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11話 アズリア、ランドルの正体を知る

 王都に戻ったアタシを待っていたのは二階建てを超えた豪華な造りの屋敷だった。


「お、おいおい……一旦は出てきておいてなんだけど、まさかここまで豪勢な屋敷だったなんてねぇ……」


 参考までに言っておくと、普通の住民が暮らす建物は基本的に一階のみの平家である。建築に使う材質の強度や質が、二階建てに耐えられないからだ。

 逆に言えば二階建て以上の屋敷を建てるには、それに耐え得るだけの良質な建材を集められる財力や権力が必要となるわけだが。

 つまりは、ランドルはそれだけの立場を持った人間だという何よりの証拠というわけだ。


「ほれ、アズリア。まずはこいつを受け取れっ」

「ん……コレは?」


 そして手には商業組合(ギルド)から渡されたズッシリと重い革袋。

 中を開けてみると、数え切れないほどの大量の金貨が。


「一応だが、説明しておくぞアズリア。まず、鉄蜥蜴(アイアンリザード)十二匹分の買取が金貨六五枚だ。そして黄金蜥蜴(ゴールドリザード)の買取が……白金貨三枚になってな」

「白金貨三枚……ってことはさ、金貨だと……」

「三〇〇枚だな。あの黄金鱗(ゴールド)は全部胴体部がキレイに残ってたから状態が良いと評判になってな、解体費用や鉱夫への分を差し引いてもこれだけの金額になった」

「な……なるほどぉ……へぇ」


 ランドルの丁寧すぎる説明で、色々と納得出来た。

 アタシも遭遇率の希少な黄金蜥蜴(ゴールドリザード)の買取価格なんて知るわけがないので、そこは本職の組合(ギルド)職員に任せるのが当然だろうし、多少は手数料で引かれていたとしても、結果これだけの金額になったのだから文句が出よう筈もない。


 それよりも、明らかにおかしいのが目の前に建っている豪勢な屋敷だ。

 アタシがその場違いな屋敷を指差すと。


「ああ、そういえば結局言ってなかったな──」


 屋敷に案内するために数歩先を歩いていたランドルが、急に振り向き。


「あらためて自己紹介だ。俺はランドル・アードグレイ。グレイ商会の会長とシルバニア商業組合(ギルド)組合(ギルド)長を務める、これでも一応男爵、貴族位持ちだ」


 グレイ商会と言えば。このシルバニア王国だけではなく周辺国にも支店を出している、近年成長の(いちじる)しいという(うわさ)の絶えない巨大な商会ではないか。

 しかも男爵位に。

 さらには商業組合(ギルド)長だと?


「え、えっと、ら、ランドルの旦那……ッ?」


 ちなみに組合(ギルド)とは。

 同業者が資金や物流、人材などを融通、相互に協力し合う組織を作ることで個人よりも幅広くなる。組織になったことで発生した地位や権力を用いて、同業者の権利を守るための制度のことである。

 商業組合(ギルド)の場合は主に商品流通と商品の価格の適正化、そして商人の利益と安全の保護を目的としている。


「いや、ランドル男爵様っ。いや、その、アタシはそんなの知らなくてさ……無礼な発言を色々として、ホントに申し訳ないッ!」


 さすがに驚きのあまり、貴族という立場の人間に対して。丁寧な口調といつもの砕けた口調が入り混じった喋り方で、ランドルと接してしまうアタシ。


「ははは……いきなりかしこまろうとしても無理が出てるぞ?それにアズリア、お前さんは俺の客人なんだから今までと同じく砕けた口調のままでいい」

「ほ、ほら、でもさ、貴族なんだから一応体面ってやつが……あるんじゃないのかい?」

「今だからアズリアには言ってしまうが、あの鉱山は国王陛下から直々に預かり請けたモノでね。このまま採掘が止まっていたら商会だけでなく爵位持ちとしても立場が危うかったんだ」


