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123話 アズリア、隻眼の武侠との対決

 相手を(ののし)る言葉を発しながら突撃するレンガに対し、冷たい視線を向けるジンライ。


「ふぅ……勝てず、と分かってなお、向かってくるか」


 やれやれ、という表情を浮かべた隻眼の武侠(ジンライ)は。迎撃のために持っていた長槍(ロングスピア)を片手で構え。

 騎乗していた馬の腹を蹴り、今までは待ち構えていた姿勢から初めて前に出ると。


「うおおおおっっ──」

「それは、勇気とは違う。無謀と言うのだ!」


 レンガが頭上へと構えた曲刀を振り下ろすよりも早く、隻眼の武侠(ジンライ)が繰り出した鋭い槍の刺突が武器を握る利き腕の肩に直撃した。

 先程と同じく、槍刃の付いてない石突(いしづき)で。


「ぐ⁉︎……うおおっっ?」


 刃のない石突(いしづき)による強烈な打撃を肩に受け、レンガは痛みと衝撃から握っていた曲刀を手放してしまう。

 一方でジンライは、無防備となったレンガの肩を弾いた勢いを活かし。両手で槍を(たく)みに振り回して、今度は動きの止まったレンガの胸を斬り裂こうとしていた。

 

 先端の軽い石突(いしづき)で、相手よりも早く攻撃を命中させ、相手の攻撃を無効化し。

 続く二撃目が本命だというわけか。

 もし、最初に腕を狙った初撃を刃の付いた槍先で放っていた場合。ジンライの槍が腕に命中するより先に、レンガが振り下ろす曲刀の一撃が先に届いていただろうし。

 槍が先に届いたとしても。鋭い槍の刃がレンガの腕に突き刺さってしまえば、二撃目に繋げることは出来なかっただろう。


「これで、終わりだ」


 隻眼の武侠(ジンライ)が放った槍刃が、眼前にまで迫るレンガだったが。

 肩を打たれた時の衝撃が、腕だけでなく全身にまで及び、痺れて身体が動かなかったのと。攻撃のために馬を走らせてしまっていたからか。

 回避はおろか、武器を手放していたために防御も選べず。迫る(はがね)に成す(すべ)もなく、ただ刃が胸に喰い込む瞬間を待つしかなかった。


「ぐ、っ……む、無念である……っ」


 死、を覚悟したレンガは歯を食い縛り、目を閉じた。

 ──だが。


「……シュテンッッ‼︎」


 前に立つ騎馬隊を退()かしていたのでは、間に合わない……と(シュテン)も理解したのだろう。

 こちらの合図に応えるように、大きな(いなな)き声を鳴らしながら。背にアタシとフブキを乗せたまま大きく跳躍し、騎兵らの頭上を跳び越えていくと。

 アタシの考えを理解したかのように、レンガとジンライとの一騎討ちの場に。稲妻(いなずま)のごとき速度で割り込んでいく駿馬(シュテン)


()らせるかよおッッ!」

「ぬおっ? ぐ……ぬううぅぅっ!」


 隻眼の武侠(ジンライ)の反撃の二撃目が、レンガの胸を深々と斬り裂くよりも早く。

 戦場に割り込んだアタシの大剣が、横薙ぎに放たれたジンライの槍先をどうにか受け止める事が出来た。


「は、ははッ……何とか間に合ったよ……ッ!」


 また一人、友軍の犠牲者を増やさせるわけにはいかないと無我夢中で飛び出した時は。救援が間に合うかどうか定かではない状況だったが。

 レンガの胸を斬り裂かれるより前に槍を受け止められたことに。アタシはジンライと武器を競り合わせながら、安堵(あんど)の息を吐く。


 対照的に、アタシが握る大剣で長槍(ロングスピア)を止められた隻眼の武侠(ジンライ)はというと。

 決定打を邪魔された以上の(いきどお)りを、攻撃を止めるアタシへと向けてくる。

 

「貴様っ……誇りある一騎討ちに割り込んでくるとは……っ!」

「はは、残念……だねぇ。アタシゃ、武侠(モムノフ)でもなきゃ、この国(ヤマタイ)の人間でもないんで、ねぇ……ッ!」


 大陸でも、名のある傭兵や騎士が行う一騎討ちに割って入る行為は。一騎討ちを行う二人の名誉に泥を塗るとされ、決して褒められた行動ではない。

 ましてや。この国(ヤマタイ)武侠(モムノフ)が、大陸の騎士や傭兵以上に一対一の勝負に(こだわ)りを持っているのは。アタシがこの国(ヤマタイ)に来てから、幾度(いくど)となく思い知った事だ。

