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117話 アズリア、一の門に挑む

 しばらくの間、重い門をこじ開けようと挑み続けていたユーノと武侠(モムノフ)らだったが。 

 

「はぁ、はぁ……だ、駄目だ……っ、ぜ、全然開く気配も、ねえ……っ!」

「も、もう腕がっ、げ、限界だっ!」


 息と両腕が限界を迎えたようで、武侠(モムノフ)が次々と力尽き、門を押すのを止めていく。

 一方でユーノは、まだ息や腕に余力を残していたものの。一人では門を開くことが出来ないと思ったのか、武侠(モムノフ)らに合わせて門に挑むのを一旦止める。

 

「そりゃまあ……こうなるだろう、ねぇ」


 元来、城門とは。迫り来る多勢の敵の侵入を防ぐために重く閉ざされているものである。

 その門を、たかが十数人の手で押した程度で開きでもしたら、敵の進軍を阻止する役割など到底果たせる筈もない。


 しかも、目の前に立ち塞がる一の門は。カガリ家の本拠地を守るだけあり。木製ながら頑丈な造りをした立派な門だった。

 これだけ立派な巨大な門を突破するには、破城槌(パイルバンカ)衝角(ラム)といった大型の攻城兵器を必要とするのが通常だ。


 アタシは少しばかり期待を込め、イズミが引き連れてきた援軍の騎馬隊に視線を向けるが。

 

「だけど、こっちにゃ攻城兵器なんてご立派なモノ、用意してるわきゃない……よねぇ」


 当然ではあるが。たった四人でシラヌヒまで来たアタシらが、大掛かりな攻城兵器など準備している筈もなく。

 イズミら援軍もまた、門を突破するために攻城兵器を準備してきた様子は残念ながら見ることが出来なかった。


「ようっし。こうなったら……ボクがっ!」


 まだ余力を残していたユーノが、一旦門から距離を取り始めるように後ろへと飛び跳ねていき。

 鉄拳戦態(モード・アイゼルイェーガ)を発動させ両腕に装着していた、巨大な黒鉄(くろがね)の拳を構えていくと。


「みんなっ! ボクのまえからどいてっ!」


 どうやらユーノは、自分の拳で頑丈な門を破壊しようとしていたようだ。

 確かに、ユーノの鉄拳ならば攻城兵器と同じ、いやそれ以上の威力を叩き出す事は可能だろう。

 しかし……拳を構えて、今にも扉へと突撃を開始しようとするユーノを慌てて制止しようと。


「ちょ、ちょっと待ってよユーノっ!」

「──うえっつ⁉︎」


 アタシの横から慌てた様子で飛び出し、ユーノの前に両手を広げて立ち塞がったのは。なんとフブキだった。

 姉マツリとの再会を果たすには、一の門を突破しなければならず。ユーノの拳で門を破壊するのが、一番の方法だと思っていた。


「な、何してるんだいフブキッ?」


 だから、何故フブキが邪魔して割って入ったのか。

 その理由がアタシには見当(けんとう)が付かず、突然の行動にアタシもユーノも驚いてしまうが。

 

「あ、あっ……ご、ご、ごめんなさい……っ」


 アタシら以上に驚いていたのは、飛び出てきたフブキ本人だった。

 拳を握ったユーノの真っ正面に立っていた彼女(フブキ)は、途端に両手を下ろして膝から力が抜けたかのように、その場に座り込んでいった。


 という事は、自分が意図せずユーノの攻撃の邪魔をしたという理屈になる。ならば尚の事、理由を聞き出さずにはいられなかったが。


「で、でもっ……この門は、城を守るために重要な(かなめ)なのっ、それを壊されたりしたらと思ったら……身体が勝手に」


 アタシが訊ねるよりも前に、フブキ本人の口から理由が語られることとなった。


「──なるほど、ねぇ」


 確かに、ユーノが一の門を破壊すればこの場を突破出来るのだろうが。

 代わりにシラヌヒは、防衛のために建造された一の門という防衛の要所を一つ、失ってしまうわけだ。

 マツリが復権するか、ジャトラが勝利するかにかかわらず。


 つまり、である。フブキは自分の目的を果たすよりも、今後のシラヌヒの防衛力を優先したがために。つい、先程のような行動に出てしまった……というわけだ。


「なら、確かに。ユーノやアタシが門をブッ壊して先に進むッて手段は、最後の最後に取っておいたほうが良さげ、だねぇ」


 フブキを回収するために駆け寄ったアタシは、その場に座り込んでいた彼女(フブキ)の腕を掴み、立ち上がらせながら。

 攻撃するかどうかを困惑していたユーノへ開いた手を突き出し、無言ながら攻撃を制止する合図を出す。


「え、でもでもお姉ちゃん? じゃあ、どうするの。このでっかいとびら」


 だが、拳を下ろしたユーノがアタシへと質問をしてきたのは。

 門を強引に開くための破城槌(パイルバンカ)などの攻城兵器もなく、門の破壊まで止められてしまっては。一体どうやって目の前の巨大な門を突破するのか、当然の内容だったが。


