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102話 アズリア、城門の警護を追い詰めるも

 殺気を込めた視線をまともに受けた敵武侠(モムノフ)が、また一歩後退(あとずさ)っていく。

 無理もない。連中にはたった今、アタシに倒された十体の物言わぬ亡骸(なきがら)を目にしていたのだから。


「……ぐ、か、身体が、動かん……っ」


 最前列に並ぶ十数人の武侠(モムノフ)らが、互いに顔を見合わせながら、攻撃を仕掛ける機を見計(みはか)らう。

 一対一でアタシには勝てないのを、先程の交戦を見て理解したのだろう。

 だが、連中が息を合わせて攻撃を仕掛けてくるのを、こちらが黙って待っている道理はない。


 (シュテン)もアタシの意図を汲んだからなのか、足が腹に触れるより前に。アタシらの前に立ち塞がる武侠(モムノフ)へと駆け出していく。

 右手に握っていた大剣を馬上からぶら下げ、その剣先が何度か地面を擦りながら。

 

「フブキの邪魔をするなら……容赦はしないよッ!」


 掛け声と同時にアタシは右腕に力を込め。真正面に捉えた武侠(モムノフ)の一人の頭目掛け、大剣を斬り上げていくと。


「──お……」


 武侠(モムノフ)の真下から(うな)りを上げ、迫る大剣の刃。

 反応が遅れた武侠(モムノフ)(あご)に刃が喰い込み、言葉を口にするよりも前に顔を縦に両断する。

 当然、深々(ふかぶか)と顔を裂かれた傷は明らかな致命傷だった。哀れな武侠(モムノフ)は、最後に断末魔を上げることもなく、両膝から力無く崩れ落ちていった。


「──が……は……っ」

「まずは、一人だ」


 倒れる瞬間、構えていた曲刀が武侠(モムノフ)の手を離れ、回転しながら宙に舞い。

 アタシに向かって飛来するのを、背後から腕を回して背中にしがみついていたフブキが警告の声を発する。


「あ、危ないアズリアっ!」

「ははッ、わかってるッて──の」


 心配するフブキをよそに、アタシは空中で回転する曲刀に躊躇(ちゅうちょ)なく空いた左手を伸ばすと。回転する刃を避けて剣の(つか)を掴み、曲刀を手に取ることに成功する。


「ふぅん……コレが、この国(ヤマタイ)の剣ってワケかい。案外、重さが乗ってて使いやすそうな武器だねぇ」


 最初、この国(ヤマタイ)の戦士階級である武侠(モムノフ)が好んで使う、刀身が()った長剣(ロングソード)を目にした時。

 アタシは海の王国(コルチェスター)の船乗りらが使う湾曲剣(カットラス)か、砂漠の国(アル・ラブーン)で使われている円月刀(シミター)に似た、軽量の片刃の剣かと思ったが。

 こうして手に持って観察してみると。片刃にこそ違いはないが、刀身の()り具合はそこまでではなく。(むし)ろずっしりとした重量と切れ味の良さそうな鋭い刃を持つ、まさに長剣(ロングソード)と同じような型の武器だった。


 観察を終えた曲刀を、アタシはすぐさま敵の集団へと投擲(とうてき)していく。

 シュッ、と鋭く風を切り裂く音が鳴ったと同時に。

 

「──は、へ?」


 投げつけた曲刀が、武侠(モムノフ)の右眼に深く突き刺さり。

 鋭く尖った剣の先端が武侠(モムノフ)頭蓋(ずがい)を貫通し、後頭部から飛び出す。

 

「これで、二人」


 あっという間に、仲間を二人も倒されてしまったことで。ようやく最前列の武侠(モムノフ)らも、殺気で萎縮(いしゅく)していた身体を仲間を殺された怒りで動かすことが出来たようで。

 

「……お、おのれえっ! 余所者(よそもの)があ!」

「い、一対一では分が悪いっ……そ、双翼から囲めっ! 囲んで馬から潰せえっ!」


 最前列にいた数名が左右に散り、双方から同時に攻撃を仕掛けてくる。

 しかも、勇ましく向かってくると思いきや。

 どうやら武侠(モムノフ)らの攻撃目標は馬上のアタシ、ではなく、騎乗する駿馬(シュテン)

 そして、左右どちらかの攻撃に対応した際にどうしても晒される事になる、背後に乗っていたフブキのようだ。


「……ッたく、アタシに敵わないと見たら、馬と姫さん狙いかい」


 この時のアタシの溜め息は、武侠(モムノフ)らが取った戦法について……だが。

 強者であるアタシを狙わずに、馬やフブキを狙った事にではない。(むし)ろ戦場においては。敵の弱い部分を狙うのは推奨されこそすれ、呆れたり(さげす)むような事ではないからだ。


