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164話 アズリア、窮地に追い込まれる

 しかも、無理にアタシが剣を引いてしまったのが完全に裏目に出たのか。オニメが魔剣(カグツチ)を赤熱してみせるまでは優位に立っていた剣同士の迫り合いは、立場が完全に逆転し。

 今や、オニメの真っ赤に焼けた魔剣(カグツチ)の刃が、アタシの肌と肉を焼かんと間近にまで迫っていた。


「は……ッ、離れ、やがれえッ!」


 距離を取るのに失敗し、さらに有利な立ち位置まで奪われ。一転、窮地(きゅうち)へと追い込まれたアタシは。

 それでもアタシは、こちらの武器を魔剣(カグツチ)の放つ高熱で溶かそうとするオニメから距離を取ろうと。

 オニメの興味が剣に集中していたのを逆に利用し、咄嗟(とっさ)に脚を動かしてオニメの腹へと蹴りを放つ。

 ──だが。


「ハッ、今……何かしたかぁ?」


 アタシが繰り出した脚は、避ける様子のないオニメの腹にまともに命中こそしたものの。

 蹴りが全く効いていないのか。目の前のオニメは表情を一切変えず、平然とした顔を浮かべ。

 蹴りの威力で後ろへと吹き飛ぶどころか、一歩たりとも今立っていた位置から動いていなかった。


「な、ッ⁉︎」


 こちらとて、手を抜いて蹴りを放ったわけではない。右眼の魔術文(ルーン)字の魔力が浸透した脚から繰り出す蹴りの威力は、普通に暮らす街の住人にこんな蹴りを放てば、大怪我をさせる程度では済まないくらいだ。

 それが証拠に、脚が直撃したオニメの腹の部分の衣服は、蹴りの威力で破けてしまっていた。


 破れた生地の下から見えたのは、()き出しになった腕や脚の表面に浮き出ていたのと同じ、竜属(ドラゴン)(うろこ)だった。

 おそらくは、強固な竜属(ドラゴン)(うろこ)が、アタシの蹴りの威力を完全に殺してしまったのだろう。


「し、しまッ……?」


 しかも、不用意に蹴りを放ち、身体を支えるのが片脚一本になってしまったことで。アタシは体勢を大きく崩し、オニメの剣に押し切られそうになる。


「ハッ! 余所者(よそもの)ながらアンタはよく頑張ったほうだ……だがっ! オレが強すぎたみてェだなああっ!」

「ちぃッ!……な、なら、ッ」


 力の拮抗(きっこう)が破れるのをこれ以上は止めることが出来ない、と踏んだアタシは。

 ()えて剣に込めた腕の力を、一瞬だけ緩めたことによって。こちらの頭を割ろうとするオニメの魔剣の軌道と威力を、(わず)かにではあるが横へと逸らし、衝撃を殺す。


 そして、アタシの大剣がオニメに弾かれ。

 赤い剣閃がアタシ目掛けて襲い来る。


 このまま、この場に棒立ちしていれば。いくら(わず)かに軌道を逸らしはしたものの、胸を深く斬り裂かれるのは間違いなかった。

 だから、アタシは咄嗟(とっさ)の賭けに出る。


「ハッ……今さら悪足掻(あが)きたぁ、みっともない。とっととオレに斬られちまいなっっ!」


 確かにオニメの言う通り、これからするのは悪足掻(あが)きの(たぐ)いだろうが。アタシはまだこんなところで負けるわけにはいかない。

 

 先程、オニメに剣を弾かれた時の衝撃を、両の脚で踏ん張ろうとするのを止め。そのまま後方に身体が吹き飛ばされる勢いを活かして、一度だけ地面を蹴って後方に跳ぶ身体を、さらに加速(・・・・・)させる(・・・)


「死──ねええええっっ‼︎」


 後方へと跳んだアタシの眼前を、ちょうどオニメが手にした赤く焼けた魔剣が掠めていく。通過したのは一瞬ではあったが、剣から発せられる凄まじい熱気が、右の(ほお)をじりじりと(あぶ)り。

