6話 アズリアら、ハーピーと遭遇する?
ハーピーの表記を鳥人女から女面鳥へ変更しました。
リュゼがルーナの治療をしているのをチラッと見てルーナには申し訳なく思って心の中で謝っておいた……アタシがリュゼの武器の使い方が見たいがために、飛蛇を倒す手を意図的に遅めたのは事実なのだから。
せめてその罪滅ぼしに、治療が終わる間くらいは時間を稼いでおくつもりの気合いで大剣を構え直し、気配がする上空に視線を集中する。
「……サイラスは後ろをお願い」
「了解した、アズリア殿」
サイラスはアタシの攻撃に巻き込まないための配慮と、山の奥から戦闘の騒ぎや血の臭いで動物や魔物が出現してもいいよう、後方で待機してもらっておく。
早速、姿を現した女面鳥だったが。
……見ていると何か様子がおかしい。
今、アタシとも目が合ったし、コチラ側を認識しているのは間違いないが、魔獣である女面鳥にしてはやたら警戒心が強いのか攻撃せずに上空で待機したままだ。
いや、寧ろ女面鳥が何かに追われているような、怯えているような印象なのだ。
「……なあリュゼ、あの女面鳥……なんか様子がおかしくないかい?」
「そうですね……確かに言われてみれば、魔獣なのに人間に襲い掛かってこない時点でおかしいですね……」
「リュゼもそう思うかい?……とりあえずコッチから攻撃する前に、一先ず様子を見とこうよ」
この面子の中で唯一、空を飛ぶ相手に攻撃が可能なリュゼに上空で一定の距離を保ち続けている女面鳥の事を伝えておいたのは、任務があるとはいえあの鉤爪を問答無用で投げつけられるのを制止するためだ。
すると上空の女面鳥が発したのは、明らかにアタシたちが聞き取れる人間の言葉だった。
「……助けてっっ!お願いニンゲンっっ!」
アタシやリュゼ、サイラスやルーナも互いの顔を見ながら驚きを隠せない表情をしていた。
それもその筈、魔獣である女面鳥が人間の言葉を喋る、などという話は聞いたことがないからだ。
しかもその魔獣が、アタシ達人間に助けを求めてきている……つい先日、その魔獣らの侵攻を受け生命と国を賭けて戦ったばかりのアタシとしてはどう動くべきか躊躇していると。
空に甲高い咆哮が響き渡る。
謎の女面鳥の背後から現れた大きな影……それは砂漠でも見た魔獣、飛竜であった。しかも砂漠で侵攻中に見たモノよりも二回りは身体の大きな個体だ。
そこまで大きく育ってしまった飛竜はアタシも7年旅をしてきてまだ見た事がない。
その飛竜と目が合った気がした。
次の瞬間、翼を大きく広げた飛竜が魔獣らしくアタシを「敵」だと認識したようで、爪を立てて急降下攻撃を仕掛けてきた。
回復をしているリュゼとルーナを狙って。
「……ちぃッ‼︎」
二人の前に立ちはだかり幅広の刀身を盾のように構えると、急降下で向かってくる飛竜の双爪を受け止める。
さすがはクロイツ鋼製の大剣だけあり、刀身には爪で少し表面が削れ傷がついた程度だが。体躯の大きな飛竜の突撃を何とか足を踏ん張って受け止めるが。
「……リュゼっ、治療はまだ終わりそうにないかい?こんな攻撃、何度も受け流せる自信はちょっとないよっ!」
まだ魔術文字を発動していない状態ではあの急降下攻撃を受け止め続けるのは多分無理だ。
何故なら今の双爪を受け止めた衝撃で、すっかりアタシの腕が痺れてしまっていたからだ。
「回復は既に終わってます!そこでアズリア……あと一撃だけ耐えて貰えませんか?」
「……何かいい作戦があるんだね?」
「出会ったばかりの私を信じてくれ、と言うほうがおかしいですが……私を信じて下さい、アズリア」
リュゼの真剣な瞳。
そんな視線を向けられたら断れないじゃないか。
もちろん、断るなんて選択肢は最初からアタシの中にはないんだけどね。
「一撃耐えればいいんだね?……任せておきな」
あの急降下攻撃を受け切るには筋力が足りない。
アタシは早速、右眼に刻まれた魔術文字を発動するために魔力を込める。




