表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1207/1771

125話 アズリア、ナルザネの意図を知る

 徐々に門が内側へと開いていく異常事態に。

 慌てて四本槍の一人である巨人族(ギガス)が、その巨躯(きょく)()って。開く左右の扉、その隙間に手を突っ込み、閉じようと試みるが。


「ぐ……う、おっっ、だ、駄目だ、と、止まらぬっ!」


 どうやら扉の向こう側から、ナルザネの協力者がただ人力で開いているのではないのか。

 巨人族(ギガス)膂力(りょりょく)をしても、一度開き始めた扉を止めることは出来ず。

 

 アタシらがただ呆然(ぼうぜん)を見ている目の前で、完全に二の門が開き終えると。


「どういうコトか……聞いても、イイよね?」


 アタシの視線を受け止めたナルザネが、謝罪の言葉とともに頭を下げてくる。


「アズリア、それにフブキ様。(ワシ)に出来るのはこの門を通すことくらいだ……済まぬ」

「いや。それは分かったんだが──」


 どうやら先程の片手を上げた動作は、本当に門を開けさせる合図だったようだ。

 ナルザネは「済まない」と頭を下げたが。正直、ジンライや後ろに控えた巨人族(ギガス)の実力を見るに。イズミら援軍よりも格上なのは、一目(いちもく)瞭然(りょうぜん)だ。

 アタシやユーノ、ヘイゼルが参戦し、乱戦が始まってしまえば。実力の劣る騎馬隊の被害が大きくなるのは避けられない……だろう。

 戦闘が避けられ、無傷のまま二の門を通過出来るのだから。ナルザネの行動は感謝こそすれ、謝られる心当たりなど微塵(みじん)もない。

 

「一つ……聞かせておくれよ」


 だが、それならば。

 息子(イズミ)がいたにもかかわらず、敵の陣営に立って傍観(ぼうかん)していたナルザネが。何故にアタシの顔を見た途端に、門を開ける判断をしたのか。


「じゃあ何で、子供(イズミ)を邪魔するような真似をしたんだい?」


 すると、ナルザネの視線が一瞬。アタシの背中の向こう側にいる息子(イズミ)へと向けられ。続けて目を伏せて、首を左右へと振り。


(ワシ)とて、人の親だ。自分の息子をむざむざと死地に歩ます真似など、したくはない……と、いうことだ」

「なるほど……ねぇ」


 そう話しながらナルザネは、門が開き切った先へと目線を向けた。

 つまりは、二の門の先……三の門には。ジンライら四本槍の実力を超える戦力が待ち受けている、と黙して目線のみで語ってみせる。


 それに、ナルザネが父親として息子(イズミ)を思い()る心情は。

 魔竜(オロチ)との戦闘で、放置すれば致命傷となる深傷(ふかで)を負ったイズミの治療を。敵であるアタシに躊躇(ためら)いなく嘆願(たんがん)してきた事からも、痛い程に理解していた。


「で。そんな強敵に息子(イズミ)をぶつけるのが嫌だから、アタシを当たらせよう……てワケかい?」


 どうやら先程のナルザネの謝罪の言葉は。

 二の門しか開けられなかった不甲斐なさに対して、ではなく。

 三の門に控える強敵をアタシに相手にさせる、という心苦しさから頭を下げてきたということか。


 だが。ナルザネの思惑(おもわく)はどうであれ、どうせ三の門を突破するならば対峙しなくてはならない相手でもある。


「まあ、そういうコトなら。遠慮なく──」


 後ろにフブキを乗せた状態の(シュテン)の歩を進ませて、二の門を潜ろうとしたアタシだったが。

 

