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71話 アズリア、血に潜んでいた本当の敵

 ユーノと同じ魔王リュカオーンの四人の配下、その一人である老魔族から学ばせてもらった、魔力の流れを視る(・・)ことの出来る「魔視(まし)」という技術。

 魔視(それ)を、魔術文(ルーン)字を宿していない左眼で使い、周囲を見渡す──すると。

 

「……はッ。やっぱり、ねぇ」


 先程まで、群野犬(リカオン)の死骸が転がっていた地面の下。土の中に、人の形をした魔力が映り込んでいた。

 つまり、何者かが地中に姿を隠していたのをアタシの左眼は(あば)き出した、というわけだ。


 しかし、視界に映らないように土中に潜むだけではなく。ユーノのような鋭い鼻にも察知されないため、念入りに群野犬(リカオン)の血まで辺り一面に()くという徹底ぶりに。

 アタシは、いまだ地中に潜んでいる何者かに感心せざるを得なかったが。


 見つけてしまったからには容赦は無用だ。


「ん、どうしたんだいアズリ──」

「……しッ。黙って、見てな」


 突然、アタシが大剣を構え始めたことに疑問を感じたのか。馬上のヘイゼルがこちらに声を掛けてくるが。

 既に地中の敵の存在に集中していたアタシは、声がした方向を一瞥(いちべつ)すると。大剣を握らない側の手の指を一本立て、唇に当てて口を閉じるよう態度で示す。

 そしてアタシは、いつもよりも随分低く腰を落とし。握った大剣を弓の(つる)を引き絞るような刺突の構えを取ると。

 大剣の切先(きっさき)を地面へと向け、一瞬力をぐっ……と溜めた後。


「──そこだよッッ!」


 五歩、いや四歩ほど鋭く速い踏み込みを見せ。溜めた力を掛け声とともに一気に開放していき、アタシが繰り出した渾身の刺突は。

 一直線に斜め下の軌道を描きながら、目標にしていた地面に大剣の半分ほどが突き刺さっていく……が。

 アタシが放った刺突の切先(きっさき)が、地中の何者かの胸板に届くより(わず)か直前に。

 

 地中に潜んでいた何者かが、地面から飛び出し。アタシらの前にようやく姿を見せたのだった。

 

『シュルルルル……ウゥゥゥ……』


 驚いた声を上げたのはアタシではなく、近くにいた馬上のヘイゼルであった。


「か、顔がっ……へ、蛇っ?」


 彼女(ヘイゼル)が驚くのも無理はない。何しろ、地中から姿を現したその正体とは。頭が大きな蛇、衣服や防具を纏わぬ身体の表面にはびっしりと(うろこ)が生えていた人型の魔物だったからだ。


 その外見的特徴からだと、竜属(ドラゴン)の血を引くが人間に近しい外見の竜人族(ドラグナール)や。竜属(ドラゴン)に近しい外見の蜥蜴人(ダイナソア)と勘違いしそうだったが。

 上記の二種と全く違う特徴が、今姿を見せた蛇人間にはあった。それは……全身が真っ黒だったのだ。木漏れ日に照らされても、その光を跳ね返さずまるで吸い込んでしまっているかのような、深淵(しんえん)の黒。

 そして唯一、鮮血のような真っ赤な瞳をこちらへと向けた魔物は。同じく真っ赤な先分かれしている長い舌を伸ばしながら、不気味な息遣(いきづか)いを始めると。


『『フ……シュルルルルルルルル……』』

「ま、また、増えやがったぜっ、この化け物っ?」


 さらに地面から二体、同じような姿の漆黒の人型の魔物が起き上がってくるなり。最初の一体と同様に、不気味な息遣(いきづか)いとともに長い舌をチロチロと(うごめ)かせていた。

 まるで……アタシとヘイゼルを、獲物として品定めしているかのように。


「ちッ……こっちは二人。対して敵さんは三体かい……なかなかに厄介だねぇ」


 一歩、また一歩とゆっくりとこちらに接近してくる蛇人間と対峙していたアタシは。もう一度、馬上のヘイゼルへ視線を向けると。

 見れば、先程の群野犬(リカオン)の死骸を相手に放ってしまった二発の単発銃(マスケット)は。これまでのやり取りの合間に既に鉄球と火薬の補填(ほてん)を終えていた。

 さすがは、抜け目のない彼女(ヘイゼル)といったところか。


 何しろ、相手の実力は全くの未知数なのだ。


 地中に全身を潜ることが出来る、というのは地属性の魔法か、もしくは地面を掘り進めるだけの鋭い爪を持っているのか。

 そして、群野犬(リカオン)の死骸を亡者(アンデッド)に変えた能力といい。地中に隠れ、念入りに血を撒く狡猾(こうかつ)な頭も有している。

 しかも、先程アタシが左眼の「魔視(まし)」で見た時にだったが、全身が魔力を帯びているほどなのだ。

 判明している能力だけでも、蛇人間らを警戒するには充分に足る特徴なのだが。

 

