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181話 ユーノ、無意識の反撃

「……え?……だ、だっ、て」


 だが、地面に寝かされていたフブキは。蹴られた側頭部がまだ激しく痛み、視界が揺れながらも。どうしても胸に湧いた疑問を払拭(ふっしょく)したくなり。

 頭だけを起こして、明確な敵意を離れた相手(シュパヤ)とは全く別の方へと視線を向ける。


 まだ(わず)かに(ゆが)むフブキの目に映ったのは。

 先程、フブキが放った「極零波(きょくれいは)」が直撃したため、すっかり凍結し、その場で動きを止めていた紙の魔巨像(ゴーレム)だった。


 なのに、魔巨像(ゴーレム)の胴体部に入り込み、一体化していた筈のシュパヤが。何故、凍結した紙の巨像から脱出していたのか。


「不思議そうな顔してるじゃん?」


 不敵な笑い顔を浮かべたシュパヤは、睨むユーノとの距離を無造作に歩いて詰めながら。

 何とか頭を起こし、凍り付いた巨像とシュパヤを交互に見るフブキの疑問に答えていく。


「簡単さ、お姫様が怖あい冷気を放つより前に、オイラはとっくに巨像からオサラバしてたんだっての」

「じゃ……じゃあ……わ、私は?」

「そう。お姫様は、もうオイラが入ってない空っぽの式皇子(シキオウジ)相手に怒ってたってわけ」


 シュパヤがわざわざ、フブキの疑問に答えてみせたのは。先程放った「極零波(きょくれいは)」が全くの無駄な行動だったと、フブキに認識させるのが目的だった。

 相手の戦意を折る、などという目的ではなく。ただ単に相手を小馬鹿にし、嘲笑(あざわら)いたいがために。

 

「それで……フブキを、けったって、わけ?」

「そりゃあね、お姫様だってこっちを攻撃したんだから、オイラが蹴ったって何も悪くはないでしょ」


 怒りに燃えるユーノの鋭い視線を、いとも簡単に受け流しながら、軽い口調で「自分は悪くない」と話すシュパヤ。


 確かに戦場においては、非力な後衛を主戦力の前衛が攻撃したからといって、何ら非難される(いわ)れはない。

 一の門でもユーノは、最後衛に位置していた鉄弓兵らを前衛を押し退()け、攻撃を浴びせていたわけだし。

 フブキとて、紙の巨像を完全に凍り付かせるような魔力を放った以上。前衛役のユーノがいないフブキが、シュパヤに攻撃の的にされるのは避けられないのは当然の話だ。


 (むし)ろ、後衛を護衛するのが前衛の役割でもある以上。非難されるのは後衛を攻撃に晒してしまった前衛の人間なのだ。


「そうだよ……わるいのは、ボク。フブキをまもれなかったのは、ボクがよわかったからさ」


 今、ユーノが憤慨(ふんがい)しているのは、当然フブキに攻撃を放ったシュパヤに対して、ではあったが。それ以上に、前衛としての役割を(まっと)う出来なかった自分(ユーノ)自身へと怒りの感情は向けられていた。


「……っ、っっ」


 それが証拠に、気を失ったために「鉄拳戦態(モード・アイゼルイェーガ)」の巨大な籠手(ガンドレッド)が解けていたユーノの()の拳からは、血が数滴垂れていた。

 自分自身への不甲斐(ふがい)なさから拳を握り締める力があまりに強すぎて。握り込んだ指の爪が、手のひらの肉に喰い込んでしまっていたからだ。

 

「そうだよ。一回オイラに負けた雑魚(ざこ)が、何勝手に立ち上がってきてんのさ──っ!」

「な、っ⁉︎」


 すると、今まで無造作に歩を進めていたシュパヤが突然、地面を蹴って前方へと大きく跳躍し。拳から血を流すユーノの懐へと一瞬で入り込んで。

 旋風を思わせる速度で突進した勢いのままに、真っ直ぐに伸ばした脚を。まるで剣や槍の刺突のように、ユーノの腹目掛けて放ってくる。


 不意を突かれたユーノは、一瞬反応が遅れたものの。真横に跳んでシュパヤの突撃からの蹴りを回避しようとする……が。

 

