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110話 アズリア、増援の正体とは

 アタシは、援軍が来ると思われる城下街の方角に視線を向けると。苦々(にがにが)しく(まゆ)をしかめ、歯を噛み締める。


「……く、ッ」


 首筋に嫌な感じの汗が滲む。

 迫る馬の(ひづめ)の音から、再び城下街からやって来るのは騎馬隊だ。

 第一陣の攻勢を(しの)いで、今ちょうど反撃の時だというのに。さらに騎馬隊が戦線に参加すれば戦況は再び敵側に有利に(かたむ)いてしまう。


「ん?……あの連中、アタシが見えてないのかい?」


 だが、現れた騎馬隊の様子がおかしい。


 街から駆けてきた新たな援軍の騎馬隊らは、敵であるアタシに、ではなく。

 本来は友軍である最初の援軍と、門を警護している武侠(モムノフ)の軍勢への二つへ分かれ。馬を走らせていったのだから。

 

「ま、待てっ? 敵は向こうぞ! こちらではない……ま、待てえっ!」


 状況が読めずに困惑するアタシだったが、それ以上に第一陣の生き残りの騎兵らは現れた援軍の動きに動揺し。必死になって大声を上げ、侵入者であるアタシを指差して誘導していくが。

 先頭を駆ける馬上の武侠(モムノフ)が、手に持つ槍の先端を向けたのは……大声を出した武侠(モムノフ)に、であった。


「残念だが……我らリュウアンの兵は最早(もはや)、ジャトラの命令を聞く配下ではないっっ!」

「なっ?……こ、こんな時に、ほ、本気か貴様らっ⁉︎」


 新たな援軍かと思われた「リュウアン」を名乗る騎馬兵は、カガリ家の当主の座に()いていたジャトラに明確な敵対する意思を高らかに宣言すると。

 向けた槍の先端を、突然の叛逆(はんぎゃく)に驚き動揺を隠せない様子の騎兵へと放っていく。


「ぬ、ぐおおっっ!」


 馬の速度を乗せた槍の一撃は、まともに受ければ右眼の魔力を使ってなお、防御に徹してようやく(しの)いだ程の威力だ。

 動きを止め、かつ動揺した状態で受け切れる筈もなく。

 振り下ろされた槍先が、馬上の武侠(モムノフ)咄嗟(とっさ)に前面に構えた槍を弾き飛ばし。そのまま槍先が(かぶと)を激しく殴打する。


「……が、あっ?」


 どうやら咄嗟(とっさ)の防御で威力が減衰(げんすい)していたと、(かぶと)のお陰で槍先で頭を割られずには済んだようだが。

 頭を殴られた衝撃で意識が朦朧(もうろう)とし、身体をぐらつかせた武侠(モムノフ)は。手綱(たづな)を掴んでいなかったのもあり、ついには体勢を大きく崩し馬上から落下していった。


「い、一体、どうなってるんだい、こりゃ……」


 見れば、アタシに突撃(チャージ)を仕掛けるため距離を空けていた騎兵らは。新たに街から駆けていた、ジャトラに敵対の意思を見せた援軍らに攻撃を受けており。

 先程、二つに分かれたもう一方の騎馬隊の先頭は、先程の騎馬隊が名乗った名前とは違い、「コウガシャ」を名乗り。

 門を警護する武侠(モムノフ)らに突撃していた。

 

「我らコウガシャ軍は……これより叛逆(はんぎゃく)者ジャトラの旗の(もと)より抜けさせてもらうっっ!」

「う、裏切りかっ、不忠義者めえええっ!」

「抜かせ! 不忠義者とはジャトラのほうではないかっ!」


 と、戦火を交える前の口上では勝負は付かなかったが。

 いざ交戦が始まれば勝敗は歴然(れきぜん)であった。

 騎兵に対抗するための対騎槍(パイク)もなく、頼みの綱の弓兵もユーノに潰された歩兵では。騎馬隊の突撃を止めることは出来ず、当然のように蹂躙(じゅうりん)されるのみの警護の武侠(モムノフ)ら。  


