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126話 アズリア、友軍の意地を見る

 一度はジャトラと(たもと)を分けたナルザネが、仲間である四本槍の目の前で裏切りを見せ。二の門を開いてくれたのだ。

 先へと進む、絶好の機会なのは理解している。


「……だけど、さ」


 だが、先程の友軍の領主の一人・レンガとジンライとの一騎討ち。アタシが割って入らなければ、今頃レンガはジンライの槍で致命的な一撃を喰らっていたかもしれないし。

 巨人族(ギガス)であるショウキを押し留めたのは、イズミに率いられた騎馬隊ではなく。あくまでユーノとヘイゼルの攻撃だったのだ。

 

 こんな状況で、アタシらがこの場から先へ進めば。裏切りを見せたナルザネは今、白槍の老武侠(ブライ)と戦闘中ではあるが。他の二人(ジンライとショウキ)も、裏切り者には黙ってはいないだろう。

 一対三で生還出来る可能性は限り無く低い……それに。イズミらがナルザネに加勢したとしても、その劣勢が(くつがえ)るとは。到底思えなかったのだ。


 だったら、アタシらもこの場に残り。ナルザネやイズミと共闘して、四本槍の三人を倒してしまうほうが良いのかもしれない。

 そうアタシの頭が結論を弾き出した──瞬間だった。


「我らに構うことはないっ! 先に進めっアズリアよ!」


 そう叫んだのは、老武侠(ブライ)の白塗りの槍を受け止め、競り合いを続けていたナルザネだった。


「……心配は無用だ。アズリア、お(ぬし)に敗れたとはいえ、(ワシ)も四本槍と呼ばれた武侠(モムノフ)。みすみす散りはせん」

「ぐっ……ふざ、けるなあ、裏切り者があああ!」


 怒りで顔を真っ赤にした老武侠(ブライ)は、(あご)から伸びた白髭(しろひげ)を振り乱しながら。何度も何度も、ナルザネに槍先を放つ。


 横からの薙ぎ払い。

 胴の急所を狙った鋭い突き。

 真上から頭を割ろうとする振り下ろし。

 果ては、槍の柄による打撃を混ぜて。


 息をも()かせぬ怒涛(どとう)の攻勢に晒されたナルザネだったが。

 フブキ救出の際に刃を交えたあの時とはまるで別人のような防御で、老武侠(ブライ)の放った槍撃を全て捌き、凌いでいく。


「急げ、アズリアよ。我らが三人を抑えられている内に、三の門へ」

 

 今の白槍(ブライ)黒槍(ナルザネ)との攻防を見たアタシは、一対一であれば問題なく戦場を任せられるのだが。

 四本槍はあと二人残っている。

 先程、アタシが落馬に追い込んだ隻眼の武侠(ジンライ)と、恐るべき巨躯(きょく)を持つ巨人族(ショウキ)の今の状況を確認するため。


 視線を移そうとしたその時だった。


「そうだ! ここは我らに任せよっ!」


 一度は隻眼の武侠(ジンライ)に遅れを取り、後方へと退()がっていたアカメ領主・レンガも。再び武器を構えて前進してくる。

 しかも。ただの意地を張った行動、というわけでは決してなかったようで。アカメ単騎で、ではなく数騎の騎兵を一緒に引き連れて。体勢を整えつつあったジンライへと突撃を仕掛ける。


