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107話 アズリア、騎馬隊の突撃を受ける

 騎馬隊の先頭を(はし)る、兜の装飾が門の警護の連中よりも華美な。長槍(ロングスピア)を両手に構えていた武侠(モムノフ)の一人が。


尋常(じんじょう)ならざる危機と聞き付け、急ぎ駆けつけたわっ!」


 開口一番、発せられた大声を耳にして。

 先程までの敗色濃厚な戦況に厳しい表情をしていた武侠(モムノフ)らの眼に、途端に活気が灯り始める。


「おおっ! 来てくれたかっっ!」

「ちいッ! 街からの援軍かいッ……」


 どうやら門の突破に時間をかけ過ぎたからなのか。それとも、アタシらの目を盗んで離れた場所に情報を送っていたのか。

 何にせよ、抜け道を使ったためアタシらが通過しなかった城下街から、援軍として騎馬隊が到着してしまう。

 しかも……現れた位置も悪い。

 弓兵を蹴散らすため門の警護の最後衛、今最も門に近い位置にいるユーノはともかく。警護の武侠(モムノフ)の最前列と対峙していたアタシは、援軍の騎馬隊に挟まれる位置に立っていた。

 

 ならば移動すれば良い、という話でもなく。


「厄介だねぇ……下手したら、後ろに控えたフブキを見つけられちまうじゃないか」


 今のままならば、騎馬隊は素直にアタシを目標にしてくれるだろうが。

 もしアタシが警護隊と騎馬隊に挟撃されるのを嫌い、立ち位置を移動したならば。馬の機(あし)力を活かすため、騎馬隊は絶えず戦場を広く駆け回るのが常だ。

 だとすれば、今は後方に引いているフブキの事を。連中が目敏(めざと)く発見する可能性もある。


 ならば、と。


 先に放った二振りの斬撃で、合計九人もの武侠(モムノフ)を真っ二つに斬り裂いた時の返り血を全員に浴びて。

 新品の灰色の外套(マント)と、漆黒のクロイツ鋼製の鎧と巨大剣を真紅に染めたまま。後方に大きく飛び退()いて、膠着(こうちゃく)し足を止めていた門の警護らから距離を空けると。


 着地した途端に、くるりと向きを反転させ門を背にして。城下街から砂煙を舞い上げながら、こちらへ一直線に向かってくる騎馬隊の前に立ち塞がる。


「貴様らかっ! 如何なる手段で街に入り込んだは知らんが──」


 先頭の武侠(モムノフ)だけでなく、後に続く三騎の騎馬兵もまた。同じく長槍(ロングスピア)を両手で振り上げ──。

 前面に立ったアタシへと、すれ違いざまに槍先を振り下ろしてきた。


「我ら騎馬(しゅう)が来たからにはっっ‼︎」


 アタシの頭をかち割ろうと(うな)りを上げて迫る槍先を防ぐために、頭上に掲げた大剣の刃がを受け止め。武器同士が交差し、攻撃と防御が衝突した箇所からは火花が散った。


「う、おッ……ッ!」

 

