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165話 アズリア、クロイツ鋼の真価

 瞬間、ギリギリと金属が(きし)む音を鳴らし。力が拮抗(きっこう)していたアタシとオニメの武器が、互いに空中で弾かれると。

 感情を()き出しにした()え声を発しながら、さらに一歩前に踏み込んでくるオニメ。


 対して、アタシはというと。

 

「ハッ……どうしたよ、さっきの威勢(いせい)はよお!」

「う……るせえッ! アタシの大剣は特別製なんだ、間違ってもアンタの剣の熱なんかじゃ……ッ!」


 オニメの挑発じみた言葉に、口では対抗してみせたものの。

 真っ赤に刀身の焼けた魔剣の威力が、口だけではなく本物だというのは。何よりも、地面に転がったアタシの胸甲鎧(ブレストプレート)が示している。


「溶けて落ちやしないんだよおぉッッ!」


 だから、オニメが前に踏み込んでくるのを見て。アタシは一旦、数歩ほどの間隔を背後に跳び、その(のち)にオニメと同じく前に踏み込んで大剣を振り下ろし。

 真横に振り抜いてきたオニメの魔剣と、何度(なんたび)めかの互いの渾身の一撃同士の衝突。


 だが、今度の衝突は先程までと様子が違い。


 アタシは剣の軌道が交わり、火花を散らして幾度(いくど)も激突しながらも、その衝突で剣閃を止めることなく。連続して剣撃を放っていく。

 そして、オニメもまた同様に連続して。


「ハッハハ! こうやって敵と打ち合いなんていつぶりだろうなああア! そらア! そら!そら!そらっっ‼︎」


 先程までのオニメは、二撃目を考えずに初撃で目の前の敵を威力で押し切ろうという意図の重い豪剣(ごうけん)を振るっていたが。

 彼女(オニメ)の感情の(たかぶ)りに、手に握られていた魔剣(カグツチ)が反応しているのか。魔剣の放つ赤熱が徐々に強くなる……と同時に。オニメが放つ剣閃の速度もまた、徐々に加速していたのだ。


「ぐ、ッ──?」


 最初の二撃、三撃目こそ、何とかオニメの振るう魔剣の速度に合わせる事が出来たが。

 徐々にアタシがオニメの放つ剣閃に追いつけなくなり、防戦(うけ)に回らざるを得なくなっていった。

 これでもアタシは、右眼に宿した「巨人の恩(ウニョー)恵」の魔術文(ルーン)字を発動し。元より常人以上の膂力(りょりょく)をさらに増幅していたのに、である。


「こ、コレがッ、今のアタシにゃ限界だってのに、まだ速度が上がるッてのかいッッ?」

「ハッ! これが……テメェとオレの実力の差だよオオオ!」


 気が付けばアタシは、オニメの連続攻撃に押され、前に踏み出すどころか。既に五、六歩ほど後退を強要させられていた。


 そして、八度目の攻撃を凌いだその時。


「ゔ? うおぉッ……背中あッ!」


 突然、背中に猛烈な熱気を感じて、後退する脚が止まる。

 先程、不覚にもオニメの一撃を喰らい、傷口を焼かれた時と同様の熱気。さすがに眼前に迫るオニメからは目線を切れず、一瞬だけ顔を横へと(かたむ)け、視界の端で背後を確かめると。


 そこには、魔剣(カグツチ)がアタシをこの場に閉じ込めるために張り巡らせた灼熱の結界。その境目となる赤い光があった。

 徐々に後ろへと押されている自覚はあったが、まさか結界の端まで追い詰められていたという事実に愕然(がくぜん)とするアタシ。


  後がなく、圧倒的に不利な状況へと追い込まれていたアタシへと。

 迫るオニメが舌を出しながら、こちらを嘲笑(あざわら)うかのような言葉を吐き捨てる。


「さあ、選べよオ! オレの魔剣に斬られて死ぬか、焦熱地獄(しょうねつじごく)に焼かれて燃え尽きるか、をなああア!」

「ぎ、ッ……?」


 アタシを背後の灼熱結界の魔力の壁に押し込むように、赤熱した魔剣を打ち合わせ。舌を出すオニメの顔か迫る。

 オニメの挑発じみた言葉に苛立ちを覚えながらも、今のアタシが防戦一方である以上、何も言い返すことが出来ない不甲斐なさに。奥の歯を噛み締めながら悔しさに耐える。

 言い返すのは、この圧倒的不利な状況を一変させてからだ。


 問題は……どうするかだが。


「ほらほらぁ……時間がねェぞお。迷ってるうちにテメェの剣が、ほら、どんどん焼けていくぜェ?」


 オニメの指摘通り、この場をどう対処するかを悩んでいる間にも。アタシの巨大剣が魔剣の熱に侵され、刀身が真っ赤に焼けていってしまう。


「そぉら、そろそろ溶け落ち……」


 だが、こちらを馬鹿にするようなオニメの表情が、徐々に曇ってくる。

 確かに、アタシの握るクロイツ鋼製の巨大剣は。まるで鍛冶屋の炉で熱したかのように、全体が真っ赤になっていたにもかかわらず。刀身どころか、刃の一つも溶ける気配を見せなかったからだ。


