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215話 アズリア、白雨と黒風の力を知る

「「アズリアっっ‼︎」」


 アタシの耳に、フブキらを治療してくれているお嬢ら(ベルローゼ)の声が届く。

 おそらくは、周囲に突如として立ち込めた白い濃霧に視界を閉ざされたアタシを心配しての事だろうが。

 今は心配する声に応えるよりも、カムロギの位置を確かめるのが先決だ。


「どこだ? 一体どこにいやがる……ッ」


 もし、魔法か何かでこの白い霧を発生させたのがカムロギだとしたら。相手は、霧の中を見通せる手段を有しているかもしれない。

 まだカムロギの位置を特定出来なかったアタシは、警戒の網を前後左右に張り巡らせ。相手(カムロギ)息遣(いきづか)いや足音を聞き漏らさまいと、耳を澄ませると。

 右の耳が、こちらへと迫る異音を察知したのだ。


「来る、かいッ!」


 音がした方向へと視線を移し、大剣を構え直すも。

 アタシの目が捉えたのはカムロギの姿ではなく。白い霧の中に鋭く切り裂きながらこちらへと迫る、見えない風の斬撃だった。


「なッ? あ、アイツ……ッ」


 本気を出せ、と挑発しておきながら。攻撃を押し返され劣勢になると、霧に隠れて姿を見せず。距離を空けた位置から斬撃を飛ばしてくるカムロギに対し、苛立ちを覚えていた。

 戦場での本気、というものが。真正面から戦うだけを意味するのではなく、持てる能力全てを駆使する事は。傭兵稼業が長かったアタシも頭では理解していても、である。


 アタシは抱いたばかりの苛立ちの感情のまま、大剣を構えて。目前に迫って来た斬撃へと刃を振り抜く。


「だけと残念だったねぇ! 霧のお陰でこっちを狙う軌道が丸見えなんだよッ!」

 

 本来ならば目には見えず、捉えるのが困難な風の刃だが。霧の中では、風を切り裂き飛来する軌道がはっきりと白い霧の中に残っていたためか。

 感覚を()ぎ澄ませる必要なく、見えない斬撃を迎撃することが出来た。


「おりゃああああ!」


 まだ右眼の魔術文(ルーン)字しか発動していなかった先程までは。見えない斬撃を迎撃し、叩き潰すのに手の指に痺れが残るくらいの衝撃を受けていたが。

 さらに「巨人の恩(ウニョー)恵」の魔術文(ルーン)字を左肩に刻み、増強効果を重複させた今のアタシならば。

 手に何の痺れも残さず、一方的に風の刃を粉砕する。と同時にアタシは、両脚に魔力を巡らせていくと。


「いるのは、その先だねぇッ!」


 気合いを吐くとともに地面を強く蹴り、前方へと大きく跳躍する。踏み抜いた足元が爆発し、地面には亀裂が走り土や石が四散する。


 風の斬撃が純粋な攻撃魔法だったとしたら。如何(いか)にアタシの大剣に威力があろうが、魔法を迎撃し無効化するのは不可能な筈だ。

 だが既に三度、風の斬撃を防御したアタシはその時点で。カムロギが放った「見えない一撃」の正体が、攻撃魔法の(たぐ)いでないのは理解出来ていた。

 そしてもう一つ。

 前の二度の攻撃から、カムロギを離れた後の飛来する風の刃の軌道は。大きく曲がったりアタシを追撃してきたりはせず、ほぼ一直線に向かってきていた事も。


 見えない風の斬撃を放った直後ならば、軌道の先にカムロギがいる算段であった。アタシは先の見通せない濃霧の中を、大剣を頭上へと掲げて突き進んでいく。


 ──だが。

 再び、アタシの背中に冷たい感覚が奔る。


 危険な戦場に幾度(いくど)も傭兵として身を置いたアタシの(かん)が告げる。これは「自分に迫る危機だ」と。

 危機を判断するよりも先に、アタシは直感に従い。掲げた大剣を、腕が自然に真正面ではない位置へと大きく横へと振り抜いていくと。


「正面じゃなく、横ッ?」


 正面に位置すると思っていたカムロギが、何故か突進していたアタシの真横から姿を現わし。

 たった今、アタシが横に振り抜いたばかりの大剣とカムロギの双剣とが激突し、激しい衝突音が霧の中に鳴り響く。


 二つの魔術文(ルーン)字の効果の乗ったアタシの一撃を受け止め、カムロギが一歩も怯まないということは。

 カムロギが今、アタシに浴びせた攻撃は、左右二撃を交差させ威力を増し。一度ならず二度までもアタシを吹き飛ばした、神業(かみわざ)のごとき戦技(わざ)なのだろう。


 握っていた大剣とカムロギの二本の曲刀、三本の武器の刃が一点で交差し。力の均衡を保ちながら、カムロギと睨み合うアタシ。


「ぐ……読みが甘いと思ってたが、やるな」

「そりゃ……どうも、だよ……ッ」


 真横からの奇襲とも言える一撃を防いだことを、カムロギは称賛(しょうさん)してみせたが、冗談ではない。

 背中に奔った悪寒(おかん)と傭兵時代の(かん)が働かなければ、カムロギの霧の中からの奇襲を防ぐことは出来ず。今頃、手酷(てひど)い傷を負わされていただろう。


 力が均衡した状況を打破しようと、アタシは大剣の刃を(かたむ)けようとしたり。対面の敵に空いている脚で蹴りを放とうと画策するが。それはカムロギも同様だったようで、互いの手を警戒していた。

