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121話 アズリア、二の門を警護する四人

 まだ文句を言っていたヘイゼルだったが、その言葉に混じる雑音をアタシの耳は聞き取り。


「──しッ!」


 まだ何かを言いたそうなヘイゼルの口を手で押さえ、強引に言葉を(さえぎ)っていく。

 見れば、ユーノもまた耳で異変を感じ取ったようで。獣人族(ビースト)の大きな特徴である、頭上の耳の後ろに手を当てていた。

 さすがは鼻や耳の感覚の鋭い獣人族(ビースト)だけはある。

 

「お姉ちゃん、こっち。たたかってるおとがするっ!」


 ユーノが指差した方向は、今まさにアタシらが馬を駆けていた進路の先だ。

 そしておそらくは、喧騒(けんそう)が起きているその位置こそが二の門なのだろう。


「どうやら、イズミらは二の門に到着したみたいだねぇ」

「え?……だって、門の守備隊に途中で待ち伏せされてる可能性もあるじゃない、アズリア?」


 背後のフブキが、戦闘は二の門でではなく、道中の待ち伏せなのかもしれないと言い出す。

 本来ならば、城の構造や城壁に仕込んでいた(わな)を教えてくれた彼女(フブキ)の言葉は重く受け止めるべきだが。


「いや、待ち伏せ(そいつ)は有り得ない、ねぇ」


 アタシは、フブキの忠告を首を左右に振り、否定していく。


 この瞬間まで、進路の途中に二の門を守る武侠(モムノフ)らからの襲撃が一度もなかった事を考えると。一の門と同じく、門の前でアタシらを待ち受けているのだろう。

 そう思ったのは、一の門の守備隊の人員のあまりの多さだ。

 もし、先程ヘイゼルは、この先の門には一の門よりも多くの武侠(モムノフ)が待ち受けている、と口にしていたが。ヘイゼルの言葉通りに二の門、三の門に同等に二〇〇人もの武侠(モムノフ)を揃えられるのだとしたら。

 その半分ほどの武侠(モムノフ)がいれば。十日ほど前に領主を倒されたフルベの街を奪還するために、今頃は部隊を向かわせているだろう。


 つまり、道中に待ち伏せを仕掛ける人員の余裕は防衛側であるジャトラにはもうない、という理由から。

 イズミらが戦闘を開始しているとしたら、二の門以外にはあり得ないと判断したのだ。

 

「皆んなッ! 急いで先頭に合流するよッ!」


 アタシは、ユーノが指し示した方向に馬の首を向けると。速度を抑えるため引いていた手綱(たづな)を緩め、後ろに騎乗していたフブキに目線で合図を送る。 

 急に馬の脚を早めたことで、振り落とされないようにするための配慮(はいりょ)だったが。


「ええ、いいわ」「うんっ!」


 何故かフブキだけでなく、ユーノまでが返答したのだ。

 アタシに返事をした後、二人は互いに顔を見合わせる。


「……ん?」「……えっ?」


 二人が困惑するのも無理はない。確かにアタシは背中越しにフブキに合図を送りはしたが。直前の掛け声は、非戦闘員であるフブキにではなくユーノやヘイゼルに向けられた内容だったからだ。


 目を合わせたまま、黙り込むフブキとユーノ。

 だが、こんな時にまで「どちらに」と争う姿勢はどうなのだろうか、と二人の態度に苦笑していると。


「ったく……あたいらの到着まで待てなかったのかね、あの連中は」


 二人の沈黙の理由など知らずに、会話に割って入ってくるヘイゼル。

 ユーノとフブキ、どちらに反応してももう一方が不機嫌になりそうな状況で。割り込んできたヘイゼルの言葉はアタシにとって絶好の助けとなり。


「それだけあの連中もさ、ジャトラって奴が当主の椅子に座ってるのを腹に据え兼ねてるだろうさ」

「……まあ、余所者(よそもの)のあたいらと違ってさ。あの連中にゃあの連中の思惑(おもわく)もあるんだろうけどよ」


 アタシはそう(ぼや)くヘイゼルに言葉を合わせながら。

 ヘイゼルの騎乗する馬と並んで、背後からのフブキの視線と、こっちを見ていたユーノを無視して先を急ぐことにした。


「ま、まってよお、お姉ちゃんっ!」


 アタシに声を掛けられるのを待っていたユーノは、その場に呆然(ぼうぜん)と立ち尽くしていたものの。

 直ぐに我に返り、アタシとヘイゼルを後ろから追いかけてくる。

 まあ……ユーノの脚力であれば、大した時間を要せずにアタシらの馬に追いつき、再び前を走るのは容易(たやす)いだろう。


 今はそれよりも先頭に合流するのが最優先だ。

 

