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124話 アズリア、隻眼の武侠との決着

 見れば、息を切らしたからか。隻眼の武侠(ジンライ)の顔には疲労色濃く浮かんでいた。

 攻勢に転じるのは、まだ余力を残している今が好機と睨んだアタシは。


「──ここだッ!」


 ジンライが一直線に急所の胸を突いてくる、だが明らかに初撃から速度が落ちた槍先を。

 今までのようにただ撃ち払うのではなく、幅広の大剣の腹で真後ろへと力任せに押し返す。


「ゔ!……ぬっ、うおおおおおっ⁉︎」


 十回以上続いた単調な武器の競り合いから、突然防御に変化をつけたのに対応が間に合わなかった隻眼の武侠(ジンライ)は。

 馬上という脚に踏ん張りの利かない場所にいたこともあり。一瞬、力負けをして長槍(ロングスピア)を大きく真上へと弾かれてしまい。

 両手に握った武器こそ落とさなかったものの、両腕を大きく広げ、大きな隙を作ってしまう。


 出来た一瞬の隙を見逃がすアタシではない。


 ジンライの槍を、幅広の剣の腹で防御した構えは。同時に刺突を繰り出すための構えへの予備動作でもあった。

 一気に攻勢に転じたアタシは、無防備となったジンライの胴体目掛け。素早く刺突の構えを取ると、(シュテン)との息を合わせて前へと突進する。


「し、しまっ──」


 後は、このままアタシが大剣の切先を突き出せば、無防備な隻眼の武侠(ジンライ)の厚い胸板を貫けた。

 まさに、その瞬間だった。


『その剣を下ろしてくれ! アズリアよ!』


 アタシの剣を鈍らせたのは、攻撃を制する声だった。

 しかもその声はヘイゼルやユーノでも、カガリ家の事情を知るフブキが発した声や。ましてやイズミが率いてきた援軍の誰かが発したのでもなく。

 二の門の前に立ち塞がる、残り三人から発せられた。言わば仲間の助命を嘆願(たんがん)する言葉だったのだ。


 ある理由から。

 アタシは思わず、大剣の切先を下げる。


 だが、繰り出そうとした刺突を止められたとしても。走り出した(シュテン)の脚は、急には停止出来ない。

 しかも、アタシが刺突を止めたことで。体勢を崩し隙を作った隻眼の武侠(ジンライ)は、早速その体勢を整えつつあった。

 

「──ちぃッ!」


 だからアタシは、馬の突進に合わせ。体勢を立て直していたジンライの首元へとすれ違いざまに。

 一度は引っ込めた大剣を逆さに構えると。剣先で、ではなく握っていた剣の(つか)の底の部分を打ち込んでいく。

 一度は仲間の声に助けられる形となった隻眼の武侠(ジンライ)は。大剣を下げたアタシに対し、再び攻勢に回ろうと槍を構えようとするが。


「ぐ……が、は、っっ……っ!」


 アタシの攻撃が届くのが一瞬早かったようで。剣の(つか)による打撃が、ジンライの首元を直撃する。

 今の一撃で、整えかけていた息が再び途切れ。

 打撃による衝撃で、馬上にて大きく怯んたのも(わざわ)いし。


「う、う……おおぉぉぉっっ⁉︎」


 何とか馬上に残ろうと身体の均衡を取ろうと踏ん張ろうとするが、最早(もはや)崩れた身体を立て直すのは無理だったようで。

 隻眼の武侠(ジンライ)が叫び声を上げながら、乗っていた馬から落ち。背中から地面へと盛大に叩き付けられる。


「──ぐ、へっ!」


 本来ならば。落馬こそしたものの、まだ生命はある(ジンライ)から目線を切る真似などはしないアタシだったが。

 今回ばかりは、二の門の前に立っていた四本槍を名乗った残りの三人へと向けられていた。


 というのも。


 先程、隻眼の武侠(ジンライ)の大きな隙を突いてアタシが放った必殺の一撃を制した、あの声(・・・)

