくう)」を、胸の前で一振りする仕草を見せた。


 しまった、あの動作は。

 

 その時、アタシの頭に浮かぶのは。魔術文(ルーン)字の効果で高めた脚力で、背後を取った時のカムロギの不敵な笑みだった。

 確か、あの時もカムロギは「白雨(びゃくう)」をゆっくりと振るい。


「──幻惑の霧(ミスフォッグ)


 無詠唱で発動させた白い霧の中に、再び隠れていってしまうカムロギの姿。

 読みが外れただけでなく、まるで背後を取った時を再現したかのように発生する濃霧に、アタシは。


「ま、待ちやが、れッッ!」


 濃い霧に姿を隠す前に、何とかカムロギを捉えようと防御の構えを解くと。慌てて前へと踏み込み、腕の力だけで大剣を振り回して剣閃を放つも。

 アタシの大剣は虚しく霧を切り裂くだけだった。

 

「く、くそッ、また霧に逃げやがったッ!」


 カムロギを捉え切れず、霧の中に逃がしてしまったことで。思わず周囲を見渡し、カムロギの気配を探るアタシだったが。

 張り詰めた警戒心が、迫る殺気を即座に察知し、アタシが反応する。


「アズリアあああああぁああ!」


 ──振り向いたのは右側面。

 まだ空振った大剣を元に戻し、構え直す余裕をアタシに与えず。濃い霧から、しかも猛々(たけだけ)しい雄叫(おたけ)びを発しながら飛び出してきたのは、左右の双剣をそれぞれに構えるカムロギ。


「き、霧は目隠しじゃなかったのかいッ?」

 

 攻撃を空振りした隙を突かれた上、側面に踏み込まれるのを視界を覆った霧で許してしまったアタシは。


「く、くそッ!」


 発動中の魔術文(ルーン)字の魔力を大剣を握る右腕に集中し。カムロギが放つ斬撃の軌道に、大剣を無理やりに移動させていき。

 カムロギの左右からの二連続攻撃に対応しようとする。

 力を込める余裕のなかったアタシの大剣は、威力こそ劣ってはいたが。武器の重量でカムロギの刃を何とか押し返していく。


「っ……これも防ぐか、しぶとい、っ!」


 だが、カムロギの高速の連撃に強引に速度を合わせたアタシの手首や(ひじ)、肩からは悲鳴が上がる。


「ぐ、うぅ、ッッ!」


 元々がアタシの背丈程もある巨大な剣だが、鉄より(はる)かに重いクロイツ鋼製という材質のため、人間二人分ほどはあろうかという重量だ。

 いくら右眼の「巨人の恩(ウニョー)恵」の魔術文(ルーン)字の効果を受けていたとはいえ、そんな武器を無理やりに扱ったら腕に()かる負担は想像以上に大きい。


「さ、さっきみたいに、凌げりゃ楽なんだけどねぇ……ッ!」


 今、アタシに発動している「巨人の恩(ウニョー)恵」の魔術文(ルーン)字が右眼一つでなく、二つ同時であれば。今の無理な動きにも腕は耐えられたのかもしれないが。残念ながら、カムロギの咄嗟(とっさ)の攻撃魔法を防ぐため、解除してしまったばかりだ。

 今一度、「二重発動(デュアルルーン)」の技法を用いて、二つ目の「巨人の恩(ウニョー)恵」の魔術文(ルーン)字を発動するには。再び自分の血で文字を描き直す準備が必要である。


 幸運なのか、不運なのか。

 アタシの身体には無数の傷があり。

 魔術文(ルーン)字を描く触媒(ため)の血には事欠かない。

 問題は、文字を描く時間的余裕だ。


 腕の痛みを落ち着かせるためと。一度、息を吐いて体勢を仕切り直し、魔術文(ルーン)字を発動したかった思惑(おもわく)から。一旦、アタシは距離を空けようと、後方に跳ぼうとした。


