表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1251/1775

169話 アズリア、渾身の炎撃を迎え撃つ

 灼熱の結界の外の一切を気にはしない、そんな素振りと発言をオニメにはしてみせたものの。

 アタシとしては、目の前の敵との勝負に早々に決着を付け。ユーノとヘイゼルの戦況をこの目で確認したかったのだ。


 だが、この一撃で勝敗を決めようとするアタシの態度がよほど気に食わなかったのだろう。


「……だ、黙れってんだよ! その、勝った気の(ツラ)のテメェからっ……血の気を引かせてやンぜェ!」


 先程からオニメが噛み合わせていた牙の一本が、(あご)の力があまりに強すぎたのか。目の前で粉砕音とともに砕けたと同時に。

 彼女(オニメ)が背中から生やした竜属(ドラゴン)の翼を再び左右に広げ、赤熱した魔剣の切先をこちらへと向けると。


「──この一撃、でなあアァァァァ!」


 周囲の熱気を震わす程の音量の咆哮(ほうこう)を放ち。アタシ目掛けて、地面を蹴って前方へと跳躍するオニメ。

 いや、跳んだ(・・・)のではない。

 地面を蹴って跳躍したのは、前方への勢いをつけるただ一度のみで。すぐに地面から両の脚が離れ、翼を広げて地面擦れ擦れをオニメの身体は飛んでいた(・・・・・)のだ。

 

 猛烈な速度で、アタシへと迫るオニメ。

 

 しかし、低空での飛行による突撃は、既に一度この身で体験している。あの時と違うのは、手に持つ魔剣が真っ赤に焼けているという事だが。

 あれだけの啖呵(たんか)を吐いて捨てたオニメが、まさか先程とほぼ同じ攻撃を単調に繰り返すとはアタシは思えず。

 その違和感を、直接迫り来るオニメにぶつける。


「まさか……このまま突撃、じゃないよねぇ」

「よくわかってるじゃねエか! その通りだよ!」


 そう言葉を返してきたオニメの目線が、攻撃対象である筈のアタシから急に上へと逸れた途端。


 再びオニメの脚が地面を蹴ると、突進する方向を前から上に転換させ、アタシの頭上高くへと舞い上がっていく。

 勿論(もちろん)、敵であるオニメの姿を追って、アタシも真上へと視線を移したのだが。


 先程、オニメが魔剣の能力で。二人の周囲に円を描くように発動させた「焦熱(しょうねつ)地獄(じごく)」なる灼熱の結界は。上空高くまでも、しっかりと張り巡らせてあったのに初めてアタシは気付く。

 と、同時に。このまま空高くオニメが飛び上がれば、自分が作成した灼熱の結界に突入してしまうことも。

 

「お、おいッ? 上にもアンタの張った結界がッ!」


 思わずアタシは敵である筈のオニメに警告を発する。

 自滅するのは勝手だが。せっかく「自分の剣で決着を付ける」と決めた覚悟が無駄になるのが、アタシは耐えられなかったのだ。


 だが、アタシの懸念をよそに。

 飛行するオニメの身体は、灼熱の結界に突入する手前で止まる。

 いや……停止したのではない。

 アタシの頭上高くにいたオニメは、身体を反転させ。今度は真っ逆さまに落下するかのように、真下へと向きを変え、高速で飛行し始めたのだ。

 当然、オニメの真下に位置するのは、アタシだ。


溶岩の魔剣(カグツチ)ィィィィ! 全部の魔力を剣に集めろおおオオオ!」


 頭上から急降下してくるオニメが、そう叫ぶと同時に。

 アタシらの周囲にあった灼熱の結界、その空気の(ゆが)みが突如として失せ。彼女(オニメ)が握る魔剣からは、鉄を溶解させるほどに赤熱した刀身の輝きと熱気が消え去る。


 いや、消えた(・・・)のではない。


 瞬間、アタシへと迫る魔剣を含んだオニメの全身から、先程まで魔剣が放っていた猛烈な熱気と赤熱光を発し始めたのだ。

 それが証拠に、赤い閃光に包まれたオニメの姿の輪郭(りんかく)が時々、(ぼや)けて見える。まるで灼熱の結界の外側を覗いた時のように。


「これがオレの渾身の一撃──炎舞(えんぶ)(しまい)憤怒(ふんぬ)鉄鎚(てっつい)だあアアアァァァァ‼︎」


 頭上から猛烈な勢いで迫り来るオニメは、この()に及んでも律儀(りちぎ)なまでに、自分が繰り出した戦技(わざ)の名乗りを忘れなかった。

 いや、違う。この機に口を大きく開いたのは──


「こいつはオマケだ、喰らい──やがれエエエエエエ‼︎」


 その瞬間、オニメが大きく開けた口の奥からは。先程、地面を黒く焦がした紅蓮の炎が勢いよく吐き出された。

 そう。オニメがわざわざ大声で戦技(わざ)の名を叫んだのは、この炎の吐息(ファイアブレス)を撃つ動作を誤魔化(ごまか)すためだったのだ。


 頭上から。

 しかも至近距離で浴びせられる炎の吐息(ファイアブレス)