「アタシの予想が間違ってなきゃ──」


 先程アタシが、待ち伏せる程に相手側の人員は足りていない、という判断をしたが。

 その予想が正しいならば、二の門以降に待ち構えているのは。少数ながら精鋭と呼べる実力者を配置するだろうから。


 フルベ領主の屋敷にも、テンザンやササメ、コンジャクといったアタシも苦戦する強敵がいたのだから。カガリ家の本拠地たるシラヌヒには、さらなる腕前の武侠(モムノフ)がいても何らおかしくはない。

 そしてジャトラの配下には、まだ。

 フルベの元領主リィエンをアタシらの視界の外から射殺(いころ)した、凄腕とも言える正体不明の弓兵が控えているのだ……まず間違いなく。


「あっ! お姉ちゃんっ、まえにいるのって」

「ああ。まだ……戦闘は始まってなかったみたいだねぇッ」


 結局、城壁に囲まれた通路を駆けるうち、先を抜かれ先頭を走っていたユーノが大きな声を発したのと同時に。

 アタシの視界の先にも、他勢の騎馬隊の姿を薄っすらと捉えることが出来た。騎乗していた武侠(モムノフ)の特徴的な形状の(かぶと)から、目の前にいる連中はイズミらに間違いなかった。


「ん……じゃあ、さっきの音は一体何だったんだい?」


 だが、門の警護隊との交戦がなかったとすれば。先程アタシやユーノが耳にした戦闘時の喧騒(けんそう)の正体、という疑問が残るが。

 さらにアタシらは先へと進み、前方にいた騎馬隊と合流すると。アタシが抱いていた疑問は直ぐに氷解(ひょうかい)することとなる。


「どれ? あれが、二の門……かい」


 騎馬隊の最後尾から覗いたアタシの視界の先にあったのは、一の門以上に立派で大きな構造の木製の扉が立ち塞がっていたが。

 それよりもアタシの注目を集めたのは。二の門らしき扉の前に、長槍(ロングスピア)を構えて立っていた四人の人物だった。


 いや、正確には。三人と一体(・・)と呼ぶべきか。


 三人の人物とは、イズミらと同じく立派な馬に騎乗した壮年の武侠(モムノフ)に。

 白塗りの長槍(ロングスピア)に白い金属鎧(プレートメイル)(かぶと)を纏った老齢の武侠(モムノフ)

 真っ白な装備とは対照的に。黒塗りに黒い金属鎧(プレートメイル)を纏い、顔を隠している黒尽くめの武侠(モムノフ)

 そして、最後の「一体」はと言うと。

 立ち塞がる二の門を頭一つ越える背丈の巨躯(きょく)……と呼ぶにはあまりにも巨大すぎる体格を持つ、巨人族(ギガス)を思わせる男だった。


「ふ──ううぅぅぅン‼︎」


 人間二人を縦に並べたほどの背丈を誇る巨人(ギガス)が手に持つ、丸太のような巨大な槍を。前面を薙ぎ払うように、猛烈な(うな)りを上げながら大きく振るうと。

 対峙していた数人の騎馬兵は、乗っていた馬ごと暴風のような槍の一撃によって吹き飛ばされてしまう。


「さあ、次に(ワシ)らに挑戦してくる者は誰だっ!」


 そう大きな声を張り上げるのは、白塗りの槍を握る老齢の武侠(モムノフ)

 その足元には、たった今吹き飛ばされた数人の武侠(モムノフ)が血を流し、地に倒れていた。

 (わず)かに身体を震わせてはいるが、一向に身体を起こさない様子から。受けた傷は致命傷に近しい深傷(ふかで)を受けたのだろう。


「何だ、意気地(いくじ)のない……数人倒された程度で臆病風に吹かれたか?」


 白の武侠(モムノフ)の挑発を聞いてなお、友軍の騎馬隊が若干(じゃっかん)怯みを見せる雰囲気の中。

 一人の武侠(モムノフ)がそんな空気を払拭(ふっしょく)しようと馬を走らせ、馬上で武器の曲刀を構えながら名乗りを挙げる。


「お……面白いっ、次は、アカメ領主であるこのレンガが相手となってやろう、四本槍よっ!」


 名乗りを終えたアカメ領主とやらは、構えた曲刀を振り上げながら。

 白一色の装備で身を固めた老武侠(モムノフ)に、勇ましい声を発しながら突撃を敢行(かんこう)した。


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