 あの時、アタシが言葉通りに攻撃を止めたか……というのは。言葉の内容よりも、何故か耳に届いた声に聞き覚えがあったからだ。

 

「まさか、そんなトコにいたとはねぇ……ナルザネ」


 ナルザネとは。

 四つの都市の領主に働きかけ、一の門を突破しようとしたアタシらの援護に駆け付けた騎馬隊を率いていた若き武侠(モムノフ)・イズミの父親であり。

 以前には。フブキを救出する際には敵味方に分かれて剣と槍を交え死闘を繰り広げ。また魔竜(オロチ)の首に対しては共闘した人物でもある。

 しかも。この国(ヤマタイ)を訪れてから、アタシと剣を交えた武侠(モムノフ)の中では唯一、生存している相手だったりもする。


 一緒に行動したのは、たった二日ほどの短い間だが。アタシの頭に印象を色濃く残している、ナルザネという人物。

 その声を、よもや忘れるだろう筈がない。


「ならば。(これ)はもう必要がないな」


 三人のうち、巨人族(ギガス)でも白尽()くめの防具に身を固めた老齢の武侠(モムノフ)でもなく。  

 黒塗りの長槍(ロングスピア)を構え、(かぶと)で顔が隠れていた残りの一人が。アタシの呼び掛けに反応するように、頭を覆う(かぶと)を脱いで、正体を明らかにしていく。

 

「ち、父上っ? な、何故ジャトラ側にっっ!」


 (かぶと)の下から現れた、ジャトラの顔を見て。

 アタシよりも先に大きな声を上げ、騎馬隊の中から飛び出てきたのは、息子であるイズミだった。

 

 アタシらと別れてから、近隣の都市の領主の説得に時間を費やし。当主の座を強奪したジャトラに叛旗(はんき)(ひるがえ)す選択をしたイズミからすれば。

 自分とは真逆に、ジャトラの下へと戻る選択をした父親(ナルザネ)に物申したい気持ちは理解出来るが。


「何とか、答えて下さいっ! 父上っっ!」

「……どうしても、やらなければならない事があった。それだけだ」

「その『やらなければならない事』とは、私と一緒では駄目だったのですかっ?」

「……」


 どうやら、ナルザネとイズミ。親子二人の問答(もんどう)は横で聞いていても、解決の(きざ)しは全く見えそうにない。

 ついには、ナルザネはイズミに何を聞かれても無言のまま、首を左右に振るのみに終始し。

 話をしている息子(イズミ)、ではなく。アタシへと何かを訴えるような視線を向けてくる。


「なるほど……ねぇ」


 アタシの眼には、人の心の内を読み取る能力などないが。(ナルザネ)の視線からは、アタシが二の門に到達するのを待ち焦がれているように感じられた。

 それでもナルザネの眼の中には。悔しさや憎しみといった、アタシらとの再戦を望む気持ちはまるで見えず。

 (むし)ろその逆。こちらを凝視す(ジッとみつめ)るナルザネは何かを決意し、覚悟を決めたようにも思えたアタシは。


退()きな、イズミ」

「あ……アズリア、殿(どの)っ?」


 父親(ナルザネ)を強い口調で問い詰めていたイズミを、アタシは伸ばした腕で制しながら、後ろに退()がっているよう指示を出し。

 先程から、何かをアタシに言いたそうに視線を向けたナルザネへと向き直る。


「アタシを、待ってたんだろ?」

「ああ、フブキ様の計画を聞いていたからな。アズリア、お前が来るのを待っていた」


 アタシと言葉を交わしたナルザネは突然、片手を高く掲げていくと。

 それを合図にガコン!と何かが外れたような大きな音が、二の門の裏側から響き渡り。城門を閉ざしていた巨大な木製の扉から、(きし)む音が鳴り出していくと。

 異変に驚きを見せたのは、他の四本槍だった。


「な? も、門が開く、だとっ!」

「……だ、誰が勝手に門を開けているっ?」


 そう。

 先程の大きく鳴り響いた音や(きし)みといった異変は、閉まっていた二の門がゆっくりと開いていた音だったのだ。

 

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