「そ、そうだっ……ボクのうしろにはっ?」


 シュパヤの蹴りが迫る中、限られた時間でユーノは一度、自分の背後へと視線を移す。

 そこには。

 先程、シュパヤの鋭い蹴りを頭に喰らい、まだ立ち上がれずに地面に倒れていたフブキの姿があった。

 もし、ユーノが横に退()いて蹴りを回避すれば、シュパヤはそのまま前進し。倒れているフブキに再び攻撃を浴びせるかもしれない。


 そう判断したユーノは。

 その場から一歩も動かずに、両腕で腹を庇う。


「ははっ、馬鹿だねえ! もうさっきまでのでっかい籠手(こて)はないってのにさあ!」


 ユーノが両腕で防御の姿勢を取ったにも構わず。体勢を変えることなく、腹への前蹴りを繰り出すシュパヤ。

 疾風のごとき速さの脚は、黒鉄(くろがね)籠手(ガンドレッド)を装備していないユーノの両腕を容易(たやく)く弾き飛ばし。


「──は、ぐう……がふっっっ!」


 下っ腹に、シュパヤの脚が()り込んだ瞬間、痛みと衝撃で顔を(ゆが)めるユーノ。

 さらには次の瞬間、腹を蹴られた影響で口から嗚咽(おえつ)と一緒に液体を吐いてしまうも。


「まだ、たおれない……よっ、ボク……」


 ユーノはまだ力が抜けそうになる膝を屈さず、両の脚で踏ん張りながらシュパヤの前に立ち塞がり続けていた。


「ちっ……まったく、しぶといなあ」

 

 まともに腹に蹴りを受けながらも、まだ立っているユーノに対し。明らかな苛立ちの感情を見せ、舌打ちまで鳴らしたシュパヤは。

 ユーノの腹に突き刺さった側の脚でなく、軸足にしたもう一方の脚を跳ね上げ。接敵した状態から、今度はユーノの(あご)を狙う。


「いい加減、倒れてくれないとオイラ、他の連中とも戦いたいんだから──さあっっ!」


 真下から迫っていたシュパヤの脚に、ユーノは全く反応出来ずに。足先ではなく、固い膝がユーノの(あご)を蹴り上げる。

 

「が、ふっっっっ……っ⁉︎」


 真下から(あご)を打ち抜かれた膝蹴りの威力で、頭を大きく()()らせたユーノの両脚の裏が地面から離れ。

 後方へと吹き飛んでいってしまうユーノの身体。


 二発の蹴りを連続して繰り出し、ようやく立ち塞がったユーノを地面に倒したシュパヤは満足げな笑顔を浮かべてはいたが。


「はぁ、っ、はぁ、っ、ど、どうだよ! これでっ……もう立ち上がっちゃこれないだろっ?」

 

 一方で、先程まで余裕のある態度だったのは一変し、肩を上下に揺らしながら、息を荒らげていたシュパヤ。

 何故、圧倒的優勢だったシュパヤが息を乱していたのか──それは。

 

「はぁ、っ……く、くそっ……雑魚(ざこ)のくせに……っ!」


 立ち塞がるユーノを大きく吹き飛ばしたシュパヤは、何故かさらなる追撃を行うことなく。

 息を整えようとしながらも、ずっと右の脇腹を手で押さえていた。手で隠れてはいたものの、押さえていた手の隙間からは赤い染みが広がっていた。


 シュパヤは脇腹を負傷していたのだ。


 (あご)をシュパヤの膝で蹴り上げられた瞬間、ユーノの眼前に無防備で晒されていた敵の胴体部に。

 無意識のうちにユーノの腕が動き、「黒鉄の礫(アイアンバレル)」を発動する時の体勢のように突き出した一本の指が。シュパヤの脇腹を、浅くではあるが穿(うが)っていたからだ。


 意図せずに、戦闘の本能だけでシュパヤに一矢(いっし)(むく)いたユーノだったが。

 後方に吹き飛ばされた衝撃のあまり、再び地面に仰向けに倒されてしまっていた。

 

「ぐ、ぐ、ぐぅぅぅ……っ、っ?」


 一撃目の腹の蹴りで、さらに脚の力が入らなくなり、立ち上がることが出来ず。

 二撃目の(あご)への膝蹴りが、フブキ以上に頭に強い衝撃を与えられ、意識が朦朧(もうろう)としていたユーノ。

 さすがに二撃目の膝をまともに喰らっては、即座に立ち上がることは出来なかった。


「あ、あたまがゆれる……ぎ、ぎもち、わるいぃぃっ……」


 今やユーノの視界はぐらぐらと揺れ、地面に倒れているだけでも吐き気を(もよお)しそうな程だった。

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