「だが、何かをさせる余裕はお前には与えんぞ──『風切(かざきり)』っっ!」


 だが、カムロギはアタシの次の行動をこちらの思惑(おもわく)(ごと)読み切り。

 アタシが地面を蹴り、後ろに跳躍しようとした直前に。風属性を帯びた漆黒の刀身「黒風(こくふう)」を鋭く真横へと一閃すると。


 空を切っただけの斬撃が、アタシ目掛けて飛ぶ。

 この斬撃が「見えない斬撃」の正体だった。


「じょ……冗談じゃない、よッ!」


 今更(いまさら)ながら、左右に跳んで避けるには。再び地面を踏み込む脚に、無理な力を()けて跳ぶ方向を転換する必要があるが。

 今、地面を蹴ったのは魔術文(ルーン)字の反動を受け、痛めてしまった右脚だった。


「……さすがに。これ以上、(こっち)の脚にゃ無理はさせられないよねぇ……なら!」


 今ですら、激しく右脚を使う(たび)(ひざ)や足首、脚全体に(にぶ)い痛みを感じる程度だが。痛めた右脚にさらに負担を()いれば、今度こそ戦闘に大きく支障が出るかもしれない。

 だからアタシは、跳躍する方向を強引に変更するという選択を諦め。


 真正面から斬撃を受け止めようと決意する。


「──だけど」


 今のアタシの状態でも、真正面から飛んでくるならば軌道が見えない斬撃を止めることは何とか可能だが。

 右眼の魔術文(ルーン)字だけでは、受け止めた後に手の指の痺れを残してしまうし。後ろに跳躍しながら斬撃を受ければ、衝撃で上手く着地出来ないかもしれない。


 いくら魔法を防ぐためとはいえ、思う。  

 あの時「二重発動(デュアルルーン)」を解除したのは悪手(あくしゅ)だった、と。


「はッ、アタシもまだまだだねぇ」


 しかし、どんなに後悔しても。突然、解除した魔術文(ルーン)字が再び発動出来るようになるわけではない。

 失敗は、次の戦いのための経験にすればよい。

 だがそのためには、目の前の敵に勝利する必要がある。


「──だったら」


 結局アタシは、後ろへ跳ぼうとした動作を止めることをせず。

 風を切り裂きながら、間近へと迫る見えない斬撃の位置を直感で割り出すと。痛みこそ残ったものの、ようやく自由に扱えるようになった大剣を頭上へと大きく掲げる。


 全力で迎撃をすれば、大きな隙が出来るかもしれない。

 だが、既に後ろに跳躍しているために斬撃の勢いを後ろへと逃がす事が出来ないアタシは。カムロギの威力に押し負けず。

 加えて、迎撃し終えた後の衝撃による手の痺れを少しでも軽減するためにも。見えない斬撃を叩き潰すために渾身の力を込める必要があった。

 

 獣の咆哮(ほうこう)に似た大声を発しながら、渾身の力を込め。重量ある刃を真下へと一直線に振り下ろしていった。


「うォォォりゃああああああぁッッッ‼︎」


 周囲の空気を震わせる程の大きな声は、その決意の(あかし)。右手だけでなく、大剣の柄を左手でも握ったアタシの一撃は。

 まるで、空気を入れてパンパンに膨らませた革袋に外から力を加え、破裂させた時のような大きな音が鳴り響かせ。カムロギの黒刀から飛来した斬撃を、粉々に叩き潰した。


 と同時に。斬撃を粉砕した後に発生した衝撃が、アタシの身体をさらに後方へと吹き飛ばしていった。

 体勢が大きく崩れるも、片膝を地面に突くまでに崩れを抑え、何とか転倒するのを避けるのに成功した。


「手の痺れは……ないッ!」


 アタシはあくまでカムロギから視線を外さないまま、大剣を握っていた指の状態を確認する。

 こちらが全力で迎撃した狙い通り、威力で競り勝ったからか。先に数度、飛ぶ斬撃を迎撃した後に必ず残ってしまっていた手の指の痺れ。それが今回に限り、指の先にすら衝撃による痺れは全く残っていなかった。


「それに、この距離。これなら……ッ」


 衝撃でさらに身体を吹き飛ばされたことで、カムロギからの距離をさらに空けることが出来。魔術文(ルーン)字の発動の準備の余裕が生まれる。

 

 問題は、何の魔術文(ルーン)字を選択するかだ。

 

「秘剣・風切(かざきり)

武器を高速で振り下ろす威力と、武器が帯びた風属性の魔力とが共鳴し、攻撃の威力と「斬る」性質が乗った衝撃波を武器から投射することが出来る戦技(わざ)


あくまで衝撃波は物理的なものであり、飛ぶ斬撃には武器が帯びた以外の魔力はなく、したがって武器や盾で攻撃を防ぐことは可能。

さらに高い技量を有する使い手は、武器に風属性の魔力が帯びていなくても。攻撃を遠距離にまで届かせことが出来るらしい。

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