 右眼の魔術文(ルーン)字で、脚の筋力を増幅していたとはいえ。吐息(ブレス)の範囲から完全に退避することは難しい。今から回避しても、脚の一本は炎の巻き添えを喰らうだろう。


 しかし、アタシは微動(びどう)だにせず。


「ハッ! 炎がこんがりテメェを焼いた後にゃ、この魔剣で念入りに……消し炭にしてやンよオ! ハッハアァァァァ!」


 放った紅蓮の炎をアタシが回避出来なかった、と決めつけたオニメは。まるでアタシを倒したかのような、勝利を確信した高笑いを上げていたが。

 

 残念ながら。

 アタシの迎撃準備はとっくに完了していた。


「──我月に願う、剣纏いし夜の闇」


 オニメが攻勢に出るために、地面を蹴るのとほぼ同時に。アタシが右肩から流れる自分の鮮血で、巨大剣に描いたのは。

 「纏いし夜(ダガス)闇」の魔術文(ルーン)字だった。

 元来ならば、術者であるアタシの周囲に夜を思わせる暗い闇を発生させ、全身を覆い隠すだけの効果だが。

 魔術文(ルーン)字の研究の末に、アタシは魔術文(ルーン)字を発動させる時の「力ある言葉(ワード)」の順番と単語を入れ替えたり、変化させ。全く違った効果を魔術文(ルーン)字から引き出す事に成功した──それが。


dagaz(ダガス)


 魔術文(ルーン)字の発動と同時に、巨大剣の周囲に発生する夜の闇。

 本来ならば闇が大剣を包み込むだけだが。魔術文(ルーン)字を刻まれた巨大剣が、発生した闇を吸い込み。長大で幅広い刀身からは不揃いな刃紋(はもん)が消え、みるみる内に(まばゆ)い光沢を放つ漆黒へと変貌(へんぼう)していく。

 

「……ぐ、ゔ……ッッ、ッ⁉︎」


 と同時に。通常の使用法であれば、微々(びび)たる魔力の消耗にもかかわらず。尋常(じんじょう)でない魔力量が魔術文(ルーン)字へと流れ込んだことにより。

 アタシの背中や肩には、とんでもない重量の何かがのし掛かるような疲労感が襲い掛かる。


「は、ははッ……仕方、ないか、こればかりは、ねぇ……ッ」


 元来の魔術文(ルーン)字の使い方を、無理やり曲解(きょっかい)して発動させているのだ。こればかりは何度使っても「慣れる」という話ではない。

 

「だけど、コレならッ──」


 こうして生み出された漆黒の刃を握ったアタシは。


 もう眼前にまで迫る、猛烈な熱気を帯びた紅蓮の渦に向けて。いつものアタシが敵を叩き斬る時のように、両腕に渾身の力を込めて高速で剣を振るうのではなく。

 ゆっくりと……まるで剣の鍛錬(たんれん)をするかのような、緩やかな速度で真上へと剣を一振りする。

 

「──この、漆黒の魔剣(オディール)なら」


 七年、いや八年ほど大陸を旅していたアタシがその道中、耳に挟んだ伝承。

 父である魔神、そして白い羽根を持つ姉妹からも(うと)まれたという、黒い羽根と肌を持つ魔神の娘の話。

 その伝承を聞いた時、アタシは黒い羽根の娘と自分との境遇(きょうぐう)を重ねてしまい。妙に印象に強く残っていた。

 だからアタシは即断した。「纏いし夜(ダガス)闇」を独自の解釈で発動させた漆黒の刃の名前を、黒い羽根と黒い肌の魔神の娘の名前に。


 その「漆黒の魔剣(オディール)」から放たれた黒い剣閃は。アタシの期待と予想通り、直撃すればアタシの肌と肉を焼いたであろう灼熱の炎を。


 いとも簡単に、真っ二つに斬り割いていく。

炎舞(えんぶ)(しまい)憤怒(ふんぬ)鉄鎚(てっつい)

溶岩の魔剣カグツチが溜めた全魔力を一気に開放し、鉄をも溶解させる程の高熱を所持者の周囲に纏わせる効果を発揮する。

当然、この状態の魔剣所持者の攻撃は勿論(もちろん)、身体に触れただけでも発する高熱に焼かれることとなる。

絶大な威力の反面、発動が切れれば魔剣の魔力は空になるため、文字通り最終局面にのみ使用される戦技(わざ)


なお、この効果の持続時間だが。魔剣が溜め込んだ魔力の蓄積量にもよるが。本編でのオニメと魔剣の状態でも1〜2分程度。完全に準備が整った状態であっても10分が限界である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者のモチベーションに繋がるので。

続きが気になる人はこの作品への

☆評価や ブクマ登録を 是非よろしくお願いします。

皆様の応援の積み重ねが欲しいのです。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