「だけど、ねぇ──」


 にもかかわらず、アタシが溜め息を吐いたのは。


「残念だがアタシの得物(えもの)はさ。アンタらが思う以上に間合いが広いんだ──よおッ!」


 連中が左右に分かれた程度で、アタシの隙を突けると思った戦法の浅慮(せんりょ)さに……だった。


 アタシは馬上から、巨大剣の攻撃範囲の広さを最大限に活かし。

 右腕一本でながら、前面いっぱいに()を描くような、渾身の横薙ぎの剣撃を放つ。


 手に取って確認するまでもなく、武侠(モムノフ)の連中が持つ異国の曲刀とアタシの巨大剣とでは攻撃が届く距離が違う。

 互いに攻撃をし合えば、当然ながら長大なアタシの巨大剣が先に届くのが道理だ。

 

「がっっ⁉︎……な、何と重い、一撃っっっ!」


 アタシの振るった横薙ぎの一閃を防ごうと、武侠(モムノフ)らは攻撃の構えを一旦解き。迫る巨大剣を弾くために両手で握る武器を、アタシの攻撃に打ち合わせていく。

 が、握る曲刀から手に伝わる衝撃の重さに。このまま競り合えば力負けすると判断し、後ろに二、三歩飛び退()いて受け切るのを諦め。

 結果としては攻撃を凌ぎ、生き延びることが出来たが。

 攻撃の威力を殺せなかったため、アタシの横薙ぎの一撃は止まらずに。さらに次の獲物を求め、横に並んで攻撃を仕掛けた武侠(モムノフ)へと迫る。


「あ、あの重い一撃の後に、は……早すぎ──」


 アタシが放った大剣は、武侠(モムノフ)を斬り倒すためではなく。

 攻撃を避けたり、もしくは防御させることで。連中が仕掛けてきた一斉攻撃を台無しにする目的であった。

 

「う、うおおおお!」

「だ、だが……何とか、あの攻撃を凌いだぞっ……」


 その思惑(おもわく)通り。一人目が反応出来たのもあって、そこから二人目、三人目……と全員がアタシの横薙ぎの一撃を防御、もしくは回避に成功したものの。

 左右に分かれ、シュテンとフブキを狙い撃ちする筈だった複数人の武侠(モムノフ)らは全員、アタシの横薙ぎによって足が止まり。

 一斉攻撃は失敗に終わった……だけでなく。


「う、腕がっ……?」


 アタシの渾身の一撃を防いだ事で、おそらく腕が痺れているのだろう。それでも武器を落とさなかった事だけは褒めてやりたいが。


「何だ、あの武器……攻撃範囲が広すぎるぞ……」

 

 後列に位置し、今回の攻撃に参加しなかった残りの連中にも、巨大剣を握るアタシの攻撃距離と範囲の優位性がどうやら理解出来たようで。

 遠い位置に一騎のみ孤立していた先程とは違い、敵の集団との乱戦となった今。

 最後方にいる強力な鉄製の矢を放つ弓兵も、味方を巻き添えにする危険からアタシを狙えずにいた。


「さて……あっち(ユーノ)はどうなってるか、ねぇ?」


 同じく門を守る武侠(モムノフ)らと戦闘中のユーノの戦況が気になり、チラッと目線を少しだけ横へ移すと。  


 いつの間にやら。

 両の腕に巨大な黒鉄(くろがね)籠手(ガンドレッド)を装備するユーノの切り札「鉄拳戦態(モード・アイゼルイェーガ)」まで発動していたユーノは。  

「ほらほらっ! じっとしてるとボクがぶんなぐっちゃうぞっ!」


 巨大な鉄拳でまとめて二、三人を殴り飛ばしたり、離れた相手には指を投擲(とうてき)武器として飛ばし。

 既に五〇人ほどを地面に転がし、アタシ以上の戦果を上げているのが見え。少なくともアタシが心配をするのは余計な世話に思えた。

 

 曲刀、槍兵、弓兵と。門に集った大半の数はほぼ無力化出来たし。

 アタシだけでなく、ユーノの戦況から判断するに。あと数度、連中と交戦をすれば二〇〇もいた門の警護は半分ほどに減少するのは確実な状況だった。


「なあ……とっとと降参して門を開けたらどうだい?」


 だからアタシは今一度、目の前の武侠(モムノフ)に向け。戦闘を止め、二の門にアタシらを行かせるよう説得を試みるも。

 

「……余所者(よそもの)が。フブキ様を(たぶらか)した程度で調子に乗るなよ」


 何故か、数こそ優勢なれど。戦況は圧倒的に不利な武侠(モムノフ)は、アタシの説得の言葉を聞いてニヤリ……と不敵に笑ってみせたのだ。

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