5話 アズリア、未知の武器に心躍らせる
やがて空から現れたのは飛竜よりかなり小型な飛蛇だった。
それも一匹や二匹ではなく、計五匹ほど。
早速こちらを見つけて急降下して襲い掛かってくる飛蛇の牙を、明け方まで降り続いた雨でぬかるんだ地面に足を取られながら何とか避けていくのだが……
飛蛇の攻撃はむしろ毒などない牙攻撃より接近した後の太い尻尾のほうが怖いのだ。
「きゃああああああっっ⁉︎」
「……ルーナっ!」
ギリギリ牙攻撃を躱したルーナの腹部に飛蛇の尻尾が直撃こそ免れたものの、その尻尾が身体に巻き付き、そのままスルスルと胴体部分にまで巻き付かれ拘束されていた。
そのルーナに飛蛇の牙がゆっくりと迫る。毒がないとはいえ、飛蛇の噛む力は肉を噛みちぎる程度はある。
ルーナも短剣を何度も飛蛇の胴体に突き刺して拘束から逃れようとしているが、決定打を与えるには至っていないようだった。
さすがに放置は出来ない。
アタシはルーナに絡み付いた尻尾を掴んで力任せに引き剥がしてから、大剣を頭に突き刺してトドメを刺す。
「尻尾に打たれた腹は平気かい、ルーナっ」
「はぁ、はぁ……危なかったあ……助かったわアズリアさんっ」
サイラスはというと、飛んできた飛蛇の牙に合わせて長槍による打突を放つと、その槍先が喉を貫通し蛇を絶命させる。
「こちらはこの通り大丈夫だ!アズリア殿はルーナのサポートをお願いする!」
だが、飛んできた勢いで絶命したものだから、槍に喉から貫通した胴体がまるで串焼きのように刺さってしまった。
この戦闘中に飛蛇の身体を槍から抜くのは早々に諦め、槍を放棄し腰の剣を構え直すが、空を飛ぶ敵に間合いの狭い剣では苦戦しそうだ。
さて、本番はリュゼの立ち振舞いだ。
一体あの武器をどう使って戦うのか?
「喰らいつけッ鉤爪ッッ‼︎」
まだ急降下しこちらに下りずに空を飛び交う飛蛇に向けて、振り回していた鎖の先に接続された鉤爪を遠心力を利用し勢い良く投擲していく。
鉤爪を直撃させるのではなく、飛蛇の胴体に鎖が絡み付くように投擲されたそれは見事狙い通りに絡み付き、鉤爪が引っかかって鎖が容易に解けないようになると。
「捕まえたらこちらのモノね……ほら、降りてくるのよ……抵抗しても無駄だからねッッ!」
鎖を握った右腕一本で、鎖で絡め取られながらなおも空を飛ぶ飛蛇を空中から地上へと引き寄せ、地上へと叩き落としていくリュゼ。
地面に叩きつけられ弱った飛蛇の胴体に左手の剣を突き刺し、やがて飛蛇は動かなくなる。
「……まずは一匹……あと二匹ね」
事切れた飛蛇の胴体から鉤爪を外して鎖を再び振り回しながら、何か詠唱のような言葉を呟いていると。
「────岩の鎚っ!」
詠唱を解き放つと同時に、空に人間大の岩の塊が作成されて飛蛇へ向けて飛んでいく。
その岩塊がまともに直撃した飛蛇が地上に落下し、その様子を見ていたためにリュゼから注意が逸れた最後の一匹に再び鉤爪が巻き付けられ。
その飛蛇もリュゼの右腕との力比べに敗北し、地上へと引き摺り落とされていった。
地上に落ちた二匹の飛蛇は、サイラスの剣とルーナの短剣で息の根を止められていた。
現れた飛蛇を全て倒したのを上空を確認してから一旦休憩を入れるアタシたち四人。
……ちなみに残りの一匹の飛蛇はというと、アタシに噛み付いて急降下してきた時に斬り伏せておいた。
「……ヒュウ♩魔法まで使えるなんてやるねぇリュゼ。しかもあの武器、リュゼの力と合わせて使われたら意外ととんでもない性能なのかもしれないねぇ……」
目の前であの未知の武器の使い方を見れて、期待通り……いやそれ以上の結果を目の当たりに出来たアタシは思わずリュゼの戦い振りに感嘆の口笛を洩らしてしまう。
あの未知の武器。そしてリュゼの技術に。
たとえ最初に投擲される鉤爪を避けても、鎖に絡め取られてしまえばリュゼとの力比べに持ち込まれ、身動きを封じられたまま不利な体勢で接近戦を余儀無くされてしまう。
確かに普通の二刀使いとは違い、右手と左手に違う武器の技術を必要とする熟練の難しい武器だが、遠近両方に対応出来る厄介な武器だとアタシは思えた。
アタシがリュゼの武器を一通り考察していた間、リュゼは、飛蛇に一撃を受けたルーナの様子を気にして、攻撃を受けた腹を触り傷の具合を確認しながら治癒魔法を発動してルーナの傷を癒していた。
ルーナはしきりに平気だと言ってはいるが、リュゼが魔法を使ってまで治癒している以上は、もしかしたら予想以上に深手なのかもしれない。
横で肩で息をしているサイラスにルーナの二人、そして飛蛇三匹を相手にしておきながら息を切らせずにルーナの治療を続けるリュゼに声を掛ける。
「大丈夫ですか二人とも、特にルーナは飛蛇の尻尾をまともに食らっていたようですけど……」
「あは、だ、大丈夫ですよリュゼ様。探索に影響するほどの傷じゃないですから」
「……リュゼ、その治癒魔法はもう少し時間が掛かるのかい?」
「……そうですねアズリア。もう少しだけ治療に時間をいただけたら……何か急ぐ理由でも?」
妙な気配を感じ取ったアタシは、その気配がする上空をもう一度見ながら、
「……どうやらこの騒ぎを聞きつけた連中がいたみたいだ。また空から何か来るよ」




