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154話 ヘイゼル、新たな武器を披露する

 イスルギが最初に鉄弓から射ち出した鉄矢(てっし)は、風を切り裂き一直線に。ヘイゼルが放った単発銃(マスケット)の鉄球に命中する。

 鉄の矢と鉄の塊が空中で激突し、耳障(みみざわ)りな衝撃音が鳴り響く。

 だが、先程ヘイゼルがしたように。

 オニメへと迫る鉄球を弾けはしない。

 炸薬(たまぐすり)の爆発で加速された鉄球に対抗するには、矢では威力が足りなかったのだ。


 しかし。


 最初の矢と全く同じ軌道を描き、続け(ざま)に放たれたイスルギの第二射が。鉄球の威力に押し負けそうになる最初の鉄矢(てっし)矢尻(やじり)へと命中し。

 合計二本の矢の威力を受けた鉄球は、その勢いを完全に殺され。二本の鉄矢(てっし)と共に地面へと落ちた。


「──なっ、なんだとお⁉︎」


 ヘイゼルが驚きの声を上げるのは当然だ。

 一射目の矢尻(やじり)に二射目の先端を命中させるなど、射手の技量が相当に高くなければ一度でも成功させるのは難しいだろう。

 しかも、動かない的ではなく。高速で動く小さな目標に……ともなれば。まさに神業(かみわざ)と呼ぶに相応(ふさわ)しい。


 オニメを救おうとした偶然か、はたまた狙い通りだったのかは知る(よし)もないが。


 信じられない技量を見せつけられ、オニメを狙った単発銃(マスケット)の一撃を止められたのを見て。苦々しい表情で浮かべながら舌打ちをするヘイゼル。


「ちっ……あのやり取りだけで気付くかい。さすがはあれだけの遠距離から、あたいらを狙う凄腕だけはあるよ……っ」


 ヘイゼルの推察通り。アタシを狙った鉄矢(てっし)が弾かれたばかりでなく、自分の(ほお)に掠り傷を負った時点で。

 イスルギは、放った矢がヘイゼルが鉄筒から撃ち出した鉄球に威力負けした事実を一瞬で理解し。

 一射ずつで押し負けるのなら二本の矢で。オニメに致命傷を与える目的で放たれた単発銃(マスケット)に対抗しようとしたのだろう。


 まさにイスルギの読みは的中し、こうして敵側の戦法を逆手に取ったヘイゼルの逆転の一撃は。神業(かみわざ)のような二連射によって防がれてしまったが。

 ヘイゼルはまだ諦めてはいなかった。


「だっ……だがな! 単発銃(マスケット)は一つだけじゃねえんだよ、馬鹿がっ!」


 一度は神業(かみわざ)じみた射撃の腕を見せつけてきたイスルギを、歯軋(はぎし)りしながら睨み付けていたヘイゼルだったが。

 同じ箇所に二本の矢を継いで当てる、などという神業(かみわざ)を狙って出来るわけがない、と想定し。

 再びオニメへと迷いを含んだ視線を向けた途端。


 鉄球を撃ち終えた空の単発銃(マスケット)から、もう一個所持する炸薬(たまぐすり)と鉄球の装填(そうてん)を終えている単発銃(マスケット)へと持ち替えると。

 無詠唱で「点火(フリント)」の魔法を発動し。一瞬だけ躊躇(ためら)いを見せたものの、再びオニメ目掛けて単発銃(マスケット)の引き金を引くヘイゼル。

 だが、ヘイゼルの動きを察知して。


 矢筒から二本の矢を取り出しながら、表情を変えずにぼそりと小声で(つぶや)くイスルギは。


「……無駄、だ」


 使わぬ一本の矢を口へと咥えながら。今度はその場にどっしりと立ち、縦に構えた鉄弓に鉄矢(てっし)(つが)え。

 単発銃(マスケット)の筒口から高速で射出された鉄球を鋭い視線で捉え、狙いを定めるや(いな)や。

 ヘイゼルとは対照的に。(いささ)かの躊躇(ちゅうちょ)なく、固く張った鉄の(つる)と矢から──指を放す。


 イスルギの弓から放たれた矢は、相変わらずの鋭く風を切り裂く音を鳴らしながら。ヘイゼルが単発銃(マスケット)から発射した鉄球へと、吸い込まれるように命中し。

 再び、鉄矢(てっし)と鉄球の衝突音が激しく生じる。


 イスルギの弓の腕前を凄い、と認めておきながらも。まさか一度ならず二度までも、小さく、しかも高速で放たれた単発銃(マスケット)の鉄球へと矢の先端を命中させたことに。

