閑話② 精霊たちのお茶会
央都アルマナでの魔族との大規模戦闘を終えて、水魔法で癒されたとはいえまだ酷い傷を負ったアズリアの治療を人間たちに預けた大樹の精霊と水の精霊はというと。
アズ湖の畔に開いていた精霊界の入り口から招かれた席で、用意された卓を囲んで椅子に座る二人は何かに揉めている様子だった。
精霊を「二人」数えするのはどうかと思うが。
「……ねえウンディーネ。あの酷い傷を癒すために敢えてあの場では追及しなかったのだけど……あなた、私のアズリアとどこで親しくなったというの?」
「え〜?ドリアードちゃんもアズリアちゃん狙いだったの〜?……う〜ん、それはお姉さん困ったわねえ……」
突然立ち上がって水の精霊を問い詰める大樹の精霊。
口調こそまだ穏やかではあるが、その言葉には静かに怒りと苛立ちが含まれていた。
だが水の精霊はそんな相手の口調も態度もお構いなしとばかりに、いつもの間延びした感じを崩すことなく首を傾げながら困った素振りをワザとらしくしてみせるのだった。
「ドリアードちゃんにそう言われてもねぇ……お姉さん、アズリアちゃんに目をつけてたのは6年も前からなのよぅ?」
「……な⁉︎……べ、別にこういうモノは人間の世界で言う『早いモノ勝ち』というワケではないでしょう?大体あの娘の能力を鍛えたのは私なんだからねっ!」
あくまで受け流す姿勢の水の精霊に堪忍袋の尾が切れたのか、卓をダン!と叩いて凄んでみせる大樹の精霊。
側から見れば、確かに大人の女性にあしらわれてイライラする女の子、にしか見えない。
「あらあら〜だってドリアードちゃん……まだアズリアちゃんと『契約』したワケじゃあ……ないんでしょ〜?それならアズリアちゃんを自分のモノだ、って主張するのはお門違いじゃないかしら〜?」
「ぐっ……だ、だって……でも仮契約はしたんだから……もう私のだ、って言っても過言じゃ──」
「ドリアードちゃん、それは過言よ〜」
精霊は、自身の力を分け与えてもよいと信じた唯一の相手に対して「契約」を交わす事で、精霊の能力や魔力など様々なモノを共有することが出来るようになる。
ただし、精霊が「契約」を交わせるのは一度限り、且つ同じ対象と二体以上の精霊が「契約」を交わすことが出来ない。
だから精霊にとって「契約」した相手とは、恋人でもあり、親子でもあり、夫婦だとも言える存在なのだ。
ちなみに、大樹の精霊が主張している「仮契約」というのは、シルバニア王国をアズリアが去る時に交わした接吻のことだ。
「それに……そんなコト言ったらお姉さんの大事なモノ、アズリアちゃんにあげちゃったから〜……それならお姉さんも権利はあるハズよ〜?」
「駄目よダメダメっ!……確かにウンディーネにはアズリアを助けてもらった借りはあるけど……あの娘は私のモノなんだからっ!」
「それならさっさと『契約』してきちゃいなさいなドリアードちゃん?……でないとぉ〜……」
大樹の精霊がそこまで入れ込んでいるアズリアと何故「契約」を交わさなかったのか。
それは単純に「契約」して得ることになるドリアード自身の力が、アズリア本人の成長を阻害してしまうコトを恐れているのだ。逆に言えば、それだけアズリアの潜在能力と成長の伸びしろに期待しているとも言える。
「……お姉さんが先にアズリアちゃん、貰っちゃうわよ〜♡」
「だから駄目だって言ってるでしょ!こ、このお馬鹿精霊っ!」
「お馬鹿とは何よ〜結局は『契約』に踏ん切るのが怖いんでしょ?ドリアードちゃんの臆病モノっ!」
ついには卓を飛び越えてきた大樹の精霊と水の精霊がもつれ合い、掴み合いながら口喧嘩するという収拾不能な事態となる。
何しろここは精霊界だ。
二人を諫めたり宥めたりしようにも、精霊界には誰も入って来れるハズはないのだから。
だがその精霊界に、取っ組み合いを続けている大樹の精霊と水の精霊を諫める第三者の声がしたのだ。
「……まったく、騒がしいなお前たちは。二人の顔を見るのも久しぶりだと言うのにな」
登場した第三者とは誰なのかはまだ秘密です。
この話は三章のどこかで繋がる話になる予定です。