 馬と本人、どちらもまだ健在とはいえ。レンガらの突撃までに馬に(また)がるには時間が不足しているのを悟った隻眼の武侠(ジンライ)は。


「ははっ、一人では俺に敵わないと知って、複数で取り囲むとはな。アカメ領主ともあろう武侠(モムノフ)が、聞いて(あき)れるわ」


 と、正々堂々とした一対一の対決に持ち込もうと、レンガに挑発的な言葉を投げ掛ける。

 言葉に少しでも耳を貸して、突撃を躊躇(ちゅうちょ)し。時間を稼げれば、再び馬へと(また)がり体勢を整えることが出来るが。


「何度でも言え。今の我らの役割は、ナルザネ殿(どの)が見込んだあの者らを先に行かせることぞ!」

「……ぐっ!」


 ジンライの動揺を誘う作戦は見事に空振り、レンガと他の三騎は武器を抜いて。

 かろうじて槍を構える姿勢を取ったジンライに対し、対象(ジンライ)の横を走り抜けながらの馬上からの一撃を連続して浴びせていった。


 ──その一方で。


「四本槍は我らが生命に代えても、此処(ここ)で阻止してみせます……構えっ!」


 そうイズミが合図を出すと、騎兵の数名が背中から小型の弓を取り出し、実に慣れた手つきで素早く矢を(つが)える。


 そもそも弓とは。片手で弓を握り、もう片手で(つる)を引き、(つが)えた矢を持たなければならず。手綱(たづな)を掴む手と合わせれば、腕が一本足りないため。

 大陸では、馬に乗る騎士が弓矢を用いるなどといった戦術は広まってはおらず。馬の扱いに長けた一部の国の中に、馬上で弓矢を用いることがある……程度だ。


 イズミの合図で弓を構えた武侠(モムノフ)らは。大陸の人間であればまず考えられない事を、あっさりとやってのけ。

 ヘイゼルとユーノの連続射撃で武器を失い、片膝を突いていた巨人(ショウキ)へと容赦なく放つ。


「ぐっ……こ、小癪(こしゃく)なっ!」


 手にした(ぶき)こそ、ヘイゼルの単発銃(マスケット)で粉砕されはしたが。装着した鎧まで破壊されたわけではない。

 並の人間であれば大楯(タワーシールド)扱いとなる厚い装甲板を張り付けた両の腕を、身体の前で交差させ。飛来してきた矢から身を守るショウキ。


 一の門で守備隊が見せた、強靭(きょうじん)極まる鉄製の(つる)の弓から飛ばされた、地面に半分ほど突き刺さる威力の鉄矢(てっし)とは違い。

 イズミらが小型の弓から放ったのは、何の変哲(へんてつ)もない矢。

 巨人(ショウキ)の腕の装甲を貫通することは出来ず、全て防がれてしまったが。


「防御されるのは折り込み済みっ! だがこれで……アズリア殿(どの)からこちらへ注意を()くことが出来るっ!」


 確かにイズミの言う通りだ。片膝を突いたままの体勢で両手を交差させ、防御に徹している間は矢を防ぐのは簡単だろうが。

 逆を言えば、少しでも体勢を変え、防御の姿勢を崩せば。通常の二人分はあろうかというショウキの巨軀(きょく)だ。立ち上がってしまえば、鎧を纏っていない箇所を狙うのもまた容易(ようい)になってしまう。

 つまり、足止めとしての作戦は見事に成功していた。


「ぐ……ううっ……や、槍さえ健在であればっ……」


 咄嗟(とっさ)に弓矢で足止めをした、イズミの判断が劇的な成果を見せていたのは。やはり初撃にヘイゼルが放った単発銃(マスケット)の鉄球で、ショウキの槍を破壊した事が大きかった。

 何しろ、二の門に到着したアタシが最初に見たのは。ショウキの巨大な槍の一振りで、こちらの数騎が吹き飛ばされた光景だったからだ。


「この場はっ──」

「四本槍はっ──」

 

 四本槍と互角以上に張り合い、門を通過するアタシの邪魔をさせないよう抑えているナルザネ。それにイズミやレンガといった武侠(モムノフ)らが合図をしたかのように声を揃え。


『ここは我らに任せて……先に行ってくれっっ‼︎‼︎』


 武侠(モムノフ)らの叫びを聞いたアタシは、一度は加勢をしようとしたのを恥ずかしく思い。

 鼻の頭をぽりぽりと指で掻いていた。


「……参ったよ。どうやらアタシの見込みが間違ってたみたいだ、ねぇ」


 最初、アタシは四本槍が一人、隻眼の武侠(ジンライ)と刃を交え、相手の実力の程を知って。イズミらでは勝てない、と一度は結論を出したが。

 どうやら四本槍の三人を見事に抑え込み、足止めに成功した戦況を見るに。ナルザネとイズミら援軍の実力を過小評価したアタシの判断は、早急が過ぎていた、と言わざるを得ない。


 アタシは、実力と判断力を(あなど)ってしまった非礼を()びるつもりで軽く頭を下げた、と同時に。

 彼らの尽力を無駄にしてはいけないと思い。

 

「ユーノ! ヘイゼルッ! 先を急ぐよッ!」


 アタシと同様に、この場に残って加勢するか、それともナルザネが開いてくれた二の門を通過するかを決めあぐねていた二人の名前を呼び。

 開いた扉の先を指差してみせた。

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