 魔術文(ルーン)字の「誓約」のために鎧の装甲で守られていない右肩に、赤熱した魔剣(カグツチ)の刃の先端が喰い込んでいく。


「ゔ、ぎ、ぎぃ……ッッッ⁉︎」


 身体が後ろに跳ぶよりも、オニメの剣閃が身体に届く速度が早かったのだろう。

 肩口に喰い込みながら、周囲の肉を焼いていた魔剣の刃は。そのまま真下へとアタシの身体を斬り裂いていき。

 胸に装着した胸甲鎧(ブレストプレート)をも、水が沸くような白煙を上げながら両断してしまった。


 鋭い刃で肩から胸を裂かれた痛みと、魔剣の熱で肉が焼かれる痛み。二種の激痛が同時にアタシを襲い、思わず口から悲鳴が漏れそうになるも。

 一度、悲鳴を出してしまえば。頭や身体が痛みに(あらが)うのを止め、痛みに屈してしまうことに

なる。

 そうならないようアタシは、歯を噛み合わせて声が出るのを抑え、激痛に耐えて。加速をつけて吹き飛んだ後方で、何とか両の脚で着地をすることに成功する。


「だが……凌いだッ!」


 もし……先程、痛みに屈していたら。脚に力を込めることが出来ず、着地に失敗し。アタシは無様(ぶざま)に地面に転がっていただろう。

 そんな大きな隙をオニメが見逃がす筈もない。勝負は簡単に決着し、アタシの生命の()はここで消えていただろう。


「まあ……無事に、とはいかなかったけど、ねぇ……ッ」


 右肩を斬られた傷は決して浅くはなく。右の乳房の辺りまで一直線に斬られた傷口からは、流れた血が右腕や腹を伝い。地面にポタポタと垂れた血が、赤い染みを作っていた。

 だが、傷の深さや大きさに比較して、流れる血の量が少ないのは。斬られると同時に魔剣(カグツチ)の発する高熱で肉を焼かれたからだろう。

 その分、斬られた傷口からは耐え(がた)い激痛が身体中を巡っていたが。


 アタシは、先程のオニメの一撃で右胸の箇所だけを中途半端に破壊された胸甲鎧(ブレストプレート)の留め金を素早く外し。地面へと脱ぎ捨てていくと。

 激痛が走る右腕を動かして大剣を構え直し、真正面に立つオニメをキッと睨み()える。


「さあッ……ここから、仕切り直しだよ」


 アタシの視線から、まだ戦意が失われてないのを読み取ったオニメは。


「ふ……ふざけるんじゃねええええ! 何で、何でさっきので死んでねえんだよおおおオオオ‼︎」


 突然、怒りの感情を爆発させたかのような絶叫を発し。オニメの激昂(げきこう)に反応するかのように、魔剣(カグツチ)の刀身がさらに赤い輝きを増していき。

 憤怒(ふんぬ)の表情のまま、オニメもまた大きく目を見開いて殺意を込めた視線をアタシに放ち返すと。


「クソがあああああアアアアアァァァァ‼︎」


 周囲の空気を強烈に震わせ、まるで竜属(ドラゴン)吐息(ブレス)咆哮(ほうこう)かを思わせる絶叫を発しながら。

 再び背中の翼を大きく広げ、地面から脚が離れ、高速で地面すれすれを飛行しながらアタシへと突撃を仕掛けてきた。

 怒りの感情を魔剣に乗せた、ただ一直線に突っ込んでくるだけの単純な攻撃。しかし、だからこそ些細(ささい)な策を差し込む隙のない、強力な一撃。


 ただの突撃ならば、横に跳んで避け、側面から隙を突くのが妥当な手段だが。その作戦は、先に一度実践(じっせん)し、こちらの意図の裏を読まれている。

 ──だったら。


「イイぜ……なら、真っ向から勝負してやるよおッッ!」


 高速の赤い閃光と化したオニメの突撃を、アタシは()えて立ち位置から動かず。右眼の魔術文(ルーン)字の魔力を両腕へと巡らせて、巨大剣を真正面に構えると。

 

 何度めになるのか、巨大剣と魔剣(カグツチ)が衝突する。

 大きな衝撃音が鳴り響き、激しく火花が散る……そこまでは今までの迫り合いと全く同様だったが。

 ただ一つ違う点は。

 アタシの巨大剣の刃が、オニメの持つ魔剣(カグツチ)と迫り合っていた箇所が徐々に真っ赤に焼けていき、白煙が生じていた事だ。


「ハッ……忘れたのかよォ! オレの魔剣(カグツチ)は全ての武器を溶かして破壊する、ってえことをよ……ォ?」

「う……うるさいねぇッ! そういうのは、アタシの剣を破壊してから言ってみるんだねぇッッ!」


 鉄製の武器をも溶かす、というオニメの言葉は間違いではないだろう。それが証拠に、先程邪魔になり脱ぎ捨てた胸甲鎧(ブレストプレート)には、力で叩き斬ったのではなく、高熱で溶かしたと思われる破壊跡が残っていたからだ。


 だが、アタシが構える巨大剣はただの鉄ではなく。帝国秘蔵の方法で生み出された、鉄より硬く丈夫なクロイツ鋼で鍛造されている。

 オニメの魔剣とて、アタシの巨大剣を容易に溶かすことは出来ない、と踏んでいたが。


 そんな予想を嘲笑(あざわら)うかのように、オニメが言い返してきたのは。

 驚くべき魔剣(カグツチ)の威力について、であった。


「オレの刃を受けて溶解せず生き残るのは、伝説の十二の魔剣か、金剛鉱(アダマンタイト)太陽鉱(オリハルコン)で出来た武器だけだよっっ!」


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