 驚きを禁じ得なかったヘイゼルは、思わず声を漏らしてしまうが。


「う、おっ?……だ、だがっ!」

 

 だが、ここまでの所業(しょぎょう)で終わるなら。威力で勝る単発銃(マスケット)の鉄球が、命中した矢を弾いて終わるだけだ──が。

 

 既にイスルギは、口に咥えていた矢を弓へと素早く(つが)えると。鉄球に命中した一射目の矢尻へと狙いを定め、弓の(つる)を弾いていた。

 

 弓から離れた矢は、一射目と全く同じ軌道を一直線に飛び。先程と同じ様に、威力に押されて鉄球に弾かれそうになっていた一射目の鉄矢(てっし)矢尻(やじり)へと命中し。

 先程と同じく、威力が拮抗(きっこう)したからか二本の矢と鉄球は同時に弾け飛んでいった。


「う……嘘……だ、ろ……っ?」


 驚愕(きょうがく)を通り越して、感情が凍り付いたように表情が固まったヘイゼルは。

 両膝を折り、地面へと座り込んでしまう。


 おそらく彼女(ヘイゼル)は、先程イスルギがやってみせた神業(かみわざ)じみた防御を、偶然の成功だと思っていた。いや、そう信じたかった(・・・・・・)のだろうが。

 実際はそうではなく。こちらから見れば成功の可能性の低い、だから「神業(かみわざ)」と称した方法ですら。イスルギの腕前ならば普通に実行出来たのだろう。


「……ふ。これで、腕の違いは歴然(れきぜん)としただろう」

 

 無表情だったイスルギの顔に、薄っすらと笑みが浮かび。新たに矢筒から取り出した鉄矢(てっし)(つが)えると。

 矢の先端をアタシではなく、ヘイゼルへと向け。


「それでもまだ、オレと射ち合うか。異国の女」

 

 イスルギの興味は最早(もはや)、仲間のオニメの援護からヘイゼルへと移っていた。

 

 先程の攻防で、ヘイゼルはイスルギの弓の腕前に驚愕(きょうがく)してみせたが。イスルギもまた、初手でアタシを狙った鉄矢(てっし)へ命中させ。見事に叩き落した時点で、ヘイゼルの射撃の腕を注視していたのだから。

 ヘイゼルへと狙いを定めたイスルギは、鉄弓の(つる)を引き絞り、矢を射る準備を終えていく。


「……はっ、やれやれ、だぜ」


 既に所持していた二本の単発銃(マスケット)は、鉄球を撃ち出した空の状態であり。ヘイゼルに残された武器は、腰に挿した稀少(きしょう)な金属・聖銀(ミスリル)製の刺突剣(レイピア)のみ。

 もし今、ヘイゼルがその刺突剣(レイピア)を抜いて、イスルギに攻撃を敢行(かんこう)しても。攻撃が届く前に、イスルギが放つ鉄矢(てっし)に急所を射抜かれるのは。ヘイゼルも理解している筈だ。

 

 にもかかわらず、である。

 先程まで表情を凍らせ、地面にへたり込んでいた筈のヘイゼルから、溜め息とともに微笑が漏れる。


「もう少し、温存しときたかったんだが、なあ」


 そう言って顔を上げたヘイゼルの眼には、獲物を狙う時のような鋭い光が戻っていた。


 するとヘイゼルは、座り込んだ体勢のままで。突然持っていた二本の単発銃(マスケット)を腰に巻いた革紐(ベルト)へと引っ掛けると。

 空いた両手を、胸元から着ていた革鎧(レザー)へと差し込んでいき。懐の内側から取り出した両手に握られていたのは。


 腰に下げたのと同じく、二本の単発銃(マスケット)だった。


「こいつはね。いつかアズリアとの再戦の時に初披露してやろうと思ってたんだが……出し惜しみはなしだ!」


 ──二人の射撃手が対立の火花を散らす。

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