表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1235/1771

153話 ヘイゼル、窮地を救う一撃

この話の主な登場人物

アズリア (いにしえ)の魔術・魔術文(ルーン)字を使う女傭兵

ヘイゼル 元海賊の女頭領 単発銃(マスケット)を使う 

オニメ  魔剣カグツチを所持する異種族の女戦士

イスルギ 巨大な鉄弓を巧みに扱う凄腕の弓兵

 ──だが。

 敵はオニメだけではなかった。


 アタシがオニメと互いの剣を衝突させ、だが双方が一歩も引かずに競り合いを続けていた時。

 巨大な鉄弓を構えたイスルギが、足の止まったアタシを狙う好機と捉え。素早く一本の鉄矢(てっし)(つが)えていたのだ。

 弓を射る体勢をとっくに整え、獲物を狙う視線をアタシへと向けるイスルギ。


「……油断したな」


 こちらを狙う鋭い視線を肌で感じた時には、イスルギの指は強く引いた弓の(つる)から既に離れ。矢は一直線に、アタシを射抜こうと恐るべき高速で今まさに迫っていた。


「ハッ! 調子に乗って飛び出してきやがったが、テメェはこれで終わりだあっっ!」

 

 そういえば。アタシらが三の門に到着した直後にも、イスルギが五本の鉄矢(てっし)を放ってきたが。

 攻撃の合図を出していたのは、この女(オニメ)目配(めくば)せだったのを思い出した。


 しかし今頃気付いても、もう遅い。


「ぐ……ぐ、ッッ?」

 

 迫る矢を避けようと体勢を崩せば、その隙を見逃がさずオニメが容赦(ようしゃ)なく追撃を仕掛けてくるだろうし。

 アタシを仕留める好機をみすみす逃がすわけが、そもそもなく。ここぞ、とばかりにオニメが武器に力を込めて。距離を空けようとするアタシへ、強引に漆黒の大剣(グレートソード)を押し付けてくる。


「ハッ! どこへ行こうってのさあ!」


 これでは矢を回避するどころの状況ではない。

 それに……イスルギが矢を放つ気配を、察知が遅れたのが致命的だった。アタシは迫る鉄矢(てっし)に対し、何ら有効な解決策を見出(みいだ)せないまま。

 もうアタシの間近にまで矢は接近していた。

 (うな)りをあげ、高速で矢が切り裂く風が鳴る音が徐々に大きくなるのを耳で感じながら。


 その時──耳に飛び込んできた衝撃音。

 

「「──な、ッッ⁉︎」」


 驚いて声を漏らしたのは、アタシだけではなく。吐息がわかる程に顔が迫っていたオニメも、矢を放ったイスルギもであった。

 

 何しろ、一方的な攻撃を仕掛けた筈のイスルギの(ほお)の横を何かが通り過ぎ。通過した何かが少し肌を掠めたのか、(ほお)から血を流していたからだ。

 離れて見ているアタシとオニメは、直ぐにイスルギの異変に気が付くことが出来たのだが。当のイスルギはもう一つ(・・・・)の異変(・・・)に気を取られ、自分の(ほお)から流血している事実に気付いてはいなかった様子だ。


 そう、もう一つの異変とは。

 アタシを射抜こうと飛来していた鉄矢(てっし)が、何か堅い物に弾かれたように吹き飛んだ事だ。

 鉄製の矢は中折れすることなく、くるくると回転しながら空中を舞い。そして地面へと落下していった。


「……だ、誰が、俺の矢を、っ?」


 ようやくイスルギが(ほお)を傷付けられたことを理解し、同時に何者かの攻撃が自分(イスルギ)に向けられた事実を知り。

 感情のないように思えたイスルギの表情に初めて焦りの色が浮かび、慌ててその場から離れると周囲を警戒し始める。


「て……テメェ? な、何をしやがったあっ!」

「はは、それをアンタらに答えてやる道理があるッてえのか、ねぇ?」

「ぐ、ぐぎぎ……ぃっ」


 対峙していたオニメは、矢を弾いた原因をアタシだと思い込み、一体何をしたのかその手段を聞き出そうと試みるも。

 今回に関してはアタシが何かをしたわけではないため、オニメの問いを冷たく(あし)らうと。再び頭に血が昇ってきたのか、顔を真っ赤にしながら歯軋(はぎし)りをし始めた(オニメ)