「お……おいおい、な、何が起きてるってんだ? 鉄の武器なら、とっくに溶けて折れてるってのに……っ?」

「だから……言っただろうが、ッ」


 オニメは先程、魔剣の熱に耐えられるのは金剛鉱(アダマンタイト)やら太陽鉱(オリハルコン)といった稀少(きしょう)金属の名前を出していたが。


「言い忘れてたけど。アタシの剣を鍛造()ったのは、あの岩人族(ドワーフ)なんだよ……ッ!」

「──な⁉︎」


 そう口にするアタシの頭には、クロイツ鋼製の巨大剣を帝国を出奔(しゅっぽん)する前のアタシに託した岩人族(ドワーフ)の鍛治師・ダルク爺の髭面(ひげづら)を思い浮かべていた。


 アタシの巨大剣の材質となっているクロイツ鋼だって、稀少(きしょう)さという意味では負けてはいない。

 何より、この剣を鍛造したのは。あらゆる鉱石の扱いに長けた種族である岩人族(ドワーフ)であり。

 さらに言えば……魔王領(コーデリア)で偶然に出会った、老婆(ろうば)に身を(ふん)した大地の精(ノウム)霊が鍛え直した逸品でもある。

 岩人族(ドワーフ)や大地の精(ノウム)霊の工房にあった炉は、魔剣(カグツチ)の熱にも決して劣らぬ火力を誇る。そんな炉で鍛えに鍛えられた剣が、そう簡単に屈する筈もない。


 ……そして、反撃の準備がようやく整う。


 焼けて塞がっていた右肩と胸の傷口が、激しく動いたことで開き、血が流れ。右腕や左腕を伝って指の先で滴を作っていたからだ。

 そう、魔術文(ルーン)字を発動させるための触媒(しょくばい)となる、アタシの血が。


「我に巨人の腕と翼を──wunjo(ウニョー)

「は? お、おいテメェ……何、ぶつぶつと言ってんだ、こんな時にっ──」


 アタシは一旦、右手だけでオニメの魔剣(カグツチ)を凌ぎながら。左の指先に集まった血で、自分の身体に「巨人の恩(ウニョー)恵」の魔術文(ルーン)字を描いた。

 右眼の魔術文(ルーン)字は維持したままで。


「う? ぐ、ぐぐぐゥゥっっ?──な、なんだテメェ……いきなり、力が、増し、た、だとぅぅ?」

「アタシの剣はそう簡単に折れないッて、言っただけ、さああ!」


 途端に、つい先程までアタシを力と速度で劣勢に追い込んでいたオニメを。魔術文(ルーン)字の効果でいや増した腕力のみで、一歩、後退(あとずさ)りをさせる。


 そう、今アタシが使ったのは「二重発動(デュアルルーン)」。


 元来、一度に一つの文字しか発動出来ない魔術文(ルーン)字を、二つ同時に効果を発揮する。アタシが文献から方法を調べ、魔力容量(キャパシティ)と魔術文(ルーン)字への理解が進んだことで使えるようになった術式だが。


 多分、アタシはオニメのさらに後ろにカムロギが控えていたことで、もう一戦……という思いがあり。無意識に魔力の消耗を抑えて、右眼の魔術文(ルーン)字のみでオニメに対抗しようとしていたのかもしれない。

 何故なら。二重発動(デュアルルーン)は、同じ二種の魔術文(ルーン)字を一つずつ発動するよりも魔力の消耗が激しいのだから。


 全身の膂力(りょりょく)を増幅する「巨人の恩(ウニョー)恵」の魔術文(ルーン)字で、既に増強していた身体に。新しく発動させた同じ魔術文(ルーン)字が、さらなる力を巡らせていった。

 

「て……テメェっ! 一体、何をしやがったああア⁉︎」


 何で立場が逆転したのかが理解出来ず、一歩後ろへと押し戻されていくオニメは。もう一度アタシの背中を灼熱結界の壁へと押し付けようと、牙を噛み合わせて力を込めるも。

 力で競り負けたことによる後退は止まらない。

 二歩、三歩とオニメの足裏が地面を擦り、結界の中心部へと魔剣ごと彼女(オニメ)を押し込んでいく。


 そんな眼前の彼女(オニメ)の顔からは最早(もはや)、余裕の表情は完全に消え失せていた。

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