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208話 アズリア、カムロギとの会話を終え

 肩に担いでいたクロイツ鋼製の漆黒の刀身を持つ巨大剣を、アタシは片手で構え。その切先をカムロギへと向けながら。

 今まさに戦闘に突入する、という時になって。カムロギへと場違いな提案を口にする。


「なあ、こう言っちゃなんだが……戦わずにここを通してもらうワケにゃ、いかないかねぇ?」


 勿論(もちろん)、こんな言い分が通るとはアタシも思ってはいないが。それでも言わずにはいられなかった。

 アタシが生命を削る思いをしてまで、カムロギとその仲間の病を癒したのは。黒幕(ジャトラ)の私欲で戦わせるためではないのだから。

 きっと今アタシは、何ともやるせない顔をしていたに違いない。


 一方で、左右の手に二本の曲刀を握っていたカムロギは。初めて二本の武器を胸の前で交差させ、構えを取ると。

 アタシの提案を聞いて、一瞬だけ表情を緩めたものの。不意にカムロギは、視線をアタシから横へと逸らす。


 これから戦う相手(アタシ)から目線を切ったのは、不意打ちなど仕掛けてはこないと信用しているのか。もしくは、この距離ならば攻撃を(さば)けるという余裕からか。


「そいつは出来ない相談だ。確かに俺には、お前に生命を救われた恩義はある。が、倒された仲間の(かたき)を取る……という理由が今、出来た」


 カムロギの視線の先にあったのは。門の横へと並べていた、物言わぬ三人の仲間だった(・・・)(むくろ)だった。

 特に、アタシが首を掻き斬ったオニメの、生気が失われた両眼は。こちらを未練がましく睨んでいるようにも見えた。


「それに助けられた恩義は、先の戦いに加勢しなかった時点で、既に果たしたはずだ」

「それで、アンタは参戦しなかったんだねぇ」


 まさか「仲間に加勢しない」という選択は、アタシへの恩義を返すためだったとは。


 確かにカムロギの言う通りだ。もし、先の三対四の三つの戦場に分かれた戦闘に(カムロギ)が加勢していたら。

 戦力の均衡は容易に崩れ、こちらの被害は現状よりもさらに増していたのは想像がつく。

 その点では、カムロギが加勢をせずに(けん)に回ってくれた事には、ただただ感謝しかなかった。


「やれやれ……先にアンタを説得するための材料を潰されちまうとは、ねぇ」


 説得の言葉に()えて「流行り病を治療した事」を混ぜなかったのは。既に終わった出来事を持ち出し、頼み事を強要するのは道理に合わない……とアタシは考えてだったが。

 

「だが。仲間を倒した相手をむざむざと見逃がした、とあれば。俺はこの先、剣を振るう(たび)にその事を思い出し、後悔するだろう」

「なるほど、ね……そう言われちゃ、アタシもこれ以上『退()け』とは言えない、ねぇッ」


 それに、逆の立場だったならアタシはどうだろうか。

 幸運にも、突如として姿を見せたお嬢(ベルローゼ)の治癒魔法によって、容態が急変し意識を失ったフブキは助かったが。

 もし、フブキやユーノ、ヘイゼルの誰か一人でも先の戦闘で生命を落としていたとして。カムロギに同じ言葉を宣告されたなら。素直に退()く事など、間違いなく出来なかっただろう。


 不退(ひかず)、と告げたカムロギの表情は先程までの穏やかな様子から一変、(けわ)しい表情(もの)へとなり。

 真っ直ぐにこちらを見据える両眼に、激しく戦意を(たぎ)らせながら。


「それにだ──俺には、もう一つ理由がある」

「は?」


 アタシと剣を交え、戦う目的が。敗れたオニメらの無念を晴らす以外にもある、とカムロギは言い出したのだ。


 正直言って、カムロギとの接点と言えば。流行り病と治療の時と、この三の門で再会した二度しかない。数少ないながら、カムロギが強い執着(しゅうちゃく)を見せていたのは、イチコら野盗仲間の存在くらいだが。あの連中の病気を治療したのもアタシだし、別の任務でこの場(シラヌヒ)にいないのでは動機にもなり得ない。


