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201話 白薔薇の女中、ジンライを抑える

この話の主な登場人物

ジンライ 隻眼ながら四本槍に選ばれた猛者

ミナカタ コウガシャ領主 

ヒノエ  テンジン領主

 二の門を守護するカガリ家四本槍も、ショウキ・ブライが次々と敗れ。ついにジンライを残すのみとなった。

 そのジンライはというと──。


「そら、そらっ!……ははは、防戦一方ではないか、そんな調子でこのオレを倒す気があるのかっ?」

「ぐ……ぐ、っ!」


 ジンライ一人に、四つの都市の領主が四人掛かりで対峙していたが。その内の二名、リュウアン領主ネズとアカメ領主のレンガは、既に騎乗していた馬から落馬し、血を流しながら地面に倒れており。

 残る二人の領主、ミナカタとヒノエがジンライからの猛攻を何とか凌いている、という戦況だった。


「ふ、二人掛かりで防御に徹するしかないとは……っ?」


 岩石の鎧を身に纏い、一回り巨大な身体となったショウキ。鎧や槍と一体化し、強靭(きょうじん)な両脚を手に入れたブライと。「魔竜(オロチ)の血」による異形(いぎょう)への変貌(へんぼう)を見せたが。

 異形(いぎょう)、という意味では。下半身が馬と一体化し。さらに肩口から二本の腕を生やし四本腕となったジンライが一番の変貌(へんぼう)だと言える。

 二人の領主(ミナカタとヒノエ)が防戦一方に追い込まれていたのも。二本の腕で振り回す長槍(ロングスピア)に加え、さらにもう二本がそれぞれ剣を握り、一度の交錯で三連撃を放ってくるのだ。

 防御に徹していなければ、今頃は二人も倒れた二人(ネズとレンガ)と同様の結末を辿っていただろう。


「せ、せめて、一緒でも攻撃の手が止んでくれたら……っ」


 先に地面に倒れた二名の領主は武勇に優れていたが、残りの二人は治癒魔法や身体強化魔法(ブースト・エンチャント)を得意としていたが。

 四本の腕から矢継(やつ)(ばや)に飛んでくる連続攻撃は、気を抜けばどの攻撃も一撃で生命を絶たれる威力を秘めていた。二人は、ジンライの激しい攻撃を全力で弾き、受け流すのが限界で。とても反撃の糸口を掴むだけの余裕はなかった。

 ……しかも。


「ならば、少し回転を上げるとするか」

「「……な、なんだとっ?」」


 防御していた二人(ミナカタとヒノエ)が動揺を顔に出し、驚きの声を漏らしてしまう。

 現状ですら、防戦に徹していたからこそ何とかジンライの鋭い一撃に対応出来ていた二人は。最初こそ、動揺を誘い、防御を崩すための小賢(こざか)しい策かと思っていた。


「──ふんっ!」


 だが、次に繰り出したジンライが放った一撃は。二人の思い込みが浅慮(せんりょ)な勘違いだったと知るには充分すぎた。


 これまでのように片手で剣の柄を、もう片手を刀身に添える。反撃など他の行動を一切捨て、防御だけに徹した構えを取り。

 ジンライが勢い良く両手で握る長槍(ロングスピア)を振り回し、ヒノエの真横から首を刎ねようと放った横薙ぎの一閃。その一撃を防御の構えで受け止めていく……が。


「ぐ、が……ああああっっ⁉︎」

「ひ、ヒノエっ?」


 ヒノエが両手で構えた剣が、ジンライが勢いを乗せて振るった槍の威力に押されていき。

 ついに、剣を握るヒノエの手が威力に耐え切れず、柄から指を離してしまい。剣が空中へと吹き飛ばされてしまう。

 今までは、防御の構えを取ってさえいれば何とかジンライの攻撃の威力を殺し、槍先を受け流すことが出来ていたのに。


 吹き飛ばされはしたが、一度は槍を受け止めた余裕があったからか。馬を少し移動させ、首を後ろに逸らすことに成功したヒノエは、どうにか槍先で首を飛ばされずに済んだが。

 四本腕のジンライの武器は、まだ二本残っている。


「ここは一旦退()けっ! ヒノエえぇっ‼︎」


 四人の中で一番武勇に劣るコウガシャ領主のミナカタだが、武器を飛ばされ身を守る(すべ)を失ったヒノエに比べれば、まだ武器を持っているだけ幾分かマシではあった。

 だからミナカタは、ヒノエに後退するよう警告を発しながら、自分が(また)がる馬を前に進ませていく。

 ジンライの二本の武器の攻撃を受け切るために。


 勿論(もちろん)、目の前でヒノエが武器を吹き飛ばされた事実を無視は出来なかったミナカタは。


「……筋力上昇(マイトアップ)


