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53話 アズリア、西の魔王に求婚される

予告通り、この話で第二章は終了となります。

 央都を発ってから5日ほどメルーナ砂漠を徒歩で横断しながら北へ向かっていくと、砂漠地帯を抜けたその先には大きな山が連なってアタシの行く手を阻んでいた。

 どうやらこの山岳地帯を越えないことには、次の目的地には到着出来ない様子だ。


 今夜は、砂漠を抜けしばらく歩くと見えてきた宿場町に到着出来たので、久々に固い地面にではなく柔らかいベッドで寝ることが出来そうだ。

 酒場で噂話を拾ってみると、央都へ魔族が侵攻してきた情報はもう下火になっていて。今はどちらかと言えば央都の復興のために人手を必要としているため、酒場に集まった人らもほとんどが央都に向かう連中のようだ。


 宿で何とか個室を取れたので、周りに遠慮なくベッドに転がり、ここ数日の野営の疲れを癒していく。

 ふと、頭に浮かぶのはハティの顔と唇の感触。


「アタシのこと……好きとか、言われちゃったよ」


 多分……アタシもハティを恋愛対象として好きかどうかと問われれば、好き……だと思う。

 だからこそ、ハティの気持ちに応えるためにも一度アタシは過去を清算する必要があった。


「待ってくれてる、って言ったんだからな……全部決着させて、戻ってきたら隣に知らない女がいたら……勢い余ってハティをどうかしちゃうかもしれないねえ……くっくっく」


 アタシももう23歳という決して若くない年齢だ。

 男女の営みを知らない年齢でもないし、一夜限りの関係ならばそれなりの相手と回数を経験してきた。

 6年間の一人旅と傭兵稼業で各地の風習や戦闘経験は豊富に積んできたつもりのアタシだが、恋愛となると話が変わってくる……恋愛に関しては、駆け出しの初心者だと認めざるを得ない。

 だから、勝手に女が出来たと仮定してその相手に嫉妬してしまうほど、アタシはどうしようもなくハティの事で頭がいっぱいなわけだったりする。


 結局、ベットに入ったもののハティの事ばかり考えてしまい全く眠気が降りてこなかった。

 気がつけば部屋の小窓から見える空が白じんて夜が明け、一睡もしないまま朝を迎えてしまっていたのだ。


「……うう、寝てないから頭が重い……でも目はギンギンに冴えてるって、野営の時はそこまで考えなくても寝れてたのに……」


 頭を抱えて町を後にし、さらに北へと向かう。

 眠気が取れなくて重い頭と自己嫌悪で、すっかり気が抜けていたアタシに、声を掛けてくる気配がふと現れたのだ。


「よお、アンタが魔族を打ち倒したって噂のアズリアって女戦士か?……なんか、それほど強そうには見えないけどなぁ」


 短い髪を針鼠(ヘッジホッグ)のように真上に立てたような銀髪に金色の瞳、筋肉の付き具合など、どう見ても人間ではなく狼か何かの獣人族(ビースト)を思わせる外見の男が、軽薄そうな口調と好戦的な視線でアタシを品定めしてきたのだ。


 獣人族(ビースト)

 様々な動物の外見的な特徴を持った人型の種族の総称となっていて、基礎体力や身体能力は人間よりも総じて高く、外見的特徴を引き継いだ動物種の特殊能力を有していることが多い。

 個体数が少ないことと、一部の国家では人間重視の政策から獣人族(ビースト)への差別が公認化されていることもあり、人間との関係は地域によって様々となる。

 ちなみにこの砂漠の国(アル・ラブーン)獣人族(ビースト)にはかなり寛容だが、隣国シルバニアなどは獣人族(ビースト)を認めてはいるものの人間より一段下に見る傾向がある。


 まあ、たとえこの獣人族(コイツ)にどんな事情があろうとも、アタシに喧嘩を売るような態度を取る事が許される謂れはない。

 しかも今アタシは一睡もしてないから苛ついているのだ。


「……朝っぱらから随分なご挨拶じゃないか。いいよ、アタシは今ちょうど身体を動かしたかったんだ。喧嘩なら買ってやるから外へ出なよ」


 目を細めて冷たい視線を送りながら、その獣人族(ビースト)に顎で町の入り口を指していく。


「いや、そんな怖い眼をするなよ。気を悪くしたなら謝るからさ。俺はただ、配下だった蠍魔人(コピオス)を倒した人間ってヤツを一目見たくて挨拶しに来ただけなんだからさ」


 ……今、コイツ。

 聞き捨てならないことを吐いたような?

