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132話 イズミ、巨人の二つ名の由来

この話の主な登場人物

ショウキ 四本槍の一人で巨人族(ギガス)

イズミ  ナルザネの息子で叛乱軍を指揮している

 残る騎馬兵は、イズミの指揮の元。

 四本槍の一人、巨人族(ギガス)のショウキを弓矢で牽制(けんせい)をしている真っ最中だった。

 数騎の弓兵が馬上から降り注ぐ矢を防ぐために、片膝を突いた体勢で身を縮め。身体に纏った分厚い装甲で有効打を避けていたショウキ。


「──()()てっ! 動く間を与えるなっ!」


 二の門を通過する際に、獣人の少(ユーノ)女と余所者の女(ヘイゼル)が放った二発の強力な射撃攻撃により。

 男二人を縦に並べた以上の背丈を誇る巨人族(ギガス)を怯ませ、武器破壊という有効な打撃を与えた。イズミはそれを好機と捉え、弓を持った騎兵へと追撃を指示したのだが。


 不意に、追撃の矢がピタリと止まる。


「な……っ? ど、どうしたっ、矢を止めたらっ……」


 後衛の異変に気付いたイズミは、慌てた様子で後ろを振り返る。


 数騎程度の矢の雨だとしても、射撃が途切れれば巨人族(ショウキ)が攻勢に転じるのは避けようがない。

 いくら武器を持たぬとはいえ、一度攻勢に回ればその巨躯(きょく)から繰り出される拳や蹴りだけでも。味方に相当な被害が出るのは間違いない。


 イズミは後衛らに、弓矢による牽制(けんせい)を再開するよう指示を出そうとしたが。


()ちたくとも……もう、矢が、尽きた……」

「な、何だとっ?」


 弓を下ろした騎兵の一人は、イズミに空になった矢筒(やづつ)を見せる。

 決してこの武侠(モムノフ)が、準備していた矢の数が極端に少なかったわけではなく。弓矢を必要としなかった一の門までは、矢筒(やづつ)は二〇本以上の矢で満たされていた。

 その事はイズミも理解していただけに。矢筒(やづつ)か空になる程、既に目の前の巨人族(ショウキ)に矢を()ち込んでいた事に愕然(がくぜん)とする。

 

 だが、もう一人の騎兵はより深刻な状況だった。


「か……から、だが……動、かぬ……っっ⁉︎」


 その騎兵の矢筒(やづつ)には、まだ矢が残っていたにもかかわらず。弓を握り、矢を(つが)えた体勢のまま、身体を細かく震わせて身動き一つ取ろうとしなかったからだ。

 見れば、その騎兵一人だけでなく。他にも矢筒(やづつ)に矢を残していた弓を持つ騎兵は、同じように身動きが取れなくなっていた。


「こ、こんな状況に笑えぬ冗談を──」

「じょ……冗、談で、は……な、いっ……ほ、本当に、身体が……っ、う、動か、ない、のだっ……」

 

 イズミは最初こそ、横にいた同僚が矢を放つ手が止まったのを見て。調子を合わせて射撃を止めただけだろう、と軽く考えていたが。

 必死な形相(ぎょうそう)で身体を震わせ、まるで病人のように辿々(たどたど)しく喋る騎兵たち複数人の姿から。(ただ)ならぬ事態が起きている、と判断し。

 

「な……何だ? 一体、何が起きているというのだっ?」


 慌てたイズミは、周囲の様子を目を凝らして隈無(くまな)く観察する。


 まず(イズミ)が疑ったのは、他の四本槍がこちら側に何らかの介入を行った説だ。何しろ、この二の門の前に最初からいたのは、四本槍の三名。白槍のブライ、隻眼のジンライ、そして今相手にしている不動のショウキだけなのだ。

 だが、戦況を見るに。後の二人はそれぞれ目の前の相手と互角に張り合っており。とても他の戦闘に介入出来る余裕は見て取れない。


 ならば、四本槍の三名以外の伏兵が潜み。身体を震わせる騎兵に毒を盛った可能性を。イズミは頭へ浮かべるが。

 