「むぅ……だけど、どこかで見た記憶あるんだよねぇ、コイツら」


 頭が蛇の亜人、もしくは魔物などアタシも八年もの長旅で一度も遭遇(そうぐう)した記憶はない……なかった筈だが。

 何故かアタシは、目の前の三体の蛇人間に妙な既視感(きしかん)を覚えてしまっており。その答えが喉まで出掛かっているのに、どうにも思い出せないもどかしさの解決を。

 一瞬、後回しにしようか思案したが。ここで何かを思い出せれば未知の魔物の能力を判断出来るかもしれない、と。まず目の前の蛇人間について、何を言い出そうとしたのかを最優先に選ぶと。


 言葉に出なかった答えがようやく頭に浮かぶ。


「──あ。そ、そうだッ! お、魔竜(オロチ)魔竜(オロチ)ッ! そう、魔竜(オロチ)に似てんだよコイツらッ!」


 それは、アタシがこの国(ヤマタイ)の地を踏んでからこれまでに二度。

 一度はハクタク村で、二度目はフブキ救出直後に死闘を繰り広げた魔竜(オロチ)の姿と。目の前に現れた三体の蛇人間の纏う雰囲気が同一なのだ、と。

 さすがに……魔竜(オロチ)の恐ろしく強大な、周囲を押し潰すような魔力と殺意には程遠いが。


「はは……コレでようやく、頭の中で色んな疑問が全部繋がったよ……ッ」


 アタシは二度目の魔竜(オロチ)が出現した時、もしかしたら今回の黒幕であるジャトラは「魔竜(オロチ)を操る(すべ)を持っている」と推測したが。

 逃げ出してきた自分の息子を、フブキと同じく魔竜(オロチ)の同類に追わせたのだとすれば。今の状況も全て説明がつく。


 今までアタシは、何が起きているのかを見極めようとして躊躇(ちゅうちょ)して後手に後手に回っていたが。

 もう遠慮する必要もない。襲撃者は魔竜(オロチ)酷似(こくじ)した特徴の蛇人間であり、この連中がジャトラの配下なのもほぼ確定だからだ。

 

「出来れば、さあ。まずは状況をあたいにもわかるよう、しっかり聞かせて欲しいモンだよ……」

「あははッ、ソイツはこの連中をきっちり倒してからさねッ……さて、と」


 本格的に三体と戦闘に入る前に、アタシは背後にいたユーノやフブキの地中にも敵が潜んでいないかを左眼で視る。

 地中に姿を消し、血で自分らの匂いを誤魔化(ごまか)す知恵の回る相手だ。三体が(おとり)となりアタシらを引きつけ、背後に隠れた敵が……なんて(わな)を考えているかもしれないが。


「ユーノとフブキは……ほっといても大丈夫そうだねぇ」


 幸運にも、二人の周囲の地中に他の蛇人間が潜んでいる気配は見当たらなかった。 

 敵がいないのを確認したアタシは一瞬、ユーノをこちらに呼ぼうとしたが。


「あ──……やっぱ、イイか」


 一言だけ呼び声を漏らしてしまうも、ユーノの名前を呼ぶより前に言葉を喉奥に(とど)めることが出来た。


 如何に弱い、とはいえ目の前の三体の敵は魔竜(オロチ)の同種であり。死骸を亡者(アンデッド)に変える魔法まで使う難敵なのだ。

 数的に負けている以上、ここはユーノにも援軍を頼みたい状況だが。血塗れのジャトラの子供を前にして、すっかり動揺していた彼女(ユーノ)を今戦いに呼んでも戦闘に集中出来るかは不確定だ。

 そんな精神状態では下手をすれば、思わぬ深傷(ふかで)を負うかもしれなかったし。フブキの護衛のためにも、戦力は一人置いておきたい事情もある。


 ……それに。


「か、堅そうな(うろこ)してるみたいだけどさ、アズリア……あんたの剣は普通に通るみたいだよっ」

「どうやら、そうみたいだねぇ……ッ」


 見れば、一番前に立っていた蛇人間……アタシが地面へと突き刺した大剣を間一髪で回避した相手だったが。

 ちょうどヘイゼルが指を差した先、漆黒の(うろこ)で覆われた蛇人間の胸板からは。先程アタシが繰り出した刺突を完全に躱し切れなかったのか、深く肉が(えぐ)れるほどの傷が出来ていた。

 ならば、魔術文(ルーン)字を使わずとも何とかなりそう、と考えたのも(つか)()

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