 騎馬隊同士の戦況はほぼ同数。いや、(わず)かではあるが、リュウアンを名乗る側が不意を突いた最初の攻撃で優先に戦闘を進めていた。

 数では圧倒していた門の警護の武侠(モムノフ)らもまた、数騎の騎兵の突撃で次々に薙ぎ倒されていき。

 侵入者であるアタシに構う余裕など、完全になくしている様子だった。


「この連中……味方かどうかは知らないけど、少なくとも敵じゃあない、ッてコトかい」


 先程までアタシ一人で複数人を相手にしていた状況から一変、誰からも相手にされなくなり。

 戦場に一人立ち尽くしてしまっていたアタシは、新たに姿を見せた援軍の騎馬隊の素性(すじょう)について考えていた。


 先程の「リュウアン」といい、今聞いた「コウガシャ」といい。アタシは一切聞いた覚えのない名前だ。

 だが、連中の口上が本当ならば。あの連中も、ジャトラがカガリ家当主の座に()いていては都合の悪い立場なのだろう。


「……おや?」


 すっかり考え事をしていたアタシに歩み寄ってくる馬の(ひづめ)の音に、警戒心を高めていくアタシだったが。

 よく聞くと普通の馬とは違い、何度も聞き覚えのある澄んだ(ひづめ)の音に。アタシは一度手を伸ばした大剣の(つか)から、指を離す。

 

「何だい?……まだ戦闘は終わってないんだよ、フブキ」


 アタシが聞いたのは、シュテンと名付けた駿馬(しゅんば)が地面を鳴らす時の(ひづめ)の音だった。

 騎乗したままでは、巨大剣を盛大に振り回した際にシュテンやフブキを巻き添えにしてしまう懸念から。一度フブキをシュテンに預け、ヘイゼルが身を隠していた後方に下がっていた筈だが。


「ええ。だからアズリアにこの馬(シュテン)を返しておこうと思って、ね」


 どうやら、新たに参戦しジャトラに叛意(はんい)を見せた援軍が、門を警護する武侠(モムノフ)を押し優勢に進めている戦況に。

 今ならばアタシに馬を返しても問題ない、とフブキは判断したのだろう。


「それに」


 フブキは(シュテン)に騎乗したまま、先程名乗りを上げた何名かを順番に指差していき。


「あの(かぶと)飾りは、リュウアンにコウガシャ、アカメにテンジンの領主たち」

「領主……ッてコトはつまり、リィエンと同じ立場の人間じゃないのかい?」


 もう十日ほど前の事だとはいえ、フルベの街の領主の屋敷に強襲を仕掛けたのは記憶に新しい。

 フルベの街を支配していた領主・リィエンは。街の住人に重い税を課したり、戦争や魔竜(オロチ)のせいで親を亡くした孤児を冷遇したりと。決して街の人間に優しくない統治をしていたが。その理由こそ、忠誠を誓っていたジャトラに利益をもたらす目的であった。

 街の外に拠点を作り、盗賊団を結成していたカムロギが拾った三人の少女(イチコ・ニコ・ミコ)もまた、行く当てのない孤児だったと憶えがある。


 アタシは「領主」と聞いて。てっきりカガリ家の当主という地位を手に入れ、領主を全て自分(ジャトラ)の息の掛かった人間に入れ替えていたとばかり思っていたが。

 アタシの問いに、フブキは即座に左右に首を振り、こちらの疑念を否定していく。


「ううん。あの者たちは全員、父様が当主の頃からカガリ家に仕えてくれていた武侠(モムノフ)の一族よ」

「なるほど、ねぇ」


 どうやら、カガリ家の当主の座を乗っ取った黒幕(ジャトラ)だが。その支配は一枚岩ではなく、まだまだ支配力は浸透(しんとう)してはいないようだ。

 (ある)いは、いずれフブキが当主(マツリ)を救い出そうと帰還した際に、反対勢力を纏めて一掃する算段なのか……


「──ちぃッ!」


 アタシが周囲に張った警戒心の網に何か(・・)が引っ掛かったのと同時に。フブキが騎乗していた(シュテン)が鼻息を荒くし、(いなな)きを発する。

 警護と叛意(はんい)(あら)わにした二つの勢力の騎馬隊同士の交戦、その競り合いから脱した一騎がこちらへと突撃してきたからだ。


「シュテン!」


 まだシュテンには(また)がってはいなかったため。

 アタシは一旦、フブキが背に騎乗していたままの(シュテン)を数歩後ろへと下がらせると。巨大剣を右手に握り、両手を広げたような構えで突進してくる騎兵を迎え撃つ。

 

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