「……いや。周囲には敵の気配はない」


 イズミが周囲を見渡した限り、城壁や自分らが進んできた通路から敵の武侠(モムノフ)や、(かげ)が姿を見せた痕跡(こんせき)はない。

 (ある)いは、ただイズミが見逃がしている可能性も大いにあるが。

 もし自分が伏兵ならば、弓を構える騎兵よりもまず。指揮役の自分(イズミ)を狙うのではないか、と思い。伏兵の可能性を切り捨てる。


「あの二人でもなければ、(かげ)による毒矢でもない……だったら、他に何がっ」


 だが、明らかに騎兵の身動きが止まっているのは敵側の攻撃によるものだ。他の四本槍でも、伏兵でもないとすれば、一体何処からこの攻撃は向けられたのか。

 そう悩むイズミの視線の先に映ったのは。


「ぬ……い、今、一瞬、何かが光ったぞ?」


 身を縮めて防御姿勢をとっていた巨人族(ショウキ)の。頭を(かば)うように構えた両腕の隙間から、(わず)かにではあったが。

 巨人(ショウキ)の目が(あや)しげな光を発したかに見えた。


「うっ!──うおおおっ⁉︎」


 次の瞬間、指先と足の先から感覚が喪失する異変が起き。思わず声を上げてしまうイズミ。

 だが、(あや)しく光る目から視線を外した途端に、消えた手足の感覚が戻っていく。


「も、もしやっ……」


 見れば、騎兵らは矢を(つが)え、狙いを定める必要があったからか。身動きを止めた全員が、巨人族(ショウキ)へ真っ直ぐに視線を向けていた。


「どうやら……一人くらいは気付けたようだな、この俺の『魔眼()』に」


 イズミがようやく身動きを止めた騎兵の謎が解けた、と同時に。

 答え合わせをするかのように、身を縮めていた巨人(ショウキ)が構えを解き。最早(もはや)降り注ぐ矢もないからか、ゆっくりと両脚で立ち上がってきた。


「眼……だと?」

「そうだ。俺の魔眼()凝視(ぎょうし)されれば、大概(たいがい)の連中は身動きが取れなくなる……ちょうど、そこにいる騎兵らのように、な」


 長い時間、身を縮める窮屈(きゅうくつ)な体勢をしていたからか。立ち上がったショウキは首を回したり、肩を動かすといった仕草を取ると。

 自分の眼を指差しながら、騎兵が急に身動きが封じられた理由を説明する。


 魔眼。

 視線のみで魔法のような効果を発揮し、秘めたる魔力によっては並の魔法を凌駕(りょうが)する効果を持つ、危険な眼のことを「魔眼」と呼ぶ。

 本来であれば、魔族、それも淫魔族(サッキュバス)のみが継承する能力なのだが。魔族の血が流れているならば、他の種族が覚醒し、手にする可能性は皆無ではない。

 魔眼もまた、所持者の魔力によって効果を発揮する以上。現す効果もまた魅了や石化、相手に毒を与えたり、と多岐(たき)に及ぶ。


 巨人(ショウキ)が持つ魔眼は、呪縛の魔眼。

 ()た対象を魔力で縛り、身体の自由を奪う。


「はっ! ま、まさか……二つ名の『不動』というのはっ……」


 そこまで説明を聞いたイズミは、目の前の巨人族(ショウキ)の四本槍としての呼び名を頭に浮かべていた。

 不動のショウキ。

 その巨躯(きょく)から、一度攻勢に出た時に止める者のいない様と、守勢の際に防衛拠点を完璧に守り切ることから呼ばれていた……と思っていたイズミだったが。

 もう一つの可能性──それは。


「そうだ。この魔眼()()って、相手をも動かぬモノとする……(ゆえ)の『不動(・・)』だっ!」

 

 呪縛の魔眼で、敵の身動きを次々と縛ってきた功績と戦法からの二つ名。

 そう種明かしを続けたショウキは、ここで言葉を交わしていたイズミへ初めて魔眼()を向ける。


「しまっ……ぐっっっ⁉︎」


 先程は一瞬だけ視線の影響を受けたイズミだったが。自分から目線を外す猶予があったために、まだ手足の先が痺れるだけで済んだ。

 しかしこの(たび)は。完全にショウキの視線に囚われてしまったイズミの身体は、先程のような緩い速度ではなく。急速に、全身の感覚が喪失していった。

 今回も目線を逸らそうと顔を(かたむ)けようとするも、既に身体の麻痺は首にまで及び。最早(もはや)イズミは指一本、自由には動かせなかった。


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