「まあ、アタシに任せておきなッ」


 アタシは、まだ足がふらついていたフブキの身体をユーノに預けると。

 質問の返答代わりに、片目の目蓋(まぶた)をパチリと閉じて見せ、歯を見せて笑いながら。


 アタシは肩で腕を回しながら、十数人の武侠(モムノフ)が諦めた一の門へと歩を進めながら。


「さて──と」


 魔術文(ルーン)字を発動させるには、右眼に宿る「筋力増(ウニョー)強」以外には術者であるアタシ自身の血を必要とする。

 先程、ちょうど(ひたい)の横を切っていた筈だと指で傷を負った辺りを触ってみたが。既に血は乾き、傷は塞がっていた。


「あ。さっきフブキに傷を癒やしてもらってたか」


 さすがに傷が塞がるのが早すぎる、と思ったが。

 そう言えば、戦闘の大勢が決し、一度フブキと会話を交わした時に。神聖魔法(セイクリッドワード)に近しい治癒魔法を使われたのを思い出し。


 アタシは(ひたい)の傷から血を(ぬぐ)うのを諦め、普段からのように背負っていた大剣の刃を指で(なぞ)り。

 指の腹に作った小さな傷から滲む血で、新たに右腕に魔術文(ルーン)字を描いていく。

 

 描いたのは、右眼と同じ「筋力増(ウニョー)強」の魔術文(ルーン)字。


「さて、と。一体、どのくらいの力を見せてくれるか……楽しみだねぇ」


 これからアタシが使おうとしているのは、本来ならば一度に発動出来るのは一種類の魔術文(ルーン)字、という原則(ルール)を無視し。

 二種類の魔術文(ルーン)字の効果を同時に発揮する、二重発動(デュアルルーン)という方法だ。


 先程の門の警護隊との戦闘で、アタシは金属鎧(プレートメイル)を着込んだいた武侠(モムノフ)らの胴体を数人まとめて両断していた。

 今までにも右眼の魔術文(ルーン)字を発動し、鉄製の鎧ごと斬り裂く真似は何度もしてきたが。その(たび)に、剣を握る手や指には衝撃による痺れが残っていた。

 だが今回、手に伝わってきた感触は今まで硬い物に衝突した衝撃や痺れなど一切無く。まるで肉を斬るのと同じ感触で、敵武侠(モムノフ)の胴体を両断したことに驚きを隠せなかった。


 アタシは門の前に立つと。右腕に刻んだ魔術文(ルーン)字を発動するための決められた言葉、(すなわ)力ある言葉(ワード)(つぶや)くと。


「我に巨人の腕と翼を──wunjo(ウニョー)

 

 力ある言葉(ワード)に反応した血文字は真っ赤に輝き始め、アタシの全身に沸き立つ溶岩のように熱い魔力を巡らせていく。


 膂力(りょりょく)が増加した理由、それは……フルベに到着してからの魔力の過剰な消耗と、連続した戦闘だろうとアタシは推察している。

 しかし、どれだけ自分の力が増しているのか。結局この(たび)の戦闘では、その底を(はか)り切る事は出来ず終いだったが。


 アタシの右眼を発動させた時と同等の腕力を誇るユーノに、十数人の男らも加わってなお開けることが出来なかった。

 この、一の門ならば。


「これだけのデカい門だ。アタシの全力を受け止めるにゃ、丁度イイ大きさじゃないか……」


 両開きとなっていた一の門、左右それぞれの扉に手を置いたアタシは。

 右眼の魔術文(ルーン)字も同時に発動していくと。


「──ねえぇッッ‼︎」


 二つの魔術文(ルーン)字から魔力が流れ込み、まるで自分の腕が一回り程太くなった感覚。

 いや増した腕力を()って堅く閉ざされた門をただ一人で開こうと、アタシは力を込める。

 

 

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