 互いに睨み合い、無闇に動く事が出来ない状況でアタシは口を開く。

 

「見えない斬撃に、この霧……カムロギ、こりゃ、アンタの魔法じゃない、よねぇ」

「は……こんなに早く見抜かれるとはな、さすがはアズリア」


 カムロギに投げ掛けた質問は、見えない斬撃を放った直前に。アタシが「魔視(まし)」を使った際に見た、カムロギの二本の武器からの強い魔力の反応について。

 

「理屈も大体見当が付いてる。おそらくは……その、白と黒の曲刀が持ってる魔力、だね?」


 あらためて間近で見ると、カムロギが握っていた立派な構造の二本の曲刀、その刀身には大きな違いがあった。

 魔視(まし)で水属性の魔力を帯びていたのは、左手に持つ真っ白な刀身。対して、右手に握られていたのは風属性を帯びた、漆黒に塗られた刃をした曲刀だった。


 今思えば、見えない斬撃を飛ばしていた時に振るっていたのは、全て黒い刀身をした曲刀だった。


「その通りだ。俺の武器……『白雨(びゃくう)』と『黒風(こくふう)』はお前の指摘通り、魔力を帯びた特別な曲刀(カタナ)でな」

「やっぱり、魔剣だったんだ、ねぇ」


 魔剣とは、魔力を帯びた武器全般を指す言葉だ。強力な魔剣ともなると、魔剣自体が魔法を封じられ、所有者がまるで魔法を習得したかのように自在に扱えたりする。

 倒れたオニメの持つ溶岩の魔剣(カグツチ)のように。

 だが、弱い魔力しか持たない魔剣であっても、いずれかの属性の魔力を秘めているからこそ。当人だけでは魔力量や属性の得手不得手(えてふえて)で、習得こそしていても発動出来ない魔法を。魔剣を所持している事で、発動が可能になったりする場合もある。


 剣でなくとも「魔剣」と呼ばれる理由、それは精霊と五柱の神から地上に授けられた「十二の魔剣」があまりに有名な逸話だからでもあった。


「だが、俺の武器は大した魔力を持っていない、魔剣の中では下から数えたほうが早い、その程度の魔剣だよ」

「それでもアンタは……見えない斬撃や辺り一帯を覆う霧を生み出すまでには使い(こな)してるじゃねえか」


 武器を競り合わせながら、カムロギと言葉を交わしたことで。一連の攻撃や武器に感知した魔力の正体を知る事が出来た。


 しかし、こうして会話をすればする程。二の門でアタシらを待ち受けた四本槍のように、カガリ家に忠誠を誓っているわけでも。オニメのように闘争に焦がれている様子もないカムロギが。

 何故に、黒幕(ジャトラ)の勢力に(くみ)しているのか、理解出来なくなっていたのもまた確かだった。

 

「──なあ」


 不思議に思った次の瞬間、頭で考えるよりも先にアタシの口から言葉が溢れる。


「銘刀・黒風(こくふう)

鉄を鋳溶かし型に流し込む「鋳造(ちゅうぞう)」ではなく、鉄を赤熱させ何度も叩いて不純物を取り除く「鍛造(たんぞう)」での過程で。

微量ながら風属性の魔力を流し込んだ影響で、鉄が漆黒に変色した名も無き魔剣だったのを。カムロギが勝手に銘を付けた。


刀身が帯びた魔力は、単体ではせいぜいが魔法の発動の補助程度にしか影響しないのだが。カムロギの技量と合わさり、鋭い切れ味を維持した剣閃を遠距離にまで飛ばす事を可能とした。



「魔剣・白雨(びゃくう)

同じ曲刀(カタナ)の形状だが、こちらは鉄に少量ながら稀少金属の聖銀(ミスリル)が含まれている、正真正銘の魔剣である。

武器が帯びた水属性の魔力の影響で、刀身は白く、刃には常に水滴が浮いている。


魔法を使用する際の触媒(しょくばい)としても非常に優秀で。どのくらい優秀かというと、魔力が乏しく魔術の素養のないカムロギですら。水属性の中級魔法(エキスパート)程度なら無詠唱で発動出来る程である。

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