 城下街から一直線に駆けてきた馬の機動力を丸々と威力に上乗せた、馬上よりの一撃の重さは。アタシを背後へと吹き飛ばそうとするも。

 何とか腰や膝、(かかと)へと力を込めて、体勢が崩れるのを耐えながら。打ち込まれた槍を力任せに弾き返す。


「先陣を(うま)(しの)いだか……だが、しかしっ!」


 槍先を弾かれた一騎目の騎馬兵が、アタシの横を走り抜けていったが。

 一騎目の背後からは、続けざまに数騎の騎馬兵が同じく長槍(ロングスピア)を振り上げて。アタシ目掛けて突撃を敢行(かんこう)してくる。


「ちッ、やっぱ……騎馬は厄介だねぇ……ッ!」


 連中の目をアタシに注視させるために。()えてこの位置に立つことを選んだためか。突撃してくる騎馬隊の初撃をまともに受けざるを得なくなってしまったが。

 予想以上に重い一撃に、アタシは思わず愚痴を(こぼ)してしまう。


 つい先程の一斉攻撃での槍兵の攻撃こそ、アタシはクロイツ鋼製の鎧の硬度で弾くことが出来たが。

 さすがに馬の突進力と体重、そして全速で駆ける速度を槍先に乗せた騎馬兵の槍による一撃は。たとえクロイツ鋼製の鎧であっても、完全に防き切るのは難しいだろう。

 加えて、騎馬隊の数である。


「──はああっっ!」「喰らえっ侵入者っ!」


 一撃目と同じ威力の攻撃が、二撃、三撃……と連続してアタシに様々な角度から降り注いでくる。


 しかも、攻撃の合間の隙を突き、アタシも攻勢に出ようとするが。

 馬の突進力が上乗せされた攻撃を受け止めるのは容易ではなく、どうしても防御に専念しなければならず。

 攻撃を体勢を取るよりも先に、攻撃を仕掛けた騎馬兵は真横をすり抜け通過し。次の突撃のためにアタシとの距離を空け始める。

 そして。一息()く間すらアタシに与えず、次なる騎馬兵の槍の一撃が飛んでくるのだ。


「まだだ。まだ、我慢だよ……アタシッ!」


 騎馬隊の最初の突撃が終わるまで、アタシは頭上に大剣を掲げながら。何とか歯を食い縛り、連続して馬上から降り注ぐ数度の槍先を受け止め、弾き返しながら。

 防御の合間にもアタシは、横を通り抜けていった騎馬兵らがどう動くのかを確認していた。

 

 ……果たして、騎馬隊の連中は統率が取れた動きで二撃目を放ってくるのか、と。


 だがアタシの予想は嬉しい方向に外れ。通り抜けた騎馬兵はそれぞれが別の方向へと走り出し、まるで統率が取れてはいない様子を見せた。

 最初の突撃は城下街から全速で駆け抜けてきた馬の脚が丸々、槍先に乗った威力だったが。  

 対して、騎馬隊が仕掛けてくるであろう二撃目は。たとえ突撃を敢行(かんこう)したとしても攻撃までの距離が短く、今防御に徹したほどの威力はないだろうとアタシは予想し。

 

 最後の一騎の槍の攻撃を受け止め、弾き飛ばした直後に。大きく息を吐いて、吸う。

 この場に現れた騎馬隊が全員、アタシに狙いを定め、突撃を(しの)ぎ切った事で。連中の視線は完全にアタシだけを見ているに違いない。

 最初こそ、戦場の(はる)か後方に控えていたヘイゼルとフブキに視線が向かないよう。()えて、騎馬隊から目立つ位置に立ち塞がってみせたが。

 もうフブキらが露見(ろけん)する心配はいらない。


 ──ならば、と。

 そう(つぶや)きながら、アタシは握っていた大剣で空を斬り。二度目の騎馬隊の突撃を迎え撃とうとする。


「ははッ、アタシらに弓持ちがいりゃ少しは楽が出来たんだけど──」


 アタシが傭兵をしていた時も、厄介だったのは敵側に馬持ちの騎士がいた場合だった。

 歩く必要がない馬乗りの騎士は、攻撃を阻害しない程度に装甲の分厚い金属鎧(プレートメイル)を着込み。人間の足よりも(はる)かに迅速な馬の脚で、戦場を縦横(じゅうおう)無尽(むじん)に駆け回り。突進力を活かした長槍(ロングスピア)突撃槍(ランス)などの長い攻撃範囲の武器を振るってくる。

 味方に騎馬の突撃を阻止する大楯(タワーシールド)対騎槍(パイク)、そして射撃武器である弓がなければ、馬に乗る騎士を止めるのは至難の(わざ)だった。

 だが、いくら愚痴を(こぼ)したところで。アタシらの手元に突然、弓と矢が湧いて出てくるわけではない。

 ……それに。


「アタシゃ、魔術文(ルーン)字の誓約で射撃武器(とびどうぐ)が使えないし、ねぇ」


 元々、アタシは弓のような射撃武器を上手く扱うほど器用ではなかったが。

 決定的だったのは、ユーノと出会った魔王領(コーデリア)で入手した「軍神の加(ティール)護」な魔術文(ルーン)字と交わした「誓約」だった。

 この「誓約」というのが中々に面倒な代物(しろもの)で。アタシが身に纏う部分鎧(ポイントアーマー)の右半身と左半身が異なる形状をしているのも、魔術文(ルーン)字との「誓約」(ゆえ)である。

 ならば「軍神の加(ティール)護」の魔術文(ルーン)字と交わした「誓約」とは何だったのか。


 その内容とは、一斉の射撃武器を使用するな、というものだった。

 


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