 だから隻眼の武侠(ジンライ)が、一騎討ちを邪魔したアタシへと苛立ちを(あら)わにする心情は痛い程に理解出来る……のだが。


「……はあッ!」

「ぐ、おおっっ⁉︎」


 この国(ヤマタイ)の事情、そして敵であるジャトラ側の武侠(モムノフ)の心情などアタシには知ったことではない。


 しかも、右眼の魔術文(ルーン)字を発動していない状態とはいえ。アタシの腕の力は一般的な男を凌駕(りょうが)する筈なのに。

 アタシは片手で大剣を、隻眼の武侠(ジンライ)は両手で槍を握っていた違いこそあったが。それでもほぼ互角の武器の競り合いだったのには驚いたが。


「そんなモンかい? なら……ッ!」


 アタシは大剣を握る腕に力を込めると、ジンライの槍先を力で押し返し、弾き飛ばして体勢を崩していったが。


「やるなっ、余所者(よそもの)……だがっ!」


 騎乗していた馬を(たく)みに操ることで、何とか馬上からの転倒を(まぬが)れた隻眼の武侠(ジンライ)は。

 アタシ……ではなく。乗っていた(シュテン)を狙い、小さな予備動作から刺突を放つ。

 なるほど。金属製の鎧を身に纏うアタシなら、装甲で弾ける程度の弱い攻撃でも。鎧を着ていない馬なら、十分に傷を負わす事が可能だからだ。

 そして馬の負傷を避けようとするアタシに、一旦距離を空けさせ、仕切り直しをするのが。おそらくはジンライの攻撃の本当の目的なのだろう。


「そんな小賢しい手を使わなくても、仕切り直しくらいしてやるッてえ……のッ!」


 アタシは、騎乗する(シュテン)を狙い放たれた槍先を、大剣で撃ち払いながら。

 ジンライの目論見(もくろみ)通りに、少しばかり(シュテン)の位置を後ろへと下がらせると同時に。


「武器も持たず何やってんだい、一旦、退()がりなッ!」


 一騎討ちをアタシに取って変わられ、生命を救われたのにまだ武器も拾わず、呆然(ぼうぜん)とその場に立ち尽くしていたレンガに対し。

 アタシは、後退するように大声で指示を出す。


「だ、だが……しかしっ」


 当然ながら、事情も分からずに突然横から現れて、一騎討ちに乱入してきたアタシの言葉を。都市の領主である人物にすぐに理解しろ、というのが無理な要求であった。

 レンガは困惑した様子で、遠巻きに待機していた騎兵らの元に戻らず。その場に立ち尽くしたままだったが。

 武器を拾い、こちらに参戦する選択はないようなので。とりあえずは放置しておくことにした。


 それよりも、である。


「こっちに集中しないと、ねぇッ!」


 アタシが隻眼の武侠(ジンライ)に視線を戻すと、既に崩れた体勢を立て直し終えており。

 長槍(ロングスピア)を構える姿勢を見せると、初めて自分から攻勢に打って出てきたのだ。


余所見(よそみ)をしている余裕が、この四本槍が一人、ジンライとの戦いの最中にあるとはな、舐められたものだっ!」


 構えた体勢から繰り出されるのは、鋭い刺突の連続攻撃だった。

 槍という武器が恐ろしいのは。一度、体勢と間合いが合致した時には、余程の体勢を崩さない限りは。同じ構えを維持したまま、二撃、三撃と連続しての刺突が可能だからだ。熟練した槍の使い手なら、十を超える連撃も可能と聞く。


 防戦一方では、隻眼の武侠(ジンライ)の連続攻撃がいつ止むかを期待する前に。何度、彼の槍を浴びるか分からない──ならば。


「舐めてなんかいるモノかいッ!」


 アタシは負けじと、こちら目掛けて放たれた鋭い槍先へと。大剣を振るって槍を撃ち払っていく。


 素早く大剣を扱わなければ、槍先を弾くことは出来ないが。手数を重視して一撃一撃に込める力を緩めれば、逆に降り注ぐ槍刃に押され、アタシが体勢を崩してしまうし。

 槍先を大きく撃ち払って、相手(ジンライ)の体勢を崩すことも敵わないからだ。


 大剣と槍先が衝突し合う(たび)、アタシとジンライとの間には激しく火花が散り。衝撃を物語る甲高(かんだか)い金属音が鳴り響く。

 

「い、いい加減ッ、息を切らしてくれない、かねぇ……ッ!」

 

 一振り一振りに、渾身の力を込めて腕を動かす……などと、そう何度も何度も連続で行えば。腕も疲労して動かなくなるし、息も続かなくなるのが道理だ。


「……ちぃッ!」


 急所を逸れた槍は、()えて弾く目標から外す。

 だが、打ち返されないと把握してからジンライは、槍の軌道を無理やり内側へと修正し。

 その内の一撃が、鎧の装甲の薄いアタシの右腕を掠めていった。


 だが、息が続かなくなるのはアタシだけでなく。

 相手である隻眼の武侠(ジンライ)も、例外ではない。


「が……は、あぁっ! や、やりおる……っ‼︎」


 繰り出された槍の刺突が十三度に達したその時、(わず)かだが。槍の速度に(おとろ)えが見えたのだった。

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