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33話 アズリア、モリサカの同行を拒む

 待ち合わせの場所である、東側の街の出入り口付近には。

 既に二頭の馬を引き連れたモリサカに、フブキとヘイゼル。そして療養所を先に出発していたユーノが待っていて。

 そのユーノが一番にアタシの接近に気付き、手を振りながら駆け寄ってくる。


「お姉ちゃああんっ……おそいよ、おそいよっ!」

「悪いねぇ、鎧を着るのに手間取っちまってさ」


 勿論(もちろん)、これは嘘だ。

 今、この場でナズナから預かった地図の話を切り出しても良かったのだが。

 アタシやフブキが街を出発する姿を誰かに見られれば、また騒ぎになると思い。街の住民らが動き出すより早朝に、早々に出発しようと考えていたのだ。

 ……その目論見(もくろみ)は、アタシが遅れたことで見事に崩れてしまったが。


「お、おい……アレ、もしかして──」

 

 お陰で、街の外にある畑へと農作業に向かう数名がこちらに気付き。徐々に街の入り口には住民らが集まり始めていた。

 そんな集まってくる住民の視線が気になりだしたのか、フブキが出発を()かしだすと。


「そ、そろそろ、出発しないと大騒ぎになりそうね……」

「……ったく。どこかの誰かさんが鎧を着るくらいで手間取ったからなんだけどなぁ?」


 アタシにわざと見せつけるように退屈そうな欠伸(あくび)をするヘイゼルは、冷たい視線とともに嫌味な言葉を投げ掛けてくる。


 ナズナとの会話があったからとはいえ、待ち合わせに遅れてしまったのは確かにアタシだ。待たせた事について文句を言われるのは仕方ない。

 その事をフブキやモリサカ、先に到着したユーノに指摘されるのなら納得がいくが。


「う、うるさいねぇッ! イイからとっとと馬に乗っちまいなヘイゼルッ!」


 ヘイゼルに言われるのだけは我慢がならず、思わず胸中に苛立ちが湧き。

 気が付けばアタシはヘイゼルを怒鳴(どな)りつけていた。


 そもそも、アタシが四日も治療を要する深傷(ふかで)を負ったのは。屋敷に突入する際にヘイゼルが唐突(とうとつ)に、アタシを(おとり)役にしたからだ。

 魔力が尽きかけていたアタシは、三人で共闘したかったところを。単独で強敵であった「水鏡(みかがみ)のササメ」と対決となり、結果……これだけの深傷(ふかで)を負うこととなった。

 まあ……アタシが(おとり)を見事果たしたことで、二人が領主を確保出来ていればよかったのだが。もう一人の強敵・コンジャクに苦戦中だったのだから。

 ヘイゼルに対して少なからずの遺恨(いこん)というか、(をだかま)りが残るのは当然の事だ。


「はいはい、わかったわかった」

 

 だが、ヘイゼル当人には大して効果がなかった様子で。軽い口調で怒鳴(どな)るアタシを(あし)らいながら。

 フブキが騎乗しながら屋敷から引いてきた、もう一頭の馬に(またが)っていく。


 すると、それぞれ別の馬に騎乗したフブキとヘイゼルを交互に見ていたモリサカは困ったような表情を浮かべながらアタシに訊ねてきた。

 

「で、アズリア。オレは……どっちに乗るべきなんだ?」


 フブキの護衛にと意気込んでいたモリサカは、てっきり自分がフブキを背に乗せるものとばかりと考えていたが。

 冷静に考えれば、フブキの護衛に一番適しているのはアタシだと気付き。アタシがフブキとヘイゼル、どちらの馬に騎乗するかを聞いてきたのだが。

 

 アタシの回答は、モリサカの想定外だったろう。


「いや、モリサカ。アンタはどちらにも乗らなくてイイよ」

「……ん? 馬に乗らなきゃ、オレはどうやってアズリアたちと同行するんだ?」


 最初、モリサカはアタシの言葉をただの冗談と受け取ったのか。顔には苦笑いを浮かべ、戸惑いながらもあらためて問い掛けてきたが。

 アタシはその問いに、きっぱりと言い放つ。


「だから、モリサカ。アンタをシラヌヒに連れて行くつもりはない、ッて話だよ」

「へっ……?」


 最初の答えが遠回しな表現だったので、二度目の答えははっきりと「モリサカを同行させない」と断言すると。

 当然、シラヌヒに一緒に行くと意気込んでいたモリサカは驚きのあまり。今まで聞いたことのないような甲高(かんだか)い声を発し。目を見開いたまま動きを止めてしまう。

 

「ど、どういう事だアズリアっ、オレは聞いてないぞそんな話っっ!」

「ああ、知らなくて当然さね。アンタには話してなかったからねぇ」

 

 一瞬だけ空いた間の後。ようやく我に返ったモリサカが突如、激昂(げきこう)したかのように言葉を(まく)し立ててくる。

 だが、モリサカを同行させないのは今に思い付いた話ではない。興奮するモリサカとは対照的に、アタシは冷静に言葉を返す。

 

「フブキ様っ! 私を同行させないという話、フブキ様は了承(りょうしょう)されたのですかっ!」


 ここでモリサカは説得の相手をアタシからフブキへと変更を試みる。確かに、シラヌヒ突入と自分の護衛をアタシに依頼してきたのは、他ならぬフブキだ。

 雇い主がモリサカを同行させると言い張ったならば、あくまで護衛であるアタシは納得せざるを得ない……だが。

 

「ええ、アズリアから話は聞いたわ。モリサカ、貴方(あなた)のシラヌヒへの同行は許さないわ」

「そ……そんなっ……」


 モリサカではなくアタシの意見に同調する姿勢を見せ、強い口調でモリサカの同行を拒むフブキの態度に。

 その場で両膝を突き、愕然(がくぜん)とするモリサカ。


 こんな重要な話を、唐突に切り出すほどアタシは考え無しでもなければ。何の根回しもしないほどの馬鹿でもない。

 この場にいるフブキやヘイゼル、ユーノには。シラヌヒに同行するのは「この四人のみ」と(あらかじ)め話しておいたのだ。

 勿論(もちろん)、モリサカを同行させない、その理由も。


 その場に両膝から崩れ落ちたままのモリサカは、今にも泣き出しそうな悲しげな表情でアタシを見ながら。


「なあ……答えてくれアズリア。オレじゃ、フブキ様を護るには、力不足だったか? 確かにオレは、ナルザネの護衛の羅王(ラ・オ)に遅れを取った……だがっ──」


 モリサカの顔をまじまじと見たアタシの胸が罪悪感で痛む。


 この国(ヤマタイ)の地を踏んでから、初めて交流した人間がモリサカだったアタシは。それから(モリサカ)と決して短くない期間を行動を共にすることとなる。

 モリサカは大陸でも稀少(きしょう)な、竜属性の魔法を行使出来たとあって。二頭の魔竜(オロチ)や、ナルザネの率いる軍勢との戦闘で共闘してくれたり。

 土地勘のないアタシをこのフルベまで案内してくれたりと、モリサカには大変な恩義を感じていた。


 ──確かにモリサカの言う通り。

 ナルザネの配下との戦闘においては、素手格闘に(ひい)でた「羅王(ラ・オ)」を名乗るジャオロン相手に敗北を(きっ)し。腹に深刻な深傷(ふかで)を負い、ウコン爺の治療の世話を受けはしたが。

 その敗北が、モリサカを同行させない理由ではない。


「それはねぇ……モリサカ」

 

 だからアタシは、何故(モリサカ)を連れて行かないと決めたのか。その理由を説明していく。


「アンタさ。カナンに自分の想いを告げて……彼女に受け止めてもらったって話じゃないか?」

 

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