「ははッ、それに、ねぇ──」


 それにアタシは、最初こそ敵側の二人(オニメとイスルギ)同様に何が起きたのかを理解出来ずに驚いてしまっていたが。

 今では、何故自分を狙っていた矢が吹き飛び、イスルギが(ほお)から血を流しているのか。その理由をすっかり理解していたからに他ならない。


 アタシは、連中が知りたがっている二つの異変を生んだ張本人へと目線を向け。

 剣を交えていたオニメに聞き取れぬ程の小声で。


「……助かったよ、ヘイゼル」


 と、窮地を救ってくれた感謝を視線の先にいた女海賊(ヘイゼル)へと口にしていく。


 耳に飛び込んできた、ヘイゼルのみが用いる単発銃(マスケット)の発射の際の特徴的な炸裂音。そして撃ち終えた後に漂う、炸薬(たまぐすり)特有の焦げ臭い匂いを鼻に感じたことで、すぐにヘイゼルの仕業(しわざ)だとアタシは理解したのだ……が。

 

 いつの間に、馬でアタシとオニメを挟んだイスルギとの直線上に並ぶ対面に、騎乗したまま移動していたヘイゼルは。

 アタシの視線に気付いたのか、片目を(つむ)りながら口から舌を出し。こちらを小馬鹿にするような表情を見せながら。

 発射したばかりの単発銃(マスケット)の、次弾の補填(ほてん)を行なっていた。


「まあ……いつまでもアズリア、お前さんの背中に隠れ続けてるわけにゃいかないからな」

 

 イスルギもオニメも、まだ何が起きたのかを把握出来ずに戸惑っている間にも。

 空になった単発銃(マスケット)へ、鉄球と炸薬(たまぐすり)装填(そうてん)を終えたばかりのヘイゼルは。

 弾を込めたばかりの単発銃(マスケット)の筒口を、アタシと競り合うオニメへと向けると。


「さて、やられたならこっちもやり返してやらねえと、なあ──っ」


 先程アタシに見せた表情が一変し、顔から感情が消え失せたような無表情となり。冷徹(れいてつ)獲物(えもの)を狙う狩人の眼で、オニメを凝視し。

 無詠唱で「点火(フリント)」の魔法を使い、何の躊躇(ためら)いもなく引き金を引いたヘイゼル。

 

 つい先程聞いたばかりの炸薬(たまぐすり)の爆発音。

 イスルギが強力な張りの鉄弓から放つ風を貫く高速の鉄矢(てっし)と同等、いや……それ以上の速度でオニメへと迫る単発銃(マスケット)から発射された鉄球。


「う、うお、っっ⁉︎」


 まさかイスルギと一緒に仕掛けた戦法を、アタシとヘイゼルがそっくり真似(まね)てくるとは思ってもみなかったのだろう。

 背中の翼を横に大きく広げて、剣を交えていたアタシから離れようとしたが。先程、矢が迫っていたアタシと同じオニメの思考を読み切り。

 

「逃がさ……ねぇよッッ!」


 右眼の魔術文(ルーン)字の魔力を、脚へと巡らせて。後方に退()がろうとするオニメを逃がすまいと、前方へと大きく跳躍(ちょうやく)し。

 ヘイゼルが放った単発銃(マスケット)の鉄球の軌道へと、オニメの身体を追い込んでいく。

 先程のアタシと同じ立場ならば、最早(もはや)オニメには何ら打つ手は残されてはいない筈だ……が。

 

 ヘイゼルの行動を察知したイスルギが動く。


「──させん、ぞっ!」


 移動しながら鉄弓を縦ではなく、横に構えたイスルギは。素早く一本の鉄矢(てっし)を弓に(つが)え。

 ヘイゼルがしたように、自分(イスルギ)もまた単発銃(マスケット)の鉄球を弾き、射ち落とそうと矢を放ち。

 さらに素早い動きで、再び矢を(つが)え。少しの狂いもない同じ動作で弓の(つる)を引き絞り、全く同じ軌道の第二射を放っていったイスルギ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者のモチベーションに繋がるので。

続きが気になる人はこの作品への

☆評価や ブクマ登録を 是非よろしくお願いします。

皆様の応援の積み重ねが欲しいのです。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