 よって、アタシが今の段階で。カムロギの言う「もう一つの理由」が何なのか、を推察する事は叶わなかった。


「な、何だよ、その理由(ワケ)ッてのは?」

「いや、今は語るまい──それに」


 あまりにも理由が気になり、カムロギから聞き出そうとするアタシだったが。

 冷徹(れいてつ)な眼でアタシを睨み据えるカムロギの手に握られていた武器の刃に先んじて。首筋や胴体を狙う殺気を、アタシは肌で感じ取る。

 

 どうやら言葉を交わす時間は終わりらしい。


「そろそろ、アズリアと戦いたいのだが」


 両眼から凄まじい殺気を放っていたカムロギは、両手に持つ二本の曲刀を構えたまま、アタシの大剣の攻撃範囲へと歩を進めてくる。

 それは、戦闘を開始するための合図。

 

「──イイぜ。じゃあ、始めるとしようぜ、カムロギ」


 カムロギの呼び掛けに、アタシは応える。


 にもかかわらず、アタシは大剣を構えたまま動かなかった。

 直前まで会話をしていたから相手(カムロギ)に情が混じり、攻撃を躊躇(ためら)っているわけでは決してなく。先に攻撃を浴びせる隙が、カムロギの構えからは見出(みいだ)せなかったからだ。

  

 大陸でも、左右に武器を構える二刀流という戦術を用いる人間は少なくない。だが、二刀流は例外なく利き手ではない腕に、受け流し専用の武器を構え。防御に適した用法だという印象がアタシは強かった。

 

 だが、カムロギの武器の攻撃範囲にまで接近を許せば、こちらが守勢に回ることになる。


 武器の巨大さで小回りが利かず、相手が二刀流である以上は攻撃の手数でも敵わない以上。守勢になれば、アタシが不利な状況になるのは否めない……ならば。

 一瞬の葛藤(かっとう)の後、アタシは覚悟を決すると。

 

「まずは、アンタの力量を見せてもらうよカムロギいッ!」


 次の瞬間、右眼の魔術文(ルーン)字を発動させ、魔力を両脚へと巡らせていき。カムロギに向けて一直線に、跳ぶ。

 跳躍のために踏み込んだ地面には亀裂が走り、矢を思わせる速度で駆けるアタシは、(またた)く間にカムロギの攻撃範囲の内側へと突入し。


「──うおおおオオオオオオッッ‼︎」


 獣の咆哮(ほうこう)を思わせる雄叫(おたけ)びを発しながら、頭上高くに掲げた漆黒の鉄塊を。カムロギの頭へと、渾身の力を込めて振り下ろしていく。

 普通に受けようとすれば、構えた武器を粉砕する程の、鉄より頑強(がんきょう)なクロイツ鋼製だからこその重い一撃を。


 だが、カムロギは。


 距離を詰め、懐に踏み込まれた一瞬こそ、驚きの感情を(わず)かに顔に見せたものの。その場から一歩も動こうとはせず。

 交差させたまま構えていた左右二本の曲刀を、ゆっくりとした動作で頭上に掲げて、受けの姿勢を整えていくと。


「ああ、見せてやる。俺の全力を……なっっ‼︎」


 気を込めた一声と同時に、左右の腕を外側へと開くように振り抜いていき。

 空気を切り裂く轟音(ごうおん)を響かせながら、迫るアタシの大剣を「受け止める」のではなく。二本の武器を、全く同時に打ち付けてきたのだ。


 ただ、一度。

 金属同士が激突した瞬間、甲高(かんだか)い衝突音と火花、そして手には衝撃が伝わってきた。

 と同時に、違和感がアタシの頭を()ぎる。

 二本の武器で攻撃を受けたのなら、衝撃は二度伝わる筈なのに、だ。

 

「う、お、おおッ⁉︎」


 直後、突撃の勢いを乗せて渾身の力を込めて振り抜いたアタシの一撃は、攻撃を弾いたカムロギの剣閃の威力に打ち負け。

 どうにか手は柄を離さなかったものの、剣を握っていた腕ごと真上に弾き飛ばされてしまい。

 完全に無防備となった胴体を晒すアタシは。


「し、しま、ッ──!」

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