18話 アズリア、帝国兵を追い詰める
出来る限り一人でいる兵士を狙い、二人以上でいる時には石を投げて物音を立てて人気のない場所ますで釣り出してみる。
この方法で十数人ほどの帝国兵を始末していくと。
どうやら帝国軍側も異変に気付き、アタシという侵入者の存在を疑い始めたようで、馬車の付近に兵士が集まってきた。
それを指揮しているのはどうやら魔術師の装備や風貌をしている男のようだ。
「……村から逃亡者を出さないための見張り役の兵士が姿を消してしまっています」
「夜中のうちに村人が逃げ出し、それを追っている可能性はないのか?」
「ありません……もし仮にガーネフ殿の指摘通りだとしても、追撃する旨を上級士官の誰かに報告せず持ち場を離れるのは軍規違反になります」
どうやら、アタシが連中を一人ずつ孤立させて始末しているのは、まだ気付かれてはいない様子だった。
連中の会話からその事を確認したアタシは、続けて話へ聞き耳を立てていく。
「ふむ……ところで例のモノは見つかったのか?」
「い、いえ……八方手を尽くして捜させていますが、手掛かりらしきモノすら見つかっておりません」
「……捜索隊は必ず二人組で行動させ、村に残す兵士は村長から徴収した建物で待機。それとこれ以上侵入者の存在が疑われるなら、村人を人質にして炙り出すことも検討する……よいな」
……ガーネフという魔術師風の指揮官と、他の兵士との会話を盗み聞きすると、奴らの作戦とこんな辺境の村に帝国軍がいる理由の片鱗が見えてきた。
「……なるほどね、あの連中は何かを探してる……その探し物のためここまで来たってワケかい」
確か帝国兵がわざわざ南の奥地にまで侵攻してまで目的としている「探し物」が何なのか、その正体な気になるっちゃなるが。
まずはこの村を帝国兵から解放するのが先決だ。
幸運なコトに、その探し物の捜索隊にこの村の戦力の半分ほどが割かれ、司令官のガーネフや上級士官を含む残る半分の戦力……およそ10人ほどは一つの建物に固まってくれている。
あまり行動が遅いと、口にしていたように村人に危害を加える暴挙に出る可能性がある……実際に背中で寝ている子供の両親は兵士らに殺されているのだから。
「……建物に人間が通れそうな窓は一つだけか、それなら手はあるね……覚えたてホヤホヤの手だけど、ね」
アタシは捜索隊の兵士らの監視の目をかい潜り、兵士らの詰所となった建物に近づき、建物の確認を終えると口の端を吊り上げニヤリと笑い。
一箇所見つけた人間が何とか通れそうな窓の、まだ早朝も早朝なため閉まったままの鎧戸に一細工しておいた。
「さて……暗殺者の真似ばかりしてたせいで、随分と背中に背負ったままになっちまってたけど……やっぱり愛用の大剣を握っているのが一番アタシの性に合ってるよ……♡」
これから詰所の建物に殴り込みを掛けるにあたって、背中の大剣を両手で構えると、その真っ黒なクロイツ鋼の刀身に愛おしげに唇を軽く押し付ける。
何しろ……これからこの剣で十数人程の命運を絶つのだから。自分の生命を預ける得物に、友人や恋人にも似た愛情を注ぐのは傭兵や冒険者の中では別段珍しいコトでもない。
そしてアタシは詰所の扉を蹴破って侵入する。
「……なっ?何だ一体!き、貴様は何者だ?」
突然の侵入者の登場に目を開いて面食らった表情をしながら立ち塞がる二人の兵士の、首筋と手首を狙って大剣の切っ先を走らせ、二、三度横薙ぎに剣閃を光らせると。
男の手首がゴトリ……と落ち、首の付け根がパックリと斬り口が開くと、断末魔をあげる間もなく崩れ落ちる二人の兵士。
その兵士の身体を蹴飛ばして道を開けると、そのままアタシは建物の奥へと押し込んでいく。
「……き、貴様、まさかホルハイム王家の手の者か!」
「残念。アタシはただのアンタらが気に食わない一傭兵さね。逃げるのに飽きたから、今度はコッチから帝国の喉を噛み千切ってやろうと思ってね」
「……ふ、ふざけるな。たかが傭兵の、しかも女風情が……」
アタシに対するその台詞を言い終える前に、アタシはその男に大剣を振り下ろしていた。頭をカチ割るつもりだったが、寸手のところで身を捻ったせいで肩口から左腕を斬り落とすだけに終わってしまった。
「ぐわぁああああああッッ!腕がっ!腕がぁあ⁉︎」
「ここは戦場だ、生命があっただけでも幸運だと思いな……さて、司令官のガーネフ殿とは誰だい?」
「どうやらただの傭兵ではないようだな、女。お前たちは下がっていろ。このガーネフが相手となってやろう」
まあ、誰がガーネフかは一応確認は済んでいるし、今名乗り出た男がガーネフではなく、視線で合図を送り窓側へと寄っていった魔術師風の男……ガーネフがどう動くかを出来る限り悟られないよう、目の前の影武者役との茶番劇に付き合っていく。
一見するとその影武者との一騎討ちの御膳立てだが、ガーネフ以外のこの場にいる全員が隙あらば介入してくる気満々の気配だ。
数にしてアタシ一人に対し向こうは六人。
「さてと、普通に戦ったら負けないまでも骨が折れるねぇ……ここは精々、右眼の力を頼るとしますかね」
アタシは右眼の魔術文字に魔力を込める。
全力は必要ない、六割程度の魔力で。
「我に巨人の腕と翼を────wunjo」