「こ、此処(ここ)より先には進ませんぞっ!」


 今まで会話の外に置かれていた、四本槍の一人の白()くめの老武侠(モムノフ)が。

 突然の仲間(ナルザネ)の裏切りをようやく頭が理解したのか、怒鳴(どな)り声にも似た大声を発すると。

 白塗りの長槍(ロングスピア)を振り上げ、(あご)から伸びる長い白髭(しろひげ)(なび)かせ。アタシ……ではなくナルザネへと迫る。


「な、ナルザネよっ、き、貴様、正気かっっっ!」


 二の門を防衛する、という役割を放棄しただけではなく。みすみす侵入者へと門を開いてみせる、という(ゆる)(がた)い行動に。

 白()くめの老武侠(モムノフ)──「白槍」のブライは怒りを(あら)わに、二つ名でもある白塗りの槍をナルザネの頭へと振り下ろすも。


 間一髪のところで、ナルザネは得物(えもの)である黒塗りの長槍(ロングスピア)を両手で掲げ。殺意が込もる老武侠(ブライ)の槍を受け止めた。


「ざっ、残念だが……ブライ殿(どの)(ワシ)はいたって正気だ……っ!」

「ならば、何故我々を裏切り門を通したっ? 言えっナルザネっっ!」


 白槍(ブライ)黒槍(ナルザネ)が激突し。その度に老武侠は裏切りの理由を元は四本槍だった男へと問い掛けるも。

 ナルザネは語らず黙したまま、怒りに任せた攻撃を防戦一方で凌いでいた。


 一方で、後方に控えていた四本槍は最後の一人となる巨人族(ギガス)が、足音を鳴らしながら動き出し。


「門は、このショウキが通さぬぞおっっ!」

 

 アタシが門を通過するよりも先に、入り口へと立ち塞がり。自分の巨体を()ってこちらの突破を阻止しようとするが。

 先程から黙って見ていたのは、四本槍だけではない。

 アタシがその実力を認めている、獣人族(ビースト)の少女と元海賊の女頭領もまた、後ろで飛び出す好機を狙っていた。


「はっ、邪魔すんじゃないよこの巨体(デカブツ)がっ!」

「お姉ちゃんのじゃま、すんなあああぁぁっっ!」


 友軍の騎馬隊の並びを割って飛び出してきたヘイゼルの騎乗する馬と、獣人族(ビースト)ならではの脚力で騎馬隊の頭上から跳躍したユーノ。

 ショウキと名乗った巨人族(ギガス)へ、打ち合わせていたのかほぼ同時に。

 黒鉄(くろがね)籠手(ガンドレッド)からは指を一本と、握っていた単発銃(マスケット)の炸裂音が鳴り響き。

 

「飛び道具か! だが……見えるぞその軌道っ!」


 同時に放ったものの、先に巨人(ショウキ)へと到達したのはヘイゼルの単発銃(マスケット)の鉄球だったが。

 軌道を見切った、という言葉の通り。巨人(ショウキ)は握っていた巨大な槍を振るい、自分へと迫る鉄球を撃ち落とそうとする。


 見事、単発銃(マスケット)の鉄球を捉えた槍だったが。

 激しい衝突音と、火花が散った次の瞬間。

 

「な……な、んだ、とおっっ⁉︎」


 ショウキが握っていた巨大な槍が、鉄球と衝突した箇所から粉々に砕け散る。

 一方で、槍を粉砕する威力を発揮したことで。鉄球の勢いは完全に減衰(げんすい)し、地面へと落下してしまったが。


 鉄球の軌道のすぐ後ろを、到達が遅れたユーノの放った「黒鉄の礫(アイアンバレル)」の指が飛来し。

 たった今、防ぐ手段を失ったショウキの無防備な腹部に直撃する。


「がっ⁉︎……ぐ、おぉぉっっ?」


 ユーノの籠手(ガンドレッド)の指が、ショウキの腹に深く()り込み。

 苦痛に顔を(ゆが)め、痛みに耐えるために歯を食い縛るも。片膝を突いて、折れた槍を支えにすることで何とか倒れるのを耐えてはいたが。

 当初の目的であった、アタシの突破を邪魔するための二の門の前への移動は叶わず。


 先程、アタシと刃を交え、落馬したジンライはというと。

 地面に激突した衝撃から解放されたのか、ようやく身体を起こし。こちらも片膝を突いた体勢で。


「う……ぐ、ま、待て、女っ……俺との勝敗は、まだ決してはおらぬ、ぞ……っ」


 落馬へと追い込んだアタシへと、激しい敵意を秘めた視線を向け睨んでくるが。

 その隻眼の武侠(ジンライ)が、体勢を整えるまでにはまだ若干の余裕がある。


 だから、アタシは悩んでいた。

 このまま二の門を突破してしまうか。


 それとも。白槍(ブライ)隻眼(ジンライ)巨人(ショウキ)の四本槍の三人をここで倒していくか、(いな)か──を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者のモチベーションに繋がるので。

続きが気になる人はこの作品への

☆評価や ブクマ登録を 是非よろしくお願いします。

皆様の応援の積み重ねが欲しいのです。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