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16話 アズリア、母親の願いを聞く

いつの間にか20万字超えてましたね。

およそ1ヶ月程度ですが、書き殴ったものです。

「────うわぁぁああン!……パパぁ?……ま、ママぁぁ⁉︎」


 間違いない、子供の泣き声だ。

 それも、切迫詰(せっぱつ)まった声の様子からすると一刻を争う事態のようだ。

 アタシは、駆ける速度を早めるために筋力増(ウニョー)強の魔術文(ルーン)字を発動し、全力の時の半分ほどの魔力を脚に流し込む。

 全力で走らなかったのは、そんな脚力で地面を蹴れば問答無用で大きな音を立ててしまうからだ。


 出来る限り音を殺しながら駆けるアタシの視界に見えてきたのは……馬を引き連れた武装した男ら数名と、地面に座り込んで泣いてる男の子、そして血塗れで倒れている……多分男の子の両親だろう。武装した男らが、ちょうど父親らしき人の身体に、笑いながら槍を突き立てていた。

 武器だけでなく男らの整った金属鎧から見るに、野盗などの類いではない、あれは何処ぞの兵士か何かだ。そもそもの話、野盗がご丁寧に角灯(ランタン)なんて持って「ここにいますよ」と自分の場所を教えるように襲撃してくる、なんて話は聞いたことがない。


「悪く思うなよ。村から逃げたお前たちが悪いんだぞ」

「そうだな、早くコイツらを始末しないと……」


 兵士らしき男ら二人が、その男の子に向けて剣や槍を振り上げる。


 ……この距離だと間に合わない!


 アタシは武装した連中と男の子に割り込むため、脚へ込める魔力を出し惜しみ無しに全力で、足場を蹴り抜き。

 駆ける速度をさらに、さらに上昇させていく。


「……待て。誰か近付いてくる。警戒しろ!」


 もちろんアタシだって金属製の部分鎧(ポイントアーマー)を装着している。これだけの速度で接近すれば、余程の間抜けでない限り足音や走る際の部分鎧(ポイントアーマー)が擦れる音で気付くだろう。

 だが、そんなことはお構いなしだ。

 まずは男の子の命を奪おうとする兵士らへ割り込んでいったアタシは、子供を庇う位置へと立ち塞がり。

 武装した男ら二人の武器を大剣で受け止めた。


「……な、何だ貴様っ!……何処から現れたっ?」

「貴様も村から逃げ出した連中の仲間かっ!」


 二人の生命を平然と奪い、アタシへ向けても即座に敵意をぶつけてくる男らの事情こそ知らないが。

 目の前で子供すら殺そうとする男らに、アタシは嫌悪感をあらわに睨み付けていく。


「……アンタら、人の生命を奪ったんだ。自分の生命を取られる覚悟はもう済んでるんだよねぇ……」


 受け止めていた武器を真横へと振り払うと、衝撃で思わず武器を手放し、武装解除されてしまった男ら。

 アタシは横に振った大剣を構え直し、丸腰の男ら二人の胴体目掛けて、真横に大剣へと振り抜いていくと。

 その刃は胴体を守る鎧に喰い込み、鎧ごと男ら二人の腹を続けざまに斬り裂いていく。


 断末魔をあげる間もなく腹から血と臓物(ハラワタ)を噴きながら、その場に崩れ落ちていく男ら二人。


「……は?い、一撃だそ?一撃で二人が殺られた?……な、何者なんだ、あのおん────」


 背後に控えた男ら二人の仲間らしき男がそう呟いた次の瞬間、言葉を言い切る前にその口と頭は胴体から離れて空中に舞っていた。

 子供を殺そうとした男ら二人を始末した後に、周囲を警戒していた他の連中へと駆け寄り、一気に距離を詰めたアタシが一撃で首を刎ねたからだ。


「ま、待て!帝国兵のお、オレ達に手を出したら村の連中がどうなっても……」

「残念だが命乞いは受け付けない主義でね」


 命乞いとも脅迫とも思える言葉と、自分らが帝国の兵士であることを吐いた最後の一人に無慈悲に大剣を振り下ろし、剣の重量とアタシの怪力で肩口から鎧ごと斬り伏せていくと。


「ぱ、パパぁ?……ママぁ!……起きてよお!……起きてよお……うわぁぁぁぁんっ!」


 血溜まりに倒れた両親に寄り添って、その身体を何度も揺さぶっている子供に話しかける。


「……ごめんな。アタシがもう少し早く気付いてたら、パパやママを助けられたのかもね……」


 帝国兵士数人分の返り血で真っ赤に染まったアタシを怖がる様子もなく、男の子はコチラに駆け寄ってくると、アタシにしがみついてまた泣き出してしまう。

 

「うわぁぁぁああン!……パパぁぁあ!……ママぁぁあ!」


 よく見れば、まだ5歳程の年端もいかない男の子の頭を撫でて慰めてやることくらいしか今のアタシには出来なかった。

 兵士どもの死骸は野晒しにしておいても野獣らが掃除してくれるだろうが、この子の両親くらいはこの場で埋めて簡素な墓を作るべきかどうかと悩んでいると。


 その倒れていた母親の腕が僅かに動いて、何か小声で(うめ)いている……まだ母親の息はあったようだ。

 だが、槍で腹を貫通された致命傷を見ると、息はあれど時間の問題だろう……申し訳ないが、今のアタシにはあの致命傷を癒すような手段を持ち合わせていない。


「ほら、ママは……まだ生きてるよ。だから、な?……最後の、お別れをしてあげな?」

 

 一度死んだ、と思った母親とまた死別を迎えさせる行為に少し抵抗があったので、悩みはしたが。

 アタシは泣いている子供にまだ母親が生きていると教えると、子供の身体を支えながら、血の海に沈んでいた母親の元へと向かう。

 母親は子供が(そば)に寄ってくると、最後の力を振り絞って子供の頬に手を伸ばし、かすれるような小さな声で。


「……見知らぬ女のひと……この子を……ロッカを、助けて、下さり……ありがと……う……ござい……ます……」

「ママぁぁあ!……しなないでママぁぁあ!」

「……ごめんね……ロッカ……マ、マ……一緒に、行けないで……見知らぬ方……どうか、この子を……村を、助けて……お願い……しま……す………………」


 口からは血を吐きながらも、感謝の言葉を言い終えた母親。その手が子供の頬から離れると、それを最後に母親は二度と動くことも言葉を紡ぐこともなかった。

 子供は泣きじゃくり、今度こそ本当に動かなくなった母親から離れようとしなかった。


「最後の別れだ……しばらく、そっとしておいてやるかねぇ────さて、それよりだ」


 アタシは最後に命乞いをしてきた兵士が自分らを「帝国兵」と名乗っていたことが気になり、始末した兵士が着けている鎧や持ち物を調べていると。

 この連中が帝国兵だと示す部隊章(タグ)を首からぶら下げていた……この辺は出奔する以前から変わってなかった。


 ……という事は、北側から侵攻した帝国軍がホルハイム南端に近いこの付近にまで駐留しているという、ホルハイム側は既に敗北してしまったのかと憂慮する事態だということだ。

 こうなると、スカイア山中でロシェットやリュゼらホルハイムの関係者に遭遇したのも、中央部からスカイア山脈を越えてメルーナ砂漠に逃げるつもりだった算段だったのかと思ってしまう。


 だが、まずはこの子供や家族が逃げてきた村に行かないといけない。

 子供を連れて旅は出来ないし、今はとにかく帝国軍の動向を知りたい。そして何より……あの母親に最後の言葉で「村を助けて」と頼まれちまったからね。

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