 色ボケしていたアタシの頭の中が一変し、危険を告げる警戒音が最大音量で鳴り響く。


「で、アンタがアズリアなんだろ?」

「……人の名前を聞く前に、自分の名前を名乗るのが人間の礼儀ってヤツだよ」

 

 アタシは背中の大剣の握りに手を置いて、目線を目の前の獣人族(ビースト)から離そうとしなかった。

 その獣人族(ビースト)はというと「おお、そうか」と手を叩いて、アタシの言い分に納得した様子で、


「俺は遙か西の果てにある魔王領で、そこに住む獣人の連中を一つにまとめている四天魔王(フォーゼリオン)の一人、名をリュカオーンっていうんだ。まあよろしくな、アズリア」


 魔王と名乗るものの、そうだとは到底思えぬような歯を見せる満面の笑みを浮かべて、アタシへと手を差し出してくる自称・魔王の獣人(ビースト)


「で?……アタシのところにわざわざ来たのは配下を倒された敵討ちってわけかい」

「いやいや、あの蠍魔人(コピオス)は俺の知らないところで勝手に人間に手を出してくたばったんだからな……勝手に仲間を動かした罪で俺が動くところをお前のおかげで手間が省けたんだ。礼こそ言えど、敵討ちなんて面倒な真似をお前とする気はねえよ」


 と、両手を上げて自分が戦う意志が無いことを示す西の魔王(リュカオーン)

 ……いや、魔王を自称するだけの実力者に両手を上げてもらったところで、アタシの安全はこれっぽっちも保証されないのだが。

 

「でも……そうだな、よく見るとお前、人間にしてはなかなかいい女じゃないか。うんうん」


 そんな困惑するアタシの様子を観察するように、時折りしゃがんだりしながら下から上まで舐めるような視線でアタシを値踏みしていき。

 一人で勝手に納得して何度も頷いていた。


「言っておくけど、いきなり現れた魔王とやらにいい女と言われてもね……それで嬉しがるほど節操無しじゃないんだよアタシは」

「……イイねえ。そういう頑なな態度も気にいったぜ。よし決めた!アズリア……俺の嫁になれよ」


 アタシの視界から突然消えた魔王(リュカオーン)が真横にまるで瞬間移動をしたかのように現れ、顎をクイッと掴まれて、アタシより魔王のほうが背が高いためか無理やり上を向かされて唇を奪われそうになる。

 その顎を掴んで魔王の手を払い除けるアタシ。


「ふ……ふざけんなよ!アタシはアンタの、魔王の嫁になんかならねぇ!

「魔王である俺の申し出を断って手を払うとは、面白え……なら力づくで連れ帰るしかねぇな。まあ、今日は挨拶だけと言ったから大人しく帰るが」


 魔王の足元なら魔法の光が溢れてきて、


「……チッ、時間切れか。いいかアズリア、今度お前のところに来た時は嫁として強制的に連れ帰る。嫌だと言うなら、次に遭う時まで俺を倒せるだけの実力を身に付けてみろ」


 その光の奔流に飲まれ。

 魔王の姿がまるでその場に最初からいなかったかのように掻き消えていった。


 顎を掴まれた時の魔王の指の感触。

 ハティの時と違って、全然胸がドキドキしない。


 ただ……ただ不快でしかなかった。


 そして、過去の精算というアタシの旅の目的に「求婚してくる魔王より強くなる」という目的が、不本意ながらも追加されてしまったのだった。

 

最後、またしまりのないオチになってしまいましたが、多分これで散らばっていた伏線は回収出来ていると思います。

もし、まだ回収出来ていない設定や、意味不明な設定などがありましたら感想などで教えて貰えると大変ありがたいです!


ここまでお付き合い頂いた読者の皆さん。

大変ありがとうございます。

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