 ジンライの攻撃の威力に競り負けないよう、武器を握る腕の筋力を増強するために。無詠唱で発動出来る身体強化魔法(ブースト・エンチャント)を唱えて、今ミナカタが出来る万全の体勢でジンライへと挑む。


「ほう、防御の出来ぬ仲間の身代わりとなるか……その心意気だけは褒めてやろう」

「ぐ……ぐ、ううう……さ、先程までより、威力も、速度も、増している、だとぉ……っっ?」


 ジンライもまた、剣を吹き飛ばしたヒノエに決着の一撃を浴びせようと。三本目の腕に握った曲刀を振り下ろすも。

 武勇に劣るミナカタは、攻撃に適したこの国(ヤマタイ)製の曲刀や長槍(ロングスピア)よりも、防御に適した短めの柄の槍を用いており。

 後ろへと退()いたヒノエの代わりに、その場に割り込んでいたミナカタの槍の柄が、曲刀による斬撃をしっかりと(・・・・・)受け止める。


「……だが」


 だが、ジンライの威力にこそ押し負けず、武器を手離さずには済んだものの。受け流し切れなかった攻撃の威力は、凄まじい衝撃となって手や腕を伝い、身体全体に浸透していき。

 ミナカタの全員を一瞬、硬直させてしまう。


「力量の差は、心意気だけで埋まるものでは決してない、決して──なあああ!」


 最後の四本目の腕に持った曲刀から繰り出される、先程までの攻撃よりも鋭く早い斬撃は。硬直した身体が対応出来る筈もなく、ミナカタの頭上目掛けて振り下ろされていく。


 硬直したままのミナカタも。

 後退したばかりのヒノエも、また。

 「ミナカタは死んだ(・・・)」と直感した。

 ──だが。


「が、っ⁉︎……な、何だ、これはああっっっ!」


 悲鳴にも似た絶叫を発したのは、攻撃を受ける筈だったミナカタの断末魔ではなく。

 ミナカタの頭上で、振り下ろした腕と曲刀をピタリと停止させたジンライの口からだった。


「ぐ、ぐおおおお! か、身体が、動かんっっ?」


 見れば、ジンライは歯を強く噛み締めながら、懸命に腕に力を込めている……にもかかわらず。  

 四本目の腕だけでなく、残り三本の腕も。いや、ジンライの全身だけが、まるで何か見えない縄か(わな)に拘束されたかのように身動きを封じられている様子だ。


 攻撃の手が止まったことで、一旦ミナカタもヒノエの位置まで距離を空け。防御に専念したことで消耗していた体力と精神の回復を(はか)る。


 すると。


「──ここは、私にお任せ下さい」


 後退した二人(ミナカタとヒノエ)と、不可思議ながら動きを封じられたジンライとの間に割って入ってきた一人の人物。

 明らかに、戦場(いくさば)には場違いなひらひらとした異国の礼装服(ドレス)を着た、編んで()った黒髪をした女性が。唖然(あぜん)としていた二人に、(うやうや)しく頭を下げてきたのだ。


「あ……あの、貴女(あなた)、は?」


 女性に見覚えのない二人の領主(ミナカタとヒノエ)は。

 突然、戦場に姿を見せたばかりか、窮地を救ってくれた彼女の身分や立場を疑問に思い。当然ながら、疑問を直接頭を下げていた女性に投げ掛けていくも。


「……こ、このような姑息(こそく)な手段で、新たな力を得たこの俺を、止められる……ものかああああああ!」

 

 頭を下げていた女性の背後で、剣を振り下ろす体勢のままで動きを封じられていた筈のジンライの腕が。

 雄叫(おたけ)びを上げると同時に、再び動き出し始めたのだ。


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