 と、ランドルは目の前で舌を出して首を()ねられる仕草をしてから。こちらに片目の目蓋(まぶた)を閉じる合図をして言葉を続ける。


「だから、お前さん(アズリア)は俺の命の恩人ってことでもある。寧ろ、俺のほうがお前さんに敬語を使いたいくらいだ」

「ああ、わかったよ……色々と釈然としない部分はあるけどさ。ランドルの旦那がそれでいいって言うならコレからも普通の喋り方で接するコトにするよ」

「でだ。話が急で悪いが、お前さんをウチの妻と子供を紹介ついでに今夜辺り、食事に誘おうと思ったんだが……どうする?」


 唐突な夕食への誘いに、アタシは即答することが出来ずに返事を迷っていたのだ。


「……うぅん。貴族さまと一緒に食事、ねぇ」


 たかが食事に、一体何を悩んでるのかというと。

 身軽な一人旅を続けていく上で必要なこと、それは必要以上に権力者と縁を持たないことに尽きる。 

 権力者はその権限を維持するために少なからず武力や兵力を必要とする。腕の立つ冒険者や傭兵はそういった権力者の格好の標的、もとい勧誘の対象になりやすい。


「どうもアタシゃ、貴族さまの流儀ってのが、何とも堅苦しくてねぇ」

「そうか、残念だ」


 元々が自由気ままなのだから、窮屈になれば契約を破棄して離れればよい、というのは持たざる者ゆえの甘い考えだったりする。

 権力者は欲深い人間である上に疑心暗鬼に陥りやすい。一度懐に入れた人間を手離して最悪自分より好条件で寝返るかもしれない、それならばいっそ……とこちらの生命を取ろうとする権力者もいる。

 いや実際、暗殺者を差し向けられた事のあるアタシが断言する。

 ……権力者はそういう連中だらけなのだ。


「ちなみに場所は『サラマンドラの竈門亭』だが」

「──わかった。是非行かせてもらうよッ」


 アタシは前言を(ひるがえ)して、ランドルの食事会への誘いに承諾し、力強く(うなず)いてみせた。

 そんなアタシに冷たい目線を投げるランドル。


「……おい」


 だ、だって、仕方なかったんだよ!


 『サラマンドラの竈門亭』と言えば、この王都でも一、二を争う人気の食堂だと聞いていたからだ。

 そもそもアタシが王都に来た理由というのも、実は噂で聞いたこの食堂でしか提供していない料理『暴角牛(レイジングホーン)の塩釜焼きシルファレリア風』を食べるためなのだ。


 暴角牛(レイジングホーン)とは。頭部に数本の立派で鋭利な角を生やした馬二、三頭ほどの巨大な四足獣で、繁殖期ではない普段はこちらから攻撃しない限りは襲ってはこないのだが。

 この暴角牛(レイジングホーン)なる魔獣は。興奮すると周囲に見境(みさか)いなく鋭利な角による突進を仕掛けてくるという危険な性格をしているのだ。しかも個体ごとに興奮する条件が違うため、その肉の稀少さを知る者以外は、余程(よほど)の生命知らずな冒険者でなければまず近寄ろうとしない。


 そんな危険な暴角牛(レイジングホーン)の肉を大量の塩で包んで焼くという贅沢の料理だけに、有名な料理人たちや食堂でも誰も真似出来ていないと噂になっていたのだ。

 そんな料理の噂を聞けば、是が非でも食べてみたくなるというものではないか。


 路銀を失い行き倒れやら遠回りしてしまったが。

 やはり人助けは進んでするものらしい。


「ふふふ……うふふふふふふふふふ」 


 突如として降って湧いた絶好の機会に、アタシの口から笑いが漏れ出してしまっていたのだ。

 地の底から聞こえてくるような笑い声に、ランドルが一歩、いや二歩ほど後退(あとずさ)りながら、アタシへと恐る恐る声を掛けてくる。


「お、おいアズリア、一応街の真ん中でその笑い方はやめておけ。道行く連中が皆お前さんを不審な目で見てるぞ……」


◼️貴族と爵位について

ラグシア大陸に点在するシルバニアその他諸国は、元々は一〇〇年以上前にほぼ大陸全土を統一していた魔導帝国の貴族制度をそのまま継承している国家が多い。

貴族の階級は五段階の爵位によって選別されており、上位階級から。


公爵(デューク)……王位継承権のない王族の分家やその親戚

侯爵(マーカス)……王族と血縁関係のない貴族家での最高爵位

伯爵(カウント)……原則として領地を持てるのは伯爵まで

子爵(バイカウント)……上位三爵の領地を代理で統治する

男爵(バロン)……功績ある者に授与される三代までの爵位


爵位を家名の後ろに付けて呼ぶのかおおよその決まりとなっているが、その他。


辺境伯(マーグレイヴ)……隣国や紛争地との国境沿いの領土を任され、場合によって強大な軍事力や地位を持つ

宮中伯(ファルツ)……王宮仕え、つまり宰相や書記等の大臣職を務める

準男爵(バロネット)……功績ある者に授与される一代限りの爵位


など、特別な称号もあるが。

公爵(デューク)から男爵(バロン)までの五爵位での貴族制度が、ラグシア大陸の国家では一般的である。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ランドルが想像以上に大物だった。 でもちゃんと報酬を払う辺りは良心的ですね。 そして食事会の誘い